怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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四十七話 旦那様が! ②

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「旦那様!」

 フレオの言う通り三十分程で荷馬車に乗せられた旦那様が戻ってきて、門の前で主治医、フレオたちと待っていた私は思わず声を出して荷馬車に向かって走る。

 フィンレルが白く顔色がないぐったりと力が抜けた状態で護衛に抱えられて荷馬車から降ろされるのを見て私は呆然としてしまった。

 主治医も歩み寄ってきて、アランがフィンレルが倒れた時の状況を説明している。

 アランによると、視察先でフィンレルが突然倒れたらしく倒れた時は意識がないような状態だったが、声をかけ続けるとすぐに意識が戻ったのだそうだ。

 そのことが聞こえてきて、意識が戻ったと聞いてとりあえずはまだ良かったと思い、フィンレルが運ばれて行くのを私も小走りでついて行く。

 フィンレルは私と彼の部屋の間にある夫婦の寝室の大きなベッドに運ばれて寝かされた。

 今までこの部屋に入ったのは結婚してから初夜の一度きりで、以降まったく使われていない部屋だけど、ここの方が広いからとここに運んでもらうよう予め私が使用人に指示していた。

 私は久しぶりに入ったなと思う余裕などなく、主治医がフィンレルを診察するのを、祈るような気持ちで主治医の少し後に立つ。

 主治医が声をかけるとフィンレルは目を開かないものの、反応が返ってきた。

 主治医が助手二人に指示しながら診察を進めていく。

 主治医がフィンレルの全身を丁寧に調べていた。

 この世界は医療が割と進んでいるとはいえ、レントゲンなどはない。

 だから触診や主治医の目によるものがほとんどだが、血圧計や体温計はある。

 しばらくして主治医がフィンレルを診察をした後、体温の低下が著しいからと身体を温めるようにと助手に指示して、助手がフィンレルに毛布を二枚かけて、フィンレルの専属従者たちが部屋を温めていく。

 主治医がフィンレルに点滴をして診察は終わったようだ。

 この世界点滴もあるんだね。

 そして診察を終えた主治医と寝室を出たソファがある応接室へといったん出た。

「奥様、旦那様ですが脳や心臓、内臓などは正常なようです。

 どこにも浮腫などの異常も見られませんしね。

 ただ体温の低下が著しいので、今身体を温めて栄養補給の点滴をしております。

 異常は今のところ体温の著しい低下くらいです。

 恐らく過度の疲労の蓄積により倒れられたのだと思います。

 倒れられた時に意識がなかったのも過労によるものだと思われます。

 しばらくは安静にして休んで頂きましょう。

 心配はないと思いますが、今日は奥様が手配して下さった旦那様の隣の部屋で泊まらせて頂いて、様子を見させて頂きますね」

「先生感謝申し上げます」

「いえいえ、それでは私は隣の部屋に待機して見計らって様子を見に来させてもらいますが何かあればすぐに呼んで下さい」

 そう言って主治医が助手二人と部屋を出て行った。

 過度の疲労の蓄積?私フィンレルとこれからのことについて、了解を取り付ける為の話し合いをしてから、フィンレルの希望で朝食を一緒に食べるようになった。

 今朝も朝食をフィンレルと食べたのに、私フィンレルの疲労にまったく気付いてなかった、それもずっとだ。

 私はいったいフィンレルの何を見ていたのだろう?

 いくら彼に一年放置されて、使用人に蔑ろにされ冷遇されてムカついたからって、フィンレルが過労で意識を失くして倒れてしまうまで気付かないなんて…。

「奥様申し訳ありません」

 アランの声が聞こえて私はハッと顔を上げる。

 濃い碧眼の瞳が眼鏡の奥から私を伺うように見ている。

 突然アランに謝られて私は戸惑って首を傾げる。

「…どうしてアランが謝るの?アランは悪くないわ…」

「そんなことはありません。

 私がフィンレル様の一番近くにいながら、強引にでも休ませたり何なりをしてこなかったからです」

 アランが殊勝に頭を下げる。

「それならわたくしもだわ。

 わたくしはフィンレルと朝食を食べたり、他に少なくとも日に一度はフィンレルの顔を見ていたのに、何も気付いてなかった…」

 私は胸がギュッと痛くなり両手を組んだ手を胸に持っていく。



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