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六十一話 旦那様とのお話は問題山積みですわ ①
しおりを挟む私はフィンレルから元婚約者のネーシア様と夫である隣国センブュート帝国の第二皇子殿下、現カサドレル公爵閣下の話を聞いて、これはかなり厄介だと思った。
「なるほど…そのカサンドレル公爵ご夫妻が旦那様との婚約白紙以降、初めて我が国を訪れ二ヶ月後の夜会に出席されるということなのですね」
「…そうだ」
フィンレルが深刻な表情のまま答える。
「それは我が家にとってもとても重大なことですわね」
「…そうなんだ…私はまだいいが…君まで槍玉に上げられかねない…」
フィンレルは自分はいいが私まで貶められることを気にしているの?
「旦那様、自分はまだいいがなどと言ってはなりません!」
私がキッパリと言うと、フィンレルは俯きがちだった顔をハッと上げる。
「旦那様はサウスカールトン侯爵家の当主なのですよ。
私は駄目だけど、旦那様は貶められてもいいなんてことはないのですわ。
旦那様自体が貶められ軽く見られることは、家の為になりませんわ」
私がフィンレルを見据えながら言うと。
「確かにそうだが…君まで私のせいで嫌な目に遭うかもしれないと思うと…申し訳ない…」
「旦那様まだそうなると決まった訳ではありませんわ。
わたくしはメリアンナ様に付いてマナー礼儀を学んでいるのは、もちろん自分の為ではありますけれど、何よりこれからのサウスカールトン家、そしてわたくしたちの息子のラファエルの為なのですのよ!
わたくしはラファエルが後を継ぐ時に憂いなくすんなりと後継となって欲しいのです。
その為にはわたくしだけでなく旦那様が貶められ軽く見られてはならないのです!
旦那様が軽く見られるということはサウスカールトン侯爵家が軽く見られるということなのですわ。
そうではありませんこと?」
私がジッとフィンレルを見つめると。
「…ああ、そ、そうだな…」
フィンレルはすっかり自信を失くしているようだけど、ここで挫けてもらっては困るのよ。
「わたくし前も旦那様に言いましたけれど、過去は変えられませんし、みなそのことをずっと忘れないでしょう。
ですけれど、これからその評判を塗り替えることは可能であるとわたくしは思っておりますの。
その為には旦那様とわたくしが協力して、家の為、ラファエルの為に立ち向かう必要があるのですよ」
私が一気に語るとフィンレルの顔が引き締まる。
「…そうだな…ベレッタ、君と協力してこの家の為に君とラファエルの為に私はどんなことにも立ち向かうよ…もう弱気なことを言うのはやめにする!」
「そうですわ旦那様!
旦那様とわたくしは今度のその夜会でお互いの瞳の色の意匠を着て皆様の前に出て行くのです。
そうですね、元婚約者ご夫婦のことはお相手様がどう出てこられるかはわかりませんが、こちらは毅然として堂々と参加しましょう」
私がキリッと顔を作って言うと、フィンレルが大きく頷いた。
「わかった!君と二人で堂々と参加するよ」
「ええ、その意気です!よろしくお願い致しますわ」
私が微笑むとフィンレルもフワッと微笑んだ。
まあ美形の微笑みってそれだけでパワーがあるのね。
「…それともうひとつあるんだ…」
フィンレルはフワッと微笑んだけど、すぐに顔を引き締めて深刻な顔に戻る。
「はい、もうひとつとは何でしょうか?」
私は微笑んだまま首を傾げてフィンレルに聞く。
「…王太子妃殿下のことなんだ…」
おっと!ここでヒロイン?のことが出てきたわ、フィンレルは何を言い出すつもりかしら?
「はい何でしょうか?」
「…君も噂で知っているかもしれないが、妃殿下は王太子殿下と成婚されてからまだ子を授かっていない。
それで今までは王太子殿下が反対されていたが、成婚されて四年も経つから、まだ公にはなっていないが、この度側妃を娶ることが正式に決まったんだ」
あら、私は叔父から聞いて噂になっていることは知ってはいたけど、正式に決まったことは知らなかったわ。
王家に関することは叔父よりフィンレルの情報網の方が凄いということかしら?フィンレルは侯爵だから当然かもね。
フィンレルもそうだけど、王太子殿下も後継を生むことは必須だものね。
侯爵家より王家の方が絶対に必要であると思うわ。
四年経っても子に恵まれなかったらいくら王太子殿下が反対してもそうなるわよね。
よく四年も待ったと言えるのかもしれないのかしら。
この国では王侯貴族も平民も基本は一夫一妻制、多重婚は認められていない。
けれど、王家だけは後継の為に正妃に子が恵まれなかったら、側妃を娶ることは許されている。
それでも側妃は一人ずつで二人までと限定されている。
側妃を娶ってその側妃とも子に恵まれなければ、その後にもう一人だけ娶ることが許されている。
だけど側妃二人ともにも子が恵まれなかった場合は、他の継承権を持っている者の子が後継となる。
言いにくいけど、正妃だけでなく側妃にも子が恵まれないということは、王太子殿下の方に問題があると見做されるということなのよ。
表立って言われることはないけれど…でもみんなそう思うわよね。
だいたいは三年子に恵まれなかったら側妃を娶ることになっているけど、王太子殿下が反対していたということはかなり粘っていたということね。
だけどどうにもならなくなって渋々側妃を娶るということを承知したということよね。
で、フィンレルはそのことを話題にするということは、今も王太子妃殿下を気にしている、気持ちが残っているということで間違いない?
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