怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

文字の大きさ
上 下
50 / 143

四十九話 旦那様が! ④

しおりを挟む




 アランに必要なものを持ってきてもらい、書類を見せてもらいながら引き継ぎをしてもらうことにして、ケイトにも指示して私の執務室に行って私がやらなければならない必要なものを取ってきてもらい、執事長のフレオを呼んでもらうことにした。

 アランとケイトが部屋を出て行ってから私はフィンレルのところへ向かう。

 音をなるべく立てないように寝室の扉を開け、フィンレルが眠るベッドに近付き側に置いてある椅子に座る。

「…旦那様そこまで疲労が溜まっていたのですね…全然気付かなくてごめんなさい…」

 戻ってきた最初の頃より少し顔色が戻ってきて、スゥスゥと穏やかな寝息を立てるフィンレルを見つめながら呟いた。

「旦那様が倒れてしまったのはわたくしのせいですわ…」

 私は少し乱れて目にかかっているフィンレルの水色の髪をそっと払うように触れた。

 フィンレルは少し身動ぎをして長くてフサフサの水色の睫毛が少し震えたけど、スゥスゥと良く眠ってままだ。

 私はそのまま艷やかな青空みたいな水色のフィンレルの髪を撫でる。

 撫でてみると、心なしかフィンレルの髪がパサついているのに気付いて、それが彼の疲労を物語っているようで私の胸がまたギュッと締め付けられた。

「旦那様は凄く頑張っていたのですね…わたくしとラファが生きる活力だと言ってくれたのですね…」

「……ベレッ、タ…ラフ、…ァエル…」

 突然フィンレルが私とラファエルの名を呼んだので、驚いて髪を撫でていた手をパッと離す。

「旦那様?…」

 私が声をかけたけど、フィンレルは眠ったままでうわ言でラファエルだけじゃなく私の名前を呼んだのだ、私は堪らない気持ちになる。

 今までフィンレルをちゃんと見ていなかったことに後悔が私の胸に押し寄せてくる。

「旦那様…本当にごめんなさい…これからはちゃんと旦那様と…向き合うようにしますね…早く元気になって下さいまし…」

 私はフィンレルの髪に手を伸ばしてしばらく撫で続けた。

 フィンレルが目覚めたらちゃんと謝らなくちゃねと思っていると、ガチャッと少し遠くに部屋の扉を開く音が聞こえた。

 アランかケイトが戻ってきたのか、フレオが来てくれたのかなと思い、私は寝室を音を立てないように静かに出て行った。


 それからアランとケイトに連れられてフレオが来てくれたので、アランに書類の説明などの引き継ぎを終えてから、アランに下がってもらってフレオとケイトに協力してもらいながら、私はフィンレルが休んでいる夫婦の寝室の前の部屋のソファで執務をするようになった。

 でもこれから手伝ってくれるアランとフレオ、ケイトが過労にならないようにしないといけないわね。

 ブラック企業真っしぐらにならないようにしないと!

 アランに引き継ぎしてもらった内容は前世の知識があれば、私でも難なく出来る事務で本当に良かったわ。

 でも前世みたいにパソコンもなければコピーもないから、すべて手書きで書類を作成していかなけらばならなくて、手間と時間が凄くかかるのよ。

 だけどそんなことを思っている場合ではないと私は執務に取り掛かった。


 フィンレルは翌日の朝に目を覚まして、主治医に診てもらうと最初の診察通り、他に異常はなく過労ということで、とりあえず主治医にはまた様子を見に来てもらうことにして、いったん帰ってもらうことになった。

 フィンレルは私の姿を見て身体をベッドから起こそうとしたけど。

「旦那様駄目ですわよ。

 貴方様はしばらく安静にして休養でございます」

 と私がフィンレルの胸の辺りに触って止めてまた寝かせると。

「…ベレッタ、…私は休んでいる場合ではないんだ…やらなけらばならないことがたくさんあって…」

「それらはわたくしとアラン、フレオ、ケイトで何とかなりますわ。

 今の旦那様のお仕事はしっかりと休んで回復することがですわよ!

 起き上がることはわたくしが絶対許しませんからね!」

「えっ?…」

 と私が言うとフィンレルはキョトンとする。

「旦那様、こんなにもお疲れになっていたことに気付かず申し訳ありませんでした!」

 私が横になっているフィンレルに向かって頭を下げると。

「えっ?…いや、…どうして君が謝るんだ?」

 フィンレルが目を丸くして瞼をパチパチさせながら言う。

「旦那様の健康管理も夫人の責任ですわ。

 わたくしはそれを怠ったのですから謝るのは当然のことですわ…本当にごめんなさい」

「…い、いや、…それは私が自分の自己管理が出来ていなかったからで…ベレッタ、君は何も悪くないんだ…」

 フィンレルが目を伏せながら言う。

 フィンレルは決して私を責めない。

 この人は本当に良い人なのね…私は自分がされたことにいつまでも怒って、彼が決して悪い人ではないとわかっていたのに、そこに目を向けずいつまでも彼を冷たくあしらってしまった。

 確かに過去のことは消えないけど、これからはちゃんとフィンレルにも目を向けようと思った。

「いえ、旦那様は放っておくとすぐ無理をしてしまうようですからね。

 これからわたくしが旦那様の健康管理をさせて頂きますわ。

 ですから今はベッドを出ることを許しません!

 わたくしはこの部屋の前の部屋にずっといますからね!

 基本的なお世話は旦那様付きの従者二人にお願いしますけれど、わたくしも様子を見に来ますからね!勝手に起き上がってきたら承知しませんわよ!」

 私がビシッと指差して言うと。

「っ!…あっ、ああわかった…」

 フィンレルが呆気に取られながら返事した。

 私はもう少し優しく言えないのか?フィンレルに対しては意地を張ってしまうみたいと思いながら寝室を出て行った。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...