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四十六話 旦那様が! ①
しおりを挟むリリアンナに対してかなりの荒療治ではあると思うけれど、あとはフィンレル次第だったの。
リリアンナは邸を飛び出した後にフレオに案内されたあの丘に行ったのだという。
この時は私はまだあの丘に行ったことはなかったのだけど、あの丘はリリアンナと前奥様の思い出の大切な場所だったのだそうだ。
そこにフィンレルが追いかけていき、フィンレルはリリアンナに自分の思いをブチ撒けたのだそう。
どんな話をしたのかを聞いたけど、フィンレルは自分が両親を亡くした時の気持ち、リリアンナには自分もリリアンナの元婚約者と同じようなことをしてしまったから嫌われていると思い、気になりながらもなかなか声をかけれなかった。
でも自分はそれからリリアンナ始め使用人たちが自分を支えてくれたから、自分もこの領地もちゃんと存在している。
自分にとっては目が回るほど忙しくなったことが返って良かった。両親のことを思い出して、考える時間が少なくなったから。
それに使用人たちみんながいてくれたから、領民がいるから自分が悲しんで倒れている場合じゃないと思っていた。
そして結婚して妻が出来て子供が生まれた時に、両親のことがもっとわかった。
自分は愛されていたんだと、自分がどんなことをやらかしても両親は自分に無償の愛を与えてくれていたのだと、自分を信じ続けていてくれたのだと。
だから自分は死ねない、このままじゃ駄目だと、両親が残した愛したこの領地、領民、使用人たち、そして自分の妻と息子の為に生きていくんだと決心した。
リリアンナもいてくれたからなんだ、リリアンナにも生きて欲しいんだと切々と説いたらしい。
これからもっと両親のことを話したい聞いて欲しいんだ、そしてリリアンナに両親の話を教えて欲しいと涙ながらにお願いしたそうだ。
リリアンナがそれでも生きていたくない消えたいと思ったのならら自分は止めないと言ったそうだ。
それからあの丘でリリアンナとお義父様、お義母様の思い出話をお互い涙ながらに話してから、邸へと戻ってきたらしい。
フィンレルが自分の気持ちをすべて曝け出してちゃんと腹を割ったんだね。
フィンレルはきっと口下手なりに凄く頑張ったんだね、そのことはたくさん褒めて差し上げた。
リリアンナは戻ってきた。
辞めずに今まで通りちゃんと侍女を続けているわよ。
私とは距離を取り顔を合わせないように避けられているけど…。
そうなることはわかっていて、私は自分が嫌われることを覚悟の上で、彼女が嫌がることをあえて言ったのよ。
賭けだったけどでも彼女が感情を顕にして怒ってくれて良かったと思う。
例え私への怒りでとか恨みを持ったとしても、少しはまだ生きていてもいいかなと思ってくれていたらいいなと思っているの。
でもリリアンナに侍女長になってもらうのは難しいかもしれないわね。
私は王都に行く直前まで諦めないけど、と言っても私が王都に行く日は近付いていたから、そろそろ本気で侍女長になってくれる人を探さないといけないかもと思っていた時に。
「まだ大丈夫だよ!
侍女長はベレッタが王都に行ってからでも決めなくてもいい、リリアンナを待っていよう」
とフィンレルが言ってくれたから私はもう少しリリアンナを待つことにした。
リリアンナが例え侍女長になってくれなくても邸に残ってくれるなら、私のことが嫌なら私がなるべく王都で生活するようにしてもいいと思っているわ。
領地のことはフィンレル、アラン、他必要なら優秀な人を叔父に紹介してもらう形もありでしょう。
私ももちろ王都で出来ることをちゃんとやるわよ。
それはその時にまた考えましょ!
そうやって表面的には忙しいけど、平和な日々が戻ってきた。
その間にラファエルとお出かけデートをして、フレオとの距離が縮まりあの破落戸事件があって、フレオは執事長になってくれた。
でもそれからもリリアンナとは何も変わらずだったけどね。
そんなある日の昼、フレオが焦って私の執務室に飛び込んできた。
「奥様大変です!旦那様が倒れられました」
「えっ?」
書類に向かっていた私は突然のフレオの言葉に手が止まり固まってしまった。
「領地で視察中の旦那様が突然倒れられたと、馬で戻ってきた護衛からの報告です!」
フレオがかなり焦っている。
えっ?どういうこと?フィンレルが倒れた?
私は突然のことに頭が回らない。
「奥様!?」
私はフレオの声にガタッと音を立てて慌てて立ち上がる。
「……あっ!ごめんなさい、それで旦那様の様子は?主治医の手配はどうなっているの?」
「旦那様は倒れられて意識がないそうです!
戻ってくるのは半刻程だということです。
それから主治医はすぐ迎えに行くように手配しましたので、旦那様が戻られるまでには邸に到着すると思います」
ちょっと待って!フィンレルが倒れて意識がない?!
フレオに聞かされた思ったより重大なことに、背筋がゾッとする。
「えっ?…」
私は頭が混乱して言葉が出てこない。
「奥様しっかりして下さい!」
フレオに言われて私はハッとなる。
「そ、そうねごめんなさい。
旦那様が戻ってくるまでやれることやらなくちゃ!」
私は慌てて執務室を出て行く。
それからフレオや使用人に指示したりとしたけれど、私は頭がちゃんと働いてくれなくて、フレオが率先して動いてくれた。
「…奥様大丈夫でございますか?」
「っ!大丈夫よ…」
ケイトが心配して声をかけてくれたけど、私は頭が混乱して心臓がバクバクとうるさく鳴り、額に冷や汗が滲んで手が震えてきて、それを隠す為に手を組んで何とか震えを押さえようとした。
前世で親が目の前で倒れたりと、そういうことを経験しているにも関わらず、私は気が動転していた。
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