怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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四十四話 使用人リリアンナの場合 ①

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 実はリリアンナとの面談はフレオと同時期に行なっていたのよ。

 フレオの方を先にして一週間後にリリアンナだったわね。

 フレオは目の奥は笑ってなかったけど、にこやかな笑顔を浮かべ部屋に入ってきたのに対して、リリアンナは礼儀こそ正しくきっちりしているけど、彼女の顔を見て正直ビックリして思わず声が出そうになった。

 リリアンナは白に近いキラキラしたブロンドの長い髪をおでこを上げてキッチリと後でお団子にして、エメラルドのような美しい翠眼の大きく少し吊り目なスレンダーな40代だとは思えないくらい若くて美しい女性なのよ。

 でも彼女はすべての表情が抜け落ちていて、その肌の色の白さと美しさも相まってまるで人形のよう。

 私はここに来てからリリアンナとほとんど接することがなく、使用人のことが解決してからも私が一方的に少し離れたところから観察していただけで、こうして目の前にすることがなかったのよね。

 だから間近に接してみて、彼女の人形のような顔を見て声を出しそうになったの。

 でも最初から私が動揺していたら、絶対上手くいかないわ。

 だって私はこれからリリアンナの分厚くてカチッカチッに固まった殻にヒビを入れる為に、嫌われる悪役になって、彼女に嫌なことを言って煽るつもりだから。

 これは賭けだと思うわ。

 それで私が彼女に嫌われてしまったら彼女はそのまま辞めてしまうかもしれないもの。

 でもそれくらいの起爆剤を彼女に向かって放たないと、遠くない未来に彼女は消えてしまいそうな気がするの。

 今の彼女には喜びや楽しみとか良いことを提示しても駄目な気がするのよ。

 だから彼女の心を揺さぶる為に私は悪役夫人になるわよ!


「まずはリリアンナ時間を作ってくれてありがとう」

「いえとんでもごさまいませんわ」

 リリアンナはまったく表情を変えず端的に答えた。

「リリアンナも知っていることと思うけれど、使用人たちのことでいろいろあったでしょう。

 それで残ってくれている使用人とも面談をすることになったのよ」

 私は彼女を見据えながら微笑んで答える。

「そうでございますか」
 
「それでね、悪いけれどリリアンナの今までのこと調べさせてもらったわ」

「はい」

 私は口角を上げて彼女を見つめるけれど、彼女の表情はピクリとも動かない。

「貴方はアカデミーの卒業パーティーの時に不貞が原因で婚約破棄をされたのよね?」

「そうでございます」

 まあこのことで彼女が揺らぐとは思っていないけど、まるで能面のようね。

「あの後、貴方の元婚約者のダグラス・ベジットフェイント公爵令息がどうなったか知っているかしら?」 

「はい、お茶会やサロンに参加される奥様に同行致しておりましたから」

 そうなのね、噂になっていて知っているのね。

「そう、ベジットフェイント公爵令息、長いからダグラス様と言われてもらうわ。

 ダグラス様は貴方と婚約破棄してからアカデミーで懇意にしていたアリル・ケルトン子爵令嬢と婚約して、その年にすぐに結婚した。

 そして夫人のアリル様は二年後に懐妊して、後継となる男児をお生みになられた。

 けれどその生まれたお子様は夫のダグラス様に似ても似つかない子だった。

 そのお子様はアリル様の護衛騎士にそっくりで、そのことでアリル様がその護衛騎士とだけでなく、夜会や舞踏会で知り合った男性たちとこっそり浮気をしていたことを知った。

 アリル様は当時は自分が大公閣下の夫人になれたことを喜んでいたけれど、義母や周りからマナーや礼儀に対して煩く言われ叱責され、それに贅沢出来ると思ったのにまったく自由に散財することも出来ず、ただの堅苦しい生活にすぐに嫌気がさして、浮気を繰り返すようになったらしいわね。

 ダグラス様はアリル様が浮気を繰り返していたことを知り、激怒してアリル様に暴力を振るい大怪我をさせて離縁した。

 ここまでは合っているかしら?」

「そうでございます」

 リリアンナの表情はまったく変えず同じ言葉を繰り返す。

「その後アリル様は傷が癒えた後、平民となったけれど三ヶ月後に暴漢に襲われてお亡くなりになられた。

 一方ダグラス様は次の年に再婚されたわ。

 お相手はカサンドラ・トッシエンヌ伯爵令嬢、貴方のアカデミーの同級生で友人だったそうね」

「はい、そうでごさいます」

 変わらぬ表情のリリアンナの顔を見ながら私はあえてニッコリと笑った。








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