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七十五話 初めての夜会に出発ですわ
しおりを挟むアンジェリカ様主催の夜会に出席することが決まってから、あまり時間はないのだけど、ダンスのレッスンの時にフィンレルと練習することになったの。
この国の夜会は舞踏会と違って参加したらパートナーとダンスを踊るべきというのではないらしいんだけど、フィンレルとダンスを踊ってさらに夫婦円満をアピールするのが良いわ!とメリアンナ様に言われたからフィンレルとレッスンすることになったのよ。
今までメリアンナ様と共にレッスンしてくれるグレーの髪の壮年のダンス講師の男性がパートナーとなってレッスンしていたのだけどもちろん緊張していたわよ。
男性とこんなに間近でグローブ越しとはいえ、肌が触れ合うのだから、いくら前世既婚者で六十代の女性でも、社交ダンスなんてしたことがないし、身内以外の男性とそんなに近くで接するなんてことなかったもの。
それにベレッタになって前世を思い出してから、夫のフィンレルともそんな近い距離なんて一度もなかったし、他の男性とももちろんなかったからね。
ダンスの講師の時は緊張はしていたけど、私の今の姿勢はどうだろう?とか次のステップは…とそういうことの方に気を取られていたのよね。
でもいざフィンレルとのレッスンになったら、今までは何だったんだろう?っていうくらい緊張したわ。
顔が間近にあったり、フィンレルに腰を触れられただけで私はドキドキしてしまったの。
どうしてかしら?いくら飛びっきりの美形でもフィンレルのことは何とも思ってないはずだったのに…。
凄く緊張しているから姿勢や顔の向きとか、ぎこちないステップにメリアンナ様とダンスの講師にいっぱいダメ出しされてしまった。
一方フィンレルは幼い頃からの訓練の賜物か、姿勢は美しいし、華麗なステップを踏んで私のことをフォローすることまでちゃんと出来ている。
そりゃ年季が違うことをわかっているけどここまで差があるかと私は落ち込んだわ。
でもフィンレルは終始機嫌良くて、何なら私を見つめる視線が熱い。
えっ?フィンレルって?いや!違うわね。
これから度々夫婦円満をアピールしなきゃいけないからのよね。
私のことなんか何とも思っていないわよね!
私はね、本当はどこかでフィンレルのこともわかっているはずなのに、意地を張っているのかそれを認められずにいた…。
そしていよいよレノバングリー公爵邸での夜会の日がやってきた。
私はフィンレルの髪と瞳の色のAラインドレスだ。
私は背も胸もちっちゃいし体型も寸動のお子様体型だから、身体のラインがあまり出るものは似合わないはず。
私前世も胸がちっちゃかったからアンジェリカ様みたいに大きい方が良かったなぁなんて思ってしまうけど、こればっかりはしゃーないよねぇ。
私は既婚者だからプリンセスドレスだと幼く見えてしまうし、この国ではプリンセスドレスは未婚の貴族令嬢が着るものと言われているらしく、だから私はふんわりとしたAラインのドレスにした。
私が作ってもらったドレスはエンパイアかAラインのドレスばかりなのよ。
でもデイドレスとは違って豪華で肌の露出も増えたのよ!
ドレスの生地の上にシフォンという同じ色の透けた生地が胸の切り返し部分から足元まであって、たくさんのダイヤモンドのスパンコールがそのシフォンの生地に小粒の雪のように散っている。
胸元は控えめでそんなに開いたものではなくふんわりと鎖骨の上からから腕までをヒラヒラした生地が覆っている。
袖はないからドレスと同じ色のレース生地に銀色の刺繍があしらわれたロンググローブをすると、二の腕から肩が見えるくらい。
アクセサリーはお茶会の時とは違ってネックレスもイアリングも水色の大きめの宝石が付いたもの。
それにフィンレルが送ってくれた指輪と白いパンプスってスタイルなの。
フィンレルはダークブラウンのスラックス、ジレとフロックコートに白の胸元にヒラヒラがついたシャツに白のスカーフタイをしていて、タイの上には大きな琥珀色の宝石が付いたブローチをしていて、私にくれた同じデザインのこちらは琥琥珀色の宝石が付いている指輪をしている。
コートのボタンにも琥珀色の宝石があしらわれていて、フィンレルも私の髪と瞳の色の意匠となっている。
フィンレルは水色の髪と瞳でキリッとしたものすごい美形だから、華やかなものが似合いそうだけど、シックなダークブラウンのスーツも似合っているわ。
フィンレルはいつも下ろしている前髪を上げてオデコを出していて、正装を見るのも初めてでとても精悍で美しくて洗練された貴族男性がそこにいた。
何だかいつもと違うフィンレルに意識してしまって、ドキドキしてしまっていることは表には出さないようにした。
そのフィンレルと共に初めて一緒に馬車に乗ったのだけど、フィンレルは終始甘い雰囲気で熱のある水色の瞳で私を見つめてきて「ベレッタ凄く似合っていて美しいよ」「ベレッタが私の色を纏ってくれていることがとても嬉しいんだ」「君がその色を纏うととても知的な色に見えてくるから不思議だ」と私を褒めまくってくるのよ。
「っ!…ありがとう、ごさいます。
フィンレル様もとても素敵で似合っておりますわ」
私もフィンレルを褒めるとフィンレルはとても嬉しそうに頬を赤らめた。
そんなフィンレルを見てると私も顔が熱く火照ってくる。
いや!これは夫婦円満アピールには必要なのよ!まだ馬車の中で周りに人はいないけどね!と私は自分に言い聞かせたわ。
さて馬車がレノバングリー公爵邸に到着して、フィンレルのエスコートで馬車から下りてフィンレルが差し出す腕に自分の腕を絡めて私たちは門へ向かう。
そこには圧倒的な美男美女が立っていた。
アンジェリカ様はご自分とジークハルト様の髪色のプラチナブロンドの身体のラインが出るドレスを着ている。
裾が少し膨らんでヒラヒラとしているからマーメイドラインのドレスというのかしら。
私はドレスのことなども詳しくないけどそれくらいはわかるわ。
胸のとこが大きく開いていて、形の良い豊満な胸がハッキリとわかるくらいなの。
羨ましい~あっ違うわ!
そのドレスにはジークハルト様の瞳の色である緑の宝石がキラキラと満天の夜空に輝く星々のようにプラチナブロンドのドレスに集まってきているようで、とても華やかで美しく、ペンダントイアリング、指輪も緑色の宝石があしらわれている。
一方ジークハルト様はアンジェリカ様と同じプラチナブロンド色のフロックコート、スラックス、ジレを着ていて中のシャツはアンジェリカ様の瞳のアメジストのような濃い紫なの。
そのシャツはフィンレルが着ているものと同じようにヒラヒラが付いているのだけど、その紫のシャツがとても上品で似合っていて、ボタンなどにも紫の宝石が付いていて、ジークハルト様もアンジェリカ様とお揃いの指輪で紫の宝石が付いているものをしている。
ジークハルト様はフワフワのプラチナブロンドの短髪に、エメラルドのような美しい翠眼に大きな目の童顔に見える見た目可愛らしい美形なんだけど、身長が高くて姿勢良く威厳を醸し出していて、どのから見ても立派な高貴な紳士だわ。
「ほぉ~」お二人があまりに美しくて私は彼らの前で感嘆の溜息を吐いた。
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