怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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八十一話 大本番の夜会ですわ ④

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「ほぉ~そこまで調べておられるのか?」

 閣下はその野生的で迫力のある美貌の顔をニンマリとさせた。

「そういえばサウスカールトン侯爵領は数多くの優秀な馬を輩出していることで有名だね!」

 閣下が続けて発言した。

「はい、その通りでごさいます。

 我が領の馬はとても優秀でございます。

 それに馬具職人もとても優秀な者が集まっており、馬具においてもどこよりも素晴らしい品質を保っていると自負しておりますわ」

「フフッ侯爵夫人はしっかりしていてなかなか腹が据わっているね~。

 私に商談を持ちかけようというのかな?」

 閣下の顔が少し鋭さを帯びてきた。

 これが皇族の迫力というのだろうか?覇気を感じで足元から震えがきそうになるが、ここで怯んではいけないと私は心の中で叱咤する。

 フィンレルとの打ち合わせでフィンレルが話を持ちかけるより、私の方が良いだろうと判断して私から持ちかけているんだ。

 ここは私頑張りどころよ!

「そうでごさいますわ。

 フィンレル様もわたくしも自領のこと領民のことを誇りに思っております。

 そしてどこに出しても恥ずかしくない技術を持っていると自負しておりますの。

 ですからお相手がどの方でもチャンスがあればお話を持ちかけさせて頂きますわ」

 私はジッと閣下を見つめ返す。

「フッ、ネーシア!侯爵夫人はなかなか豪胆な人のようだよ」

 閣下が夫人をうっとりと甘く見つめながら、夫人に話を振る。

「ええ、とても聡明で思いっきりの良い気持ちの良い方ですわ。

 アンジェの言う通りね」

 ここで夫人からアンジェリカ様の名前が出てきた。

「公爵夫人はアンジェリカ様のご友人なのですね」

 私は夫人に顔を向ける。

「ええ、アンジェはわたくしの大切な友人の一人ですわ。

 今までどれほど助けられたかわからない程ですの」

「はい!アンジェリカ様は美しいだけでなくとても優しくて思いやりがあって素敵な素晴らしい方ですわ。

 わたくしも感謝しても仕切れない程でございますの」

 私はアンジェリカ様のことを熱弁する。

 公爵夫人が目を見開いた後美しく微笑む。

 ああ、夫人ネーシア様もとっても美しいわ。

「ええ、わたくしも同意ですわ」

 ネーシア様は自分のことのように嬉しい顔をする。

 この人もきっと良い人なんだ、少しの時間だけでもわかるわ。

「はい!わたくし夫人のお話もお伺いしたいですわ。

 アンジェリカ様のお話はもちろんのこと、夫人自身のことをとても興味を持っておりますわ」

「まあわたくしのこと?」

 ネーシア様が目をパチパチとさせる。

「ええ、わたくしは馬がとっても好きなのですけれど、まだ馬に上手に乗れないのですわ」

「あら、夫人は乗馬をされますの?」

 ネーシア様は意外という顔で尋ねてくる。

 この国の女性は女だてらに馬に乗るなどと風潮があり、特に貴族女性は馬に乗る人は本当に少ないらしい。

 ネーシア様が嫁がれたセンブュート帝国は貴族女性でも乗馬をする人が比較的いるそうだけど。

「そうなのです。

 フィンレル様がやってもいいと言って頂きましたので、少しずつでございますが乗馬を習っておりますの。

 いずれ息子も貴族子息として乗馬が必要となりますでしょ?いつか息子と一緒に馬で遠出を出来るようになるのがわたくしの夢なのです」

「わたくしも一緒ですわ!

 わたくしも子供と乗馬をすることが夢ですの!」

 ネーシア様が興奮気味に言った。

「おっと子供となのかい?私とは?それは妬けるな~」

 そこで閣下がネーシア様の頬に触れながら拗ねたように口を尖らせる。

 ほんとに甘々ね!閣下がネーシア様が一番、ネーシア様しか見えていないのがよくわかるわ。

「もぉ!ノア貴方とはしょっちゅう一緒に遠出してますでしょ!

 子供とは将来のわたくしの夢なのですわ」

「それでもだよ、私はいくら子供相手でも君を取られるのは嫌なんでね」

 ネーシア様もうっとりと閣下を見つめる。

 わぁ~砂吐くくらいに甘い雰囲気だわ。

「侯爵閣下、夫人ごめんなさいねぇ~。

 ねぇ、わたくし夫人ともっとお話がしたいわ、ノアいいかしら?」

 ネーシア様から私ともっと話をしたいと閣下にお強請りする。

「ふぅ~ネーシアは一度言ったら聞かないからね。

 仕方ないね、良いよ。私は侯爵閣下とジークと話してるよ。

 でも絶対近くにいてね、離れた所に行っては駄目だよ」

 閣下がネーシア様に言い聞かせるように言う。

「もぉ、わかってるわ幼い子じゃないんだから!」

 今度はネーシア様が閣下を見ながら口を尖らせて拗ねてる。

 めちゃくちゃ可愛いわ。

 私がフィンレルを見上げるとフィンレルが甘く私に微笑かける。

「ベレッタ大丈夫かい?」

「ええ、フィンレル様大丈夫ですわ」

「必ずこの辺の私の目の届く範囲にいてくれよ。

 何かあればすぐ呼んでくれ」

 フィンレルまでもそんなことを言ってくる。

「わかりましたわ。フィンレル様もお気を付けて」

「ああ、わかった」

 そう言いながらフィンレルが私の頬に優しく触れてきた。

 私は顔が赤くなる。

「まああちらも熱々ね」

「ああ、そうだね。良かったじゃないか」

「ええ、本当に」

 閣下とネーシア様の会話が聞こえてきた。



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