怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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四十九話 旦那様が! ④

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 アランに必要なものを持ってきてもらい、書類を見せてもらいながら引き継ぎをしてもらうことにして、ケイトにも指示して私の執務室に行って私がやらなければならない必要なものを取ってきてもらい、執事長のフレオを呼んでもらうことにした。

 アランとケイトが部屋を出て行ってから私はフィンレルのところへ向かう。

 音をなるべく立てないように寝室の扉を開け、フィンレルが眠るベッドに近付き側に置いてある椅子に座る。

「…旦那様そこまで疲労が溜まっていたのですね…全然気付かなくてごめんなさい…」

 戻ってきた最初の頃より少し顔色が戻ってきて、スゥスゥと穏やかな寝息を立てるフィンレルを見つめながら呟いた。

「旦那様が倒れてしまったのはわたくしのせいですわ…」

 私は少し乱れて目にかかっているフィンレルの水色の髪をそっと払うように触れた。

 フィンレルは少し身動ぎをして長くてフサフサの水色の睫毛が少し震えたけど、スゥスゥと良く眠ってままだ。

 私はそのまま艷やかな青空みたいな水色のフィンレルの髪を撫でる。

 撫でてみると、心なしかフィンレルの髪がパサついているのに気付いて、それが彼の疲労を物語っているようで私の胸がまたギュッと締め付けられた。

「旦那様は凄く頑張っていたのですね…わたくしとラファが生きる活力だと言ってくれたのですね…」

「……ベレッ、タ…ラフ、…ァエル…」

 突然フィンレルが私とラファエルの名を呼んだので、驚いて髪を撫でていた手をパッと離す。

「旦那様?…」

 私が声をかけたけど、フィンレルは眠ったままでうわ言でラファエルだけじゃなく私の名前を呼んだのだ、私は堪らない気持ちになる。

 今までフィンレルをちゃんと見ていなかったことに後悔が私の胸に押し寄せてくる。

「旦那様…本当にごめんなさい…これからはちゃんと旦那様と…向き合うようにしますね…早く元気になって下さいまし…」

 私はフィンレルの髪に手を伸ばしてしばらく撫で続けた。

 フィンレルが目覚めたらちゃんと謝らなくちゃねと思っていると、ガチャッと少し遠くに部屋の扉を開く音が聞こえた。

 アランかケイトが戻ってきたのか、フレオが来てくれたのかなと思い、私は寝室を音を立てないように静かに出て行った。


 それからアランとケイトに連れられてフレオが来てくれたので、アランに書類の説明などの引き継ぎを終えてから、アランに下がってもらってフレオとケイトに協力してもらいながら、私はフィンレルが休んでいる夫婦の寝室の前の部屋のソファで執務をするようになった。

 でもこれから手伝ってくれるアランとフレオ、ケイトが過労にならないようにしないといけないわね。

 ブラック企業真っしぐらにならないようにしないと!

 アランに引き継ぎしてもらった内容は前世の知識があれば、私でも難なく出来る事務で本当に良かったわ。

 でも前世みたいにパソコンもなければコピーもないから、すべて手書きで書類を作成していかなけらばならなくて、手間と時間が凄くかかるのよ。

 だけどそんなことを思っている場合ではないと私は執務に取り掛かった。


 フィンレルは翌日の朝に目を覚まして、主治医に診てもらうと最初の診察通り、他に異常はなく過労ということで、とりあえず主治医にはまた様子を見に来てもらうことにして、いったん帰ってもらうことになった。

 フィンレルは私の姿を見て身体をベッドから起こそうとしたけど。

「旦那様駄目ですわよ。

 貴方様はしばらく安静にして休養でございます」

 と私がフィンレルの胸の辺りに触って止めてまた寝かせると。

「…ベレッタ、…私は休んでいる場合ではないんだ…やらなけらばならないことがたくさんあって…」

「それらはわたくしとアラン、フレオ、ケイトで何とかなりますわ。

 今の旦那様のお仕事はしっかりと休んで回復することがですわよ!

 起き上がることはわたくしが絶対許しませんからね!」

「えっ?…」

 と私が言うとフィンレルはキョトンとする。

「旦那様、こんなにもお疲れになっていたことに気付かず申し訳ありませんでした!」

 私が横になっているフィンレルに向かって頭を下げると。

「えっ?…いや、…どうして君が謝るんだ?」

 フィンレルが目を丸くして瞼をパチパチさせながら言う。

「旦那様の健康管理も夫人の責任ですわ。

 わたくしはそれを怠ったのですから謝るのは当然のことですわ…本当にごめんなさい」

「…い、いや、…それは私が自分の自己管理が出来ていなかったからで…ベレッタ、君は何も悪くないんだ…」

 フィンレルが目を伏せながら言う。

 フィンレルは決して私を責めない。

 この人は本当に良い人なのね…私は自分がされたことにいつまでも怒って、彼が決して悪い人ではないとわかっていたのに、そこに目を向けずいつまでも彼を冷たくあしらってしまった。

 確かに過去のことは消えないけど、これからはちゃんとフィンレルにも目を向けようと思った。

「いえ、旦那様は放っておくとすぐ無理をしてしまうようですからね。

 これからわたくしが旦那様の健康管理をさせて頂きますわ。

 ですから今はベッドを出ることを許しません!

 わたくしはこの部屋の前の部屋にずっといますからね!

 基本的なお世話は旦那様付きの従者二人にお願いしますけれど、わたくしも様子を見に来ますからね!勝手に起き上がってきたら承知しませんわよ!」

 私がビシッと指差して言うと。

「っ!…あっ、ああわかった…」

 フィンレルが呆気に取られながら返事した。

 私はもう少し優しく言えないのか?フィンレルに対しては意地を張ってしまうみたいと思いながら寝室を出て行った。







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