怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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九十三話 夢の中のわたくしと私

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 私は夢の中で真っ白なモヤの中のようなところでベレッタに会った。

「えっ?私?いやベレッタ?」

「はい、ベレッタでごさいます」

 ベレッタが微笑んだけれどそれは私の笑みとは違っていて、儚い淡い微笑みで元のベレッタだと私はすぐにわかった。

「…ベレッタ様?ごめんなさい!私ベレッタ様を奪ってしまったの!そんな!…」

 私は目の前のベレッタを見てパニックになる。

「ああ、違いますわベレッタ様…何か自分を様付けで呼んで変な感じですわ」

 ベレッタが困ったように儚げにふんわりと笑う。

「私前世美園って名前でしたの!」

 私は前世の名を慌てて名乗る。

「ミソノ様ですか、ではそう呼ばせて頂きますわ。

 ミソノ様違いますのよ。

 わたくしは子が生まれた時に亡くなっていたのですわ」

「えっ?…」

 私は驚いてベレッタから聞かされた真実に胸がドクンッとなる。

「そう、ミソノ様がわたくしの身体に入る前にわたくしは確かに心臓が止まり亡くなっていたのです。

 心臓が止まってから気付いたらここにいましたの」

「えっ?…そうだったんですか?」

 私はベレッタに確認するように見つめる。

「ええ、わたくしはミソノ様はご存知だと思いますが…実家での生活そして結婚してからの生活そして子を妊娠してから…それらすべてに絶望していたのです」

「っ!…」

 私は改めてベレッタの口から聞かされて言葉が出てこない。

「ですから子を産む時にもう生きていたくないと強く思いましたの…そうしたら希望通り死ぬことが出来ました。

 そしてここへやってきても何も思わなかったのです。

 悲しいとか辛いとかも…楽になれたと思ったくらいでしたわ。

 でもここで神が今のわたくしの様子を見せてくれたのです。

 そうしたら死んだはずのわたくしが生まれた息子の為に一生懸命頑張っているではありませんか。

 わたくしの変わらない状況から息子の為に何とか変わろうと奮闘しておられる…わたくしはそのミソノ様であるわたくしの姿を見て気付きましたの。

 わたくしの子が生まれるというその時にわたくしは自分のことしか考えることが出来なかったと…」

 ベレッタの落ち込む姿を見て私は胸に込み上げてくるものがあり。

「それは仕方のないことだったと…」

 ちゃんと言葉に出来なくて情けなくて顔がクシャッとなってしまう。

「そんなことはありませんわ。

 自分のお腹から大切な我が子が産まれ落ちようとしているのに、わたくしはその子のことを一切考えてあげることが出来なかったのです。

 もしミソノ様がわたくしになって下さらなければ、わたくしの子はどうなったのだろうと思うと…わたくしは何て罪深いことを望んでしまったのだろうと思いました。

 ですからわたくしはミソノ様にとても感謝しているのです。

 あの子の為に一生懸命頑張って下さって本当にありがとうございます」

「いいえ、…あの、ベレッタ様今からでも戻れるのですか?」

 自分で言いながらベレッタ様が戻ったら、私はもうラファエルにもフィンレルにも会えなくなるんだと思うと胸がツキンッと痛くなった。

 前はベレッタがいつ戻ってきてもいいようになんて言ってたのに私は…。

「それでよろしいのですか?ミソノ様はそれが望みなのですか?」

「えっ?」

 私はいつの間にか俯いていた顔をベレッタの言葉でハッと顔を上げる。

「ふふっ、意地悪を言って申し訳ございません。

 わたくしが戻れる事はごさいませんわ。

 だってわたくし死んでしまいましたからね…。

 それに息子の為にも侯爵様の為にもわたくしが戻る事は望みませんわ。

 息子と侯爵様の母、妻は今のベレッタ、ミソノ様ですわ」

「ベレッタ様…」

 ベレッタが口角を上げて寂しげに微笑んだ後、いったん後に振り返った後私の目を真剣に見つめてきた。

「わたくしね、次にわたくしが生まれ変わることを神が許して下さるなら今のベレッタ、ミソノ様の子として生まれたいと思っておりますの」

「それは神様が許して下されば実現するのですか?」

 私が言うとベレッタが悲しげに微笑む。

「わたくし結果的には出産がきっかけで亡くなりましたが、ある意味自死ですもの…神が許して下さるかどうか…」

「あの!今神様に会えないのですか?私からお話してお願い出来ないですか?」

 ベレッタがパチパチと目を瞬く。

「ふふふっミソノ様は本当に面倒見の良い方ですね。

 でも残念ながらミソノ様は今は神にお会い出来ませんわ。

 神は今生きている方には滅多にお姿をお見せにならないようなのです。

 いずれはミソノ様も神とお会い出来る日がくるでしょうけれど…。

 ミソノ様わたくしの為にありがとうございます。

 もし許されるのならわたくしがミソノ様の子になっても良いですか?」

「もちろんです!あっ!でもそうなるとフィンレルが父親になりますけど…いいのですか?」

 私はしまったと思ったけど言ってしまった。

 私の後先を考えないで発言してしまうところは反省しないと!

「わたくしは構わないですわ。

 わたくし侯爵様のこと恨んだり憎んだりはしておりませんのよ。

 寂しいなとは思いましたが、わたくしなど愛されるはずがないとずっと思っておりましたから…だからもし生まれ変われるのならミソノ様の子に生まれ変わってもう一度やり直したいですわ。

 でも侯爵様の方がお困りになるかしら?」

「フィンレルには言わなければわからないですわ。

 ベレッタ様がお嫌でなければてますけれど!」

 私が言うとふふっとベレッタが悪戯っぽく笑って私もベレッタを見て一緒に笑った。

「女二人でフィンレルをガンガン責めて言い負かしてやればいいんですよ!」

 私が言うと。

「あら、とても楽しそうですわ、いいですね」

 とベレッタがスッキリしたような笑顔を見せてくれた。

「ああ、もうすぐお時間のようですわ。

 わたくしミソノ様にずっとお礼を言いたかったのです。

 それを神が聞いてくれてこの場を用意して下さったのです。

 あらためてベレッタを救って下さって本当にありがとうございました。

 息子を育てて下さってありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願い致します。

 絶対息子と侯爵様と幸せになって下さいませ…」

 そう言ってベレッタは消えていった。

 私はしばらくあれ?あれ?と辺りを見回す。

 でもベレッタは消えてしまったんだ。

 少しの間戸惑って辺りを見回してどうするべきかと思っていたけど、ベレッタとの会話を思い出して私は笑みを浮かべた。

 私にわざわざお礼を言う為にこの場を作ってくれたんだと思った。

 どこかスッキリとした笑みを浮かばていたベレッタに会えて素直に良かったなと思った。

 私がベレッタとして精一杯生きることが大切で私がやるべきことなんだと切り替えた。

「ベレッタ…私の方こそありがとう。

 私これからも精一杯後悔しないように生きるね!

 神様どうかベレッタを私の子にしてください!お願いします!

 ベレッタまた会いたいな!絶対会おうね!

 それまで私自分なりに精一杯楽しんで生きるよ!それまでバイバイ!」


 私はふぅっと意識が浮上して目が覚めた。





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