怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

文字の大きさ
上 下
43 / 143

四十二話 ラファエルとお出かけデートよ ④

しおりを挟む



 ここは邸から近く街や領民の生活圏から離れているところだから、あまり人が寄り付かないからとフレオがここを選んで連れてきてくれている。

 それにこの丘は一方向からしか行き来出来ないから、その方向を護衛が警護してくれているのに、どうしてケイトは茂みの方向を警戒しているの?獣でも出てくるのかな?

 何が起こっているの?

 私はどんどんと緊張が高まってきて、怖くなってきて足が震えてくるのを何とか叱咤して、ラファエルを抱きしめ直す。

 私の緊張が伝わってラファエルが泣き出すかと思ったけど、ラファエルは今のところ大人しくしてくれている。

 私はラファエルをさらにキュッと抱きしめて引き寄せる。

「…ケイト?」

「奥様大丈夫でごさいます。

 奥様とラファエル様を絶対守りますから、そこから動かずジッと、していて下さい」

「わ、わかったわ」

 ケイトの冷静な声と絶対守りますという言葉に、少し安心出来てほぉ~と息を吐く。


「っ!…」

 その時に茂みからガサガサという音が大きくなり、枝がベキベキッと折れる音が聞こえてきて私は声も出せず、その場に突っ立っている。

 ラファエルラファエルだけは守らないと!

「大丈夫!大丈夫よラファ…」

 怖くて震えているけど、ラファエルの為よ!と私は自分にも言い聞かせるようにラファエルの背中を撫でながら声をかける。

 より一層ガサガサという音と枝が折れる音が大きくなったと思ったら、中が人が出てきた!

「ヒッ!…」

 悲鳴が漏れる。

 薄汚れた服の柄の悪そうな男二人が手に剣を持って現れた。

「フレオ様、わたくしは剣術、体術の心得があります。

 飛び道具を持たない破落戸二人くらいなら何ともありません。

 どうか奥様とラファエル様の側を離れないで下さいませ」

「わかった」

 ケイトとフレオが私たちにしか聞こえない音量でやりとりしている。

「へぇ~豪華な馬車が止まってたけど、お上品な女がいるぜ!

 もしかしてここの領主の女かなぁ?」

「ああ、騎士二人が走ってきたけど、騎士二人くらいならアイツらで倒せるだろうよ、腕利きがいるからな。

 すぐに茂みに隠れた俺たち賢いよな~お上品な女と若い女、おっさんだけなんて運が良いよな~俺たち」

 男二人が下衆い笑みを浮かべながら私の方を見てくる。

 護衛に見つからないように茂みに隠れて、その中からこっちに来たって訳ね。

 何なの?コイツら!馬車にはサウスカールトン家の紋章がある。

 それを知らないってことはここの領民じゃないってこと?

 どこからこんな破落戸が入ってきたんだろ?

「良いドレス着てるな~金目の物持ってそうじゃねえか!」

 破落戸の一人が私の方を見ながら近寄ってくる。

 その時、ケイトが破落戸たちに向かっていき、フレオが私たちを庇うように前に立つ。

「ケイト!フレオ!」

「奥様落ち着いて下さい。

 ケイトに任せましょう、大丈夫です。

 私も死んでも奥様とラファエル様をお守りします!」

 フレオが前を向いたまま私に声をかける。
  
「ありがとう、でもフレオ駄目よそんなこと言っちゃあ!

 死んだら駄目なのよ!貴方はこれからもちゃんと生きて幸せにならないといけない人なの!」

 私は恐怖で喉がカラカラだけど、自分の思いをフレオに叫んだ。

「…っ!そうですね!さすがは奥様です!

 私はちゃんと生きてこれからも奥様とラファエル様の為にお仕えしますよ」

「そ、そうよ!そうなんだから!」

 私はフレオのシャツの裾をを握り締めながら凄く怖いけど、叫んでいた。



 で、どうなったかと言うと護衛二人が戻ってくる前にケイトが破落戸二人をあっという間に簡単に倒してしまった。

 破落戸は今気絶して転がっている。

 凄かったわ、本当に一瞬のことで私もフレオも呆気に取られてポカンとしたもの。

 ラファエルも私もフレオもケイトもみんな傷ひとつなく無事だった。

 でも私は安心してヘナヘナと力が抜けてその場に座り込んでしまったわ。

 あの時大きな物音がしたのは、ここに来た二人の男以外の仲間の五人が私たちが逃げられないようにか馬車を壊した音だった。

 馬車を引っ張る馬も護衛の馬も破落戸たちは下手に手を出さなかったみたいで、馬車の馬は逃げて無事だったようだし、護衛の馬も興奮しているみたいだったけど、木に括り付けられたまま大人しくしていたようでそちらの馬も無事でそれも良かったわ。


 その後、護衛一人がすぐに邸に戻り知らせたようで、しばらくすると護衛たちと一緒にフィンレルが馬に乗ってやってきた。

「ベレッタ!ラファエル!大丈夫か!」
 
 髪も服も少し乱れていて、焦ってすぐに来てくれたようだった。

 フィンレルの顔を見たら安心して私涙が出てきたわ。

 つか、フィンレル私のこと初めて名前で呼んだわね。

「ごめんなさい、心配かけてごめんなさい」

 私は泣きながら謝る。

「旦那様、悪いのはすべて私でございます。

 私が奥様をここに案内したのです。

 どうか私だけを処分して下さい!お願い致します!」

「フレオ…貴方は何も悪くないわ。

 わたくしがラファエルとお出かけしたいと言ったからなのよ。

 ねぇ旦那様フレオは何も悪くないの!悪いのわたくしなの!」

 フレオが私を庇って自分がすべて悪いとフィンレルに訴えたのを、私はそうじゃないと必死にフィンレルに訴える。

「…誰も悪くないし処分なんてしない。

 君とラファエルが出かけることを許したのは私だ。

 それにフレオ、ケイト君たちがベレッタとラファエルを守ってくれたことをちゃんと聞いている。

 礼を言う、君たちにも怪我がなくて本当に良かった。

 すぐに代わりの馬車が来るからとにかく邸に戻ろう」

 フィンレルの言葉に私はさらに涙が出てきた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 完結まで執筆済み、毎日更新 もう少しだけお付き合いください 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました

ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。

処理中です...