怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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三十八話 使用人フレオの場合

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 私がこれから自分がすべきことにフィンレルの了解を取り付けることが出来たので、早速動いていくことにする。

 まずはフレオと面談することにした。

 応接室でフレオが来るのを待っていると、ノックの音が聞こえて「どうぞ~」と返事すると扉を開けて「失礼致します」とフレオが入ってきた。

「はい」

 私が向かいのソファに座るように促すと、不安がったり動揺などすることなくニッコリと笑顔で返事してすんなりと座るフレオ。

 その様は堂々としていて肝が据わっておりまったく隙がないわ。

 さすがに若くして宰相補佐にまでなった人ね、これはかなり手強そう。

 でも私は前世で六十何年、こちらで十九年生きてきて、年季が違うのよ。

 対人関係でかなりの経験値があると思っているわ。

 四十五歳のフレオより長生きなんだならね!

「さて、フレオまずは以前突然お願いしたのに、叔父様に手紙を届けてくれたこと改めて感謝するわ」

「いえいえ、些細なことでございます。

 時間もございましたからお気なさらないで下さい」

 フレオはニッコリとして私のお礼の言葉に対する適当な返事をしたのみだ。

 これはこちら側の出方を見ているのよね。

 うん!駆け引きは必要だよね?

 でもこういう交渉力のある人と腹の探り合いをして、互角に渡り合えるなんていう高等手段を私は持ち合わせてないわ。

 それなら私の知ってることをどんどんと出して、真っ向勝負に挑むまでよ!

「フレオわたくしね、貴方に執事長になってもらいたいの」

 私はいきなりド直球に用件を言った。

「これはこれは奥様いきなりでございますね」

 フレオは落ち着いて笑顔のまま答える。

 動揺は見られない、さすがだわ!

「ええ、執事長がいなくなってしまったことはフレオも知っているでしょ?

 それで早急に決めないといけないと思っているの。

 それで現在ここにいる使用人をすべて調べさせてもらったのよ。

 邸で優秀な人がいたらその人を登用する方が効率が良いと思わなくて?

 フレオがとっても優秀なことを知ったのでね」

 私がニッコリと笑うと、フレオは笑顔を崩さないけど、目の奥は笑っていない。

 部屋に入ってきた時からそうだったけど、よりその瞳の色が暗くなったと感じた。

 少しの変化は良いことと受け取るべきかな?まだわからないけど、私は当たって砕けろで最初からいくつもりなの。

「なるほど~それでは私のこともご存知なのですね」

「ええ、知っておりますわ。こちらで御者になるまでの経歴まで全部ね」

「そうですか~大変有り難いのですが、お断りさせて頂きます」

 ここですんなりと断りを入れてきたわ。

 これ以上そのことに関して話をする気はないってことね。

 でも私めげないわよ!諦め悪いんだから!

「そうなのね、では今の御者の仕事について聞いてもいいかしら?」

「ええ、何なりと」

「わたくし今まで馬車に乗る時以外、馬と身近で接したことがないの。

 わたくしに馬のことを教えて下さらない?」

 今少しフレオの緑の瞳が揺れて戸惑いの色が少し見えたわ。

 何故そんなことを聞いてくる?ってことよね。

「馬のことを教えて欲しいとはどういうことでしょうか?」

「そのままだわ。

 報告にはフレオは馬が好きだから御者になりたいと言ったと聞いたからよ。

 わたくし馬という生きもののことをよく知らないからフレオに教えて欲しいのよ」

 私が微笑むとフレオの唇が少しだけピクリと動いた。

「そうですか、素晴らしい情報収集能力ですね。

 さすがはラバートリー商会の商会長様です。

 そうですね~馬はとても賢い生きものですよ。

 相手のことをちゃんと見ておりますし、嘘は通用しないのです。

 でもこちらが一生懸命世話をして信頼関係を築けば、ちゃんとこちらの期待に応えてくれます」

「フレオは馬に期待しているということなのね」

 私が微笑みながら言うと、フレオの眉が初めてピクッと動いた。

「奥様は何をおっしゃりたいのでしょうか?」

「良かったわ、フレオはまだすべてを諦めた訳ではないこととがわかったから。

 わたくしも貴方を諦めないわ」

 私はニッコリとしたフレオを見つめた。

 フレオの目が少し吊り上がった。

 表情が出てきたわ。

「奥様お話はそれだけでしょうか?もう仕事に戻りたいのですがね」

「ええ、時間を取らせて悪かったわね。

 もういいわよ」

「っ、失礼致します」

 フレオが私がすぐに引き下がったので、少し驚いた顔をしながらもすんなりと部屋を出て行った。

 私は今日はすんなりと引き下がることにした。

 でもフレオにも言ったけど、私は諦めないわよ!






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