45 / 143
四十四話 使用人リリアンナの場合 ①
しおりを挟む実はリリアンナとの面談はフレオと同時期に行なっていたのよ。
フレオの方を先にして一週間後にリリアンナだったわね。
フレオは目の奥は笑ってなかったけど、にこやかな笑顔を浮かべ部屋に入ってきたのに対して、リリアンナは礼儀こそ正しくきっちりしているけど、彼女の顔を見て正直ビックリして思わず声が出そうになった。
リリアンナは白に近いキラキラしたブロンドの長い髪をおでこを上げてキッチリと後でお団子にして、エメラルドのような美しい翠眼の大きく少し吊り目なスレンダーな40代だとは思えないくらい若くて美しい女性なのよ。
でも彼女はすべての表情が抜け落ちていて、その肌の色の白さと美しさも相まってまるで人形のよう。
私はここに来てからリリアンナとほとんど接することがなく、使用人のことが解決してからも私が一方的に少し離れたところから観察していただけで、こうして目の前にすることがなかったのよね。
だから間近に接してみて、彼女の人形のような顔を見て声を出しそうになったの。
でも最初から私が動揺していたら、絶対上手くいかないわ。
だって私はこれからリリアンナの分厚くてカチッカチッに固まった殻にヒビを入れる為に、嫌われる悪役になって、彼女に嫌なことを言って煽るつもりだから。
これは賭けだと思うわ。
それで私が彼女に嫌われてしまったら彼女はそのまま辞めてしまうかもしれないもの。
でもそれくらいの起爆剤を彼女に向かって放たないと、遠くない未来に彼女は消えてしまいそうな気がするの。
今の彼女には喜びや楽しみとか良いことを提示しても駄目な気がするのよ。
だから彼女の心を揺さぶる為に私は悪役夫人になるわよ!
「まずはリリアンナ時間を作ってくれてありがとう」
「いえとんでもごさまいませんわ」
リリアンナはまったく表情を変えず端的に答えた。
「リリアンナも知っていることと思うけれど、使用人たちのことでいろいろあったでしょう。
それで残ってくれている使用人とも面談をすることになったのよ」
私は彼女を見据えながら微笑んで答える。
「そうでございますか」
「それでね、悪いけれどリリアンナの今までのこと調べさせてもらったわ」
「はい」
私は口角を上げて彼女を見つめるけれど、彼女の表情はピクリとも動かない。
「貴方はアカデミーの卒業パーティーの時に不貞が原因で婚約破棄をされたのよね?」
「そうでございます」
まあこのことで彼女が揺らぐとは思っていないけど、まるで能面のようね。
「あの後、貴方の元婚約者のダグラス・ベジットフェイント公爵令息がどうなったか知っているかしら?」
「はい、お茶会やサロンに参加される奥様に同行致しておりましたから」
そうなのね、噂になっていて知っているのね。
「そう、ベジットフェイント公爵令息、長いからダグラス様と言われてもらうわ。
ダグラス様は貴方と婚約破棄してからアカデミーで懇意にしていたアリル・ケルトン子爵令嬢と婚約して、その年にすぐに結婚した。
そして夫人のアリル様は二年後に懐妊して、後継となる男児をお生みになられた。
けれどその生まれたお子様は夫のダグラス様に似ても似つかない子だった。
そのお子様はアリル様の護衛騎士にそっくりで、そのことでアリル様がその護衛騎士とだけでなく、夜会や舞踏会で知り合った男性たちとこっそり浮気をしていたことを知った。
アリル様は当時は自分が大公閣下の夫人になれたことを喜んでいたけれど、義母や周りからマナーや礼儀に対して煩く言われ叱責され、それに贅沢出来ると思ったのにまったく自由に散財することも出来ず、ただの堅苦しい生活にすぐに嫌気がさして、浮気を繰り返すようになったらしいわね。
ダグラス様はアリル様が浮気を繰り返していたことを知り、激怒してアリル様に暴力を振るい大怪我をさせて離縁した。
ここまでは合っているかしら?」
「そうでございます」
リリアンナの表情はまったく変えず同じ言葉を繰り返す。
「その後アリル様は傷が癒えた後、平民となったけれど三ヶ月後に暴漢に襲われてお亡くなりになられた。
一方ダグラス様は次の年に再婚されたわ。
お相手はカサンドラ・トッシエンヌ伯爵令嬢、貴方のアカデミーの同級生で友人だったそうね」
「はい、そうでごさいます」
変わらぬ表情のリリアンナの顔を見ながら私はあえてニッコリと笑った。
1,015
お気に入りに追加
3,605
あなたにおすすめの小説
【完結】ある日突然、夫が愛人を連れてくるものですから…
七瀬菜々
恋愛
皇后シエナと皇帝アーノルドは生まれた時から結婚することが決められていた夫婦だ。
これは完全なる政略結婚だったが、二人の間に甘さはなくとも愛は確かにあった。
互いを信頼し、支え合って、切磋琢磨しながらこの国のために生きてきた。
しかし、そう思っていたのはシエナだけだったのかもしれない。
ある日突然、彼女の夫は愛人を連れてきたのだ。
金髪碧眼の市井の女を侍らせ、『愛妾にする』と宣言するアーノルド。
そんな彼を見てシエナは普段の冷静さを失い、取り乱す…。
……。
…………。
………………はずだった。
※女性を蔑視するような差別的表現が使われる場合があります。苦手な方はご注意ください。
公爵令嬢姉妹の対照的な日々 【完結】
あくの
恋愛
女性が高等教育を受ける機会のないこの国においてバイユ公爵令嬢ヴィクトリアは父親と交渉する。
3年間、高等学校にいる間、男装をして過ごしそれが他の生徒にバレなければ大学にも男装で行かせてくれ、と。
それを鼻で笑われ一蹴され、鬱々としていたところに状況が変わる出来事が。婚約者の第二王子がゆるふわピンクな妹、サラに乗り換えたのだ。
毎週火曜木曜の更新で偶に金曜も更新します。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
「君を愛することはない」の言葉通り、王子は生涯妻だけを愛し抜く。
長岡更紗
恋愛
子どもができない王子と王子妃に、側室が迎えられた話。
*1話目王子妃視点、2話目王子視点、3話目側室視点、4話王視点です。
*不妊の表現があります。許容できない方はブラウザバックをお願いします。
*他サイトにも投稿していまし。
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる