怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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五十話 叱られてしまいましたわ

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 私はそれから今まで以上に忙しくなった。

 夫人としての執務だけじゃなくフィンレルの分もだからね。

 アラン、フレオだけじゃなくケイトもとても優秀で当主と夫人の仕事を熟す私の補佐をしてくれていて、だいぶ助かっているわ。

 それにラファエルの乳母のジェシカもフィンレルが回復するまでお子様二人と共に邸に泊まり込んでくれることになったの。

 これでラファエルのことはとりあえずは心配はないわ。

 でもラファエルのことが気になるし、私にとってはラファエルが癒しだからラファエルに会いに行くことも忘れない。

 それとまだ侍女長がいないから侍女長がするべき邸内の使用人の管理、指示も手伝っもらいながらだけど私がやっているわ。

 フィンレルは初めの数日は今までの睡眠不足を取り戻すかのように、ほとんどベッドで寝ていたのだけど、三日ほどしたらだいぶ回復してきたようで、執務をしている寝室の前の部屋によくやってくるようになったの。

 そして私に叱られてベッドに戻るを繰り返すのだけど、フィンレルは何故か私が叱ると嬉しそうに満足気に満面の笑みを見せて、部屋に戻って行くのだ。

 何なの?二歳、三歳の幼児か!

 私と一緒に執務をしているアラン、フレオ、ケイトも呆れ顔よ。


 そんなバタバタしながらも忙しい毎日を送っていて一週間程して、私がちょうど侍女たちに指示をしている時に突然私は目眩を感じてふらついてしまった。

「「っ!…奥様!」」

 話している途中だった侍女二人が慌てて私を支えてくれる。

「ご、ごめんなさい…わたくしは大丈夫よ…」

 フィンレルに健康管理って偉そうに言っているのに、私も無理してしまっているわね。

 だってアランやみんなになるべく無理させたくないんだもの。

 フィンレルが倒れてしまったことは私の責任が大きい。

 だからフィンレルが回復するまでは私が頑張らないと!


 私は侍女二人に指示してから心配されたけど、大丈夫よと言って執務の続きをする為、部屋に一人で戻っている。

 今はケイトにも執務を手伝ってもらっているから、私は一人で戻っているんだけど、途中の廊下でまた目眩がしてふらついて、廊下の壁に手をつく。

「…奥様どうされたのでございますか?」

 女性の声が聞こえて振り向くと。

「…リリアンナ?」

 廊下の私の後にリリアンナが立っていたの。

 リリアンナが壁に手を付いている私に近寄ってきて、私を支えてくれた。

 それに私は驚く。

 リリアンナは私との面談の後、フィンレルが迎えに行って戻ってきてくれたけど、私には一切近寄ろうとはしなかったから。

「あ、ありがとうリリアンナ…」

「何なのですか?旦那様が倒れられたのに、奥様まで倒れられたら意味がないでしょう?」

 リリアンナがその人形のような顔のまま私に注意してきたわ。

「フフッ、リリアンナの言う通りね…ざまないわよね?」

 私がフフッと笑うとリリアンナは表情を変えずに。

「さあ、参りますよ、少しは休んで下さいませ」

「えっ?…わたくしは大丈夫よ…」

「そんな訳ございませんでしょう?とにかく今は休むべきですわ!」

 リリアンナは変わらず人形のように表情は変わらないけど、少し目を鋭くさせている。

「…でもやらきなきゃいけないこと山積みで…わたくしは休んではいられないのよ…」

「奥様も旦那様と同じことを言いますか…はぁ~仕方ありませんね。

 わたくしも領地経営の心得はございます。

 奥様が少し休息を取る間くらいわたくしに出来ることはお手伝いしますわ。

 これは邸の為、ここにいる使用人の為ですわ」

 リリアンナが尚も表情を変えずに言ったけれど、手伝いをしてくれると言ってくれたことに私は胸がジーンとして、目が潤んでくる。

「…リリアンナ…ありがとう…」

「ですから邸の使用人の為ですわ」

 リリアンナがツンッとして私から目を逸らす。

 でも私は嬉しくて嬉しくて顔が緩む。

「何でございますか!その締まりのない顔は!」

 使用人が主である侯爵夫人に利く口ではないけど私は尚も顔をニヤけさせた。


 私がリリアンナに支えられて自分の寝室に運ばれて、さっさと手際良く着替えさせられて、ベッドに寝転ぶ。

 そしてリリアンナが部屋を出て行ってしばらくすると、ケイトが飛び込んできたの。

「奥様!」

「ケイトごめんね…少し目眩がしてね…リリアンナに叱られてしまったわ」

 私がへラッと笑うと。

「…だから今度は奥様が無理をし過ぎですと言っておりましたのに…」

 ケイトが呆れながらも心配気に私を見てくる。

「本当ね、…ごめんなさい…旦那様にあんなに偉そうに叱ったのにね…」

 そこにノックもなしに扉が開く。

「ベレッタ!大丈夫なのか!?」

 夜着を着たままのフィンレルが血相を変えて飛び込んできたのだ。

「旦那様?!」

 私はフィンレルを見て目を丸くする。







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