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九十四話 あの時のこと ①
しおりを挟むフィンレルside
あの舞踏会の時にこんなことになろうとは思ってもみなかった。
舞踏会の前に王太子妃殿下エレナとベレッタの義妹のフローリアがあの夜会以降頻繁に二人だけの茶会を開いているとの情報が入ってきた。
それはうちの手の者やラバートリー卿、レノバングリー公爵のアンジェリカ様など複数からの情報だった。
それをベレッタにも伝えて、私もだがベレッタには極力気を付けるように言っていた。
ベレッタの護衛を増やしたり、急遽影をつけたりもした。
今までうちは影を持っていなかったが、今一番狙われるのはベレッタであるからラバートリー卿に依頼して、こちらでラバートリー卿の諜報部の人間を貸してもらったのだ。
少なくともしばらくは貸してもらわないといけないだろう。
今後我が家でも影を持つ必要があるかもしれないが…。
そんな準備をしてから陛下主催の舞踏会にベレッタと参加した。
常にベレッタに注意を払い側を離れないようにしていたし、会場の外の廊下にはケイトや私の従者、護衛、影も配置していた。
彼らが会場の中に入ることは出来ないが、会場内では多くの目があるから大丈夫だろうと思っていた。
カエンシュルト伯爵のメリアンナ夫人とベレッタがバルコニーで涼んでくると言った時、私は会場の中のバルコニーだから何もないだろうとメリアンナ夫人とベレッタの二人だけにしてしまった。
ベレッタがバルコニーに向かってしばらくすると会場内で大きな食器が割れる音がした。
多くのシャンパンの入ったグラスが乗ったテーブルワゴンが倒れた音だった。
その近くにカエンシュルト伯爵閣下がいて、閣下の腰から下の服がシャンパンでビショ濡れになってしまい、私は心配になり閣下の所へ歩み寄る。
その時血相を変えたメリアンナ夫人が慌てて戻ってきた。
メリアンナ夫人と一緒だったベレッタもすぐ後で戻ってくるだろうと思っていたのに、いっこうに姿が見えない。
私は何だか不安になりベレッタがいるはずのバルコニーに急いだ。
だが、そこにベレッタはいなかった。
どこかへ一人で行ったのだろうか?いや、ベレッタが勝手に一人でどこかに行くはずがない!
私は言い知れぬ不安が押し寄せてくる。
私はバルコニーの周辺を隈なく調べることにした。
ベレッタの持ち物などは落ちていない…何もないか…不安に思ったのは気のせいでベレッタは会場のどこかにいるんじゃないかとその不安を打ち消そうとした時。
バルコニーの柵の一番上の所に目がいき靴跡があるのを見つけた。
こんなところに靴跡?王宮のバルコニーだぞ、それも今日舞踏会が行なわれる会場内にあるバルコニーの柵だ、そんなことは有り得ない。
それが気になり柵の下の方や、周辺の見える範囲の壁などを調べたら他にもバルコニーの下の壁などにも複数の靴跡があるのを見つけた。
これは!どう見ても男の靴跡だ…。
えっ?これはどういうことなんだ?
もしかしたら誰かが下からよじ登ってバルコニーからベレッタをさ攫ったのではないか?
まさかそんなことが出来るのか?下には警備の騎士もいるのに…いや、王宮の者でそれなりの地位なら下の騎士に指示が出来るかも?複数なら有り得るか?
私は血の気が引いていき、ドクドクと心臓の音が早まってくる。
そこにメリアンナ夫人がやってきてベレッタがいないことを知ると口に両手を当て顔色を青くして、今にも倒れそうなくらいブルブルと震え出した。
カエンシュルト伯爵閣下が夫人を支える。
私は慌てて会場外の廊下にいるケイトや護衛たちのところへ人を掻き分け走る。
ケイトたちにベレッタが居なくなったことを伝えてすぐ様捜索するように指示する。
顔色が悪くなったケイトがすぐさまどこかへ走り出した。
それからアンジェリカ様夫婦、カエンシュルト伯爵夫婦、エンディナー夫婦、ナイゲル夫婦も集まってきて、動ける者たちに指示を出してくれた。
そこに「フィンレルどうした?」と声が聞こえた。
振り返えるとそこに王太子ギルバードがいた。
「ベレッタが…妻がいなくなったんだ…」
「何?…そう言えば私が少し目を離した隙にエレナが居なくなったんだ…最近怪しい動きをしていたのを私は知っていた…!わかった!すぐに王宮内の騎士に捜索させる!」
「殿下ありがとうございます!」
「構わん!私にも関わる重大なことかもしれんからな!一応王太子宮も調べさせる。
あそこは決まった者しか入れぬからな。
それと陛下には今から私が伝えておく」
「殿下申し訳ありません!よろしくお願いします!」
それから大掛かりな捜索が始まった。
他の招待客には何も伝えず、会は続行されているがかなりの騒ぎだったのだ、何かがあったことは誰の目にも明らかだっただろう。
だが陛下からのお言葉があり会はそのまま続行された。
下手に会を中止にして参加者たちが騒いで混乱して人々があちこちに散らばるのを避ける為だろうと思う。
それから王宮内の客室から休憩室に使われている所など虱潰しに捜索して行った。
ギルバードの指示で多くの王宮の騎士が動いてくれたのは有り難かった。
私自らベレッタを探しに行きたかったが、私があちこちに動いていると、情報伝達が遅れる恐れがあるからとギルバードと一緒にいるようにと言われ、客室のひとつで逸る気持ちを押さえて、騎士たちの捜索を待った。
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