15 / 143
十五話 謝罪されても今更なのですけれど…でもどういうこと? ③
しおりを挟むフィンレルが顔色を悪くして泣きそうになっている。
何を泣きそうになってるんじゃい!泣きたいのはベレッタの方なのよ!
「…その通りだ…私がすべて悪い…今更謝っても取り返しのつかないことを私はしてしまったけれど、今は謝ることしか出来ない…本当に申し訳なかった」
本当に今更ですわね、まあ謝らず逆ギレをされるよりはマシですけどね。
「ええ、本当に今更ですわね…。
ですが、執事長と侍女長のことに関しては早急に旦那様に動いて頂かないとなりませんわ。
先程ミランダとユリアンナのことがありましたわよね?
それで騒ぎを察知した執事長と侍女長が家の予算使い込みの証拠を隠滅する恐れが出てきましたわ。
わたくしは邸内の管理を任される仕事をしておりましたが、肝心の予算など金銭に関するものについてはわたくしは一切関わらせてもらっておりませんので、わたくしが今から証拠を掴むことは難しいのですわ。
ですからそこは旦那様にお願いするしかないのです。
出来ますわよね?」
「…そうだな…わかった。
私が早急に今から動くことにするよ…本当にすまない…」
また謝ったわ、今更なのだけど何だかフィンレルが俯きながら返事するけど、どこか虚ろだ。
ちょっと大丈夫なのかしら?信じていた使用人が裏切っていたのだからショックなのはわかるけど、今から大事なことをしてもらわなくてはならないのよ。
「ええ、旦那様?大丈夫ですか?」
「…ああ、私は今まで何をしていたんだろう…何を見ていたんだろう…何て愚かなんだ…自分がほとほと嫌になるよ…こんなだから最初から君に嫌われるんだよな…」
フィンレルが独り言のようにブツブツと小声で言ったけど、私の耳には全部聞こえてきたわ。
ん?最初から私に嫌われている?はあ?どういうこと?
「えっ?最初からわたくしに嫌われているってそれは旦那様ではないですか!」
私はイラッとして思わず少し声が大きくなり叫んだ後にハッとなり両手で口を押さえる。
抑えろ!抑えろ!私冷静でいるのよ!
「確かに…私は君に結婚式の時も初夜の時も何も言わなかった…情けないが、何を言っていいかわからなかった…。
本当はこんな醜聞まみれの私のところへ嫁いで来てもらって申し訳ないと思いつつも、有り難いと思っていたんだ。
でも君に何をどう言えばいいかわからなかった…。
言い訳になるけれど、私は君とちょうど結婚する直前に領地で問題が起こり、結婚式初夜の日以外はそれにかかりっきりで泊まりがけでしょっちゅう王都へ行ったり、朝早くから外出して帰れるのは夜遅くだったり…それ以外も邸の中にいても追われるように執務を熟していて、本当に時間がなくなかなか君に会いに行けなかった…。
落ち着いてから…と思って…二ヶ月程して少し落ち着いてきた時に、ちゃんと君と話をしようと思っていたんだ。
だが君と食事しながら何とか話してみようと思っていたけど…君が私と食事さえも一緒にしたくないと言っていると聞いて…私はそんなに君に嫌われてしまったんだと思ったら…尚更君のところへ行けなくなったんだ…。
君が懐妊したのを知った時も本当に嬉しかったんだ…。でもその時も悪阻が酷くて、誰かに会える状態ではないと言われて…また君に会いに行けなかった…。
でもそんなことは言い訳にしかならないな…身重な君を労ることさえ私はしなかったんだから…私は最低な人間だ…本当に申し訳ない」
えっ?ちょっと待って!私フィンレルと食事をしたくないなんて一言も言ってないわよ!
それに妊娠した時、確かに悪阻はあったわ。でもそれほど酷くなかったわよ!
「あの?…わたくし旦那様と食事したくないなど一言も言っておりませんけれど?」
「えっ?」
フィンレルが目を丸くする。私も今同じ顔をしていると思うわ。
「それどなたからお聞きしましたの?」
「…侍女長とジェンシー嬢に…あっ!…」
「えっとわたくしラファエルがお腹にいる時、確かに悪阻がありましたが、それほど酷くなくて誰にも会えない状態ではありませんでしたわ。
それもどなたからお聞きになりましたの?」
「…同じだ…侍女長とジェンシー嬢にだ…」
フィンレルも気付いたみたいだけど、なるほどそういうことだったの。
「そうだったのですね…もう済んだことですが、でもどんなにお忙しくとも旦那様が最初に領地の事情、今忙しいから私に会いにこれないことを話して下さっていれば…こんなことにはならなかったかもしれませんわよね?」
確かにフィンレルと私の間に悪意のある者が挟まっていたから拗れてしまったけれど、それでもフィンレルが初めに事情を話してくれてればね…私たちは結婚式の時に初めて顔を合わせたのだからお互いのことを何も知らない同士なのよ!言葉が足らないというものではないのよ!ほんとに!
ベレッタも何も言わなかったことも悪いけれど、ベレッタは実家でずっと虐げられて、義母と義妹に『卑しい平民の子』と見下され馬鹿にされて貶められていたベレッタは自分を卑下して自信を持てなかったから、自分からフィンレルに事情を聞くことなど出来なかったのよ。
「…ああぁ、すべて君の言う通りだよ…私がこんなだから…悪意ある者にいいようにされてしまったんだ…ちゃんと調べもせずに執事長侍女長始め使用人を信用し過ぎて…それで君をこんなに傷つけてしまい…それに私が仕えてくれている使用人にも信用されていないから…こんな形で裏切られて…」
フィンレルが頭を抱え情けなく落ち込んでどんどん小さくなっていっているわ。
執事長始めフィンレルを裏切った使用人たちが悪いのはもちろんだけど、フィンレルも彼らの言うことを信じて疑いもしなかったことも悪いわ。
まあそれだけ信用していたということなのだろうけど…。
はぁ~、でもフィンレルを見てると私はまた少し可哀想だと思ってきているわ。
フィンレルって前世の私の息子よりうんと下なんだもの…されたことは許せないけど…フィンレルは先程言っていたわよね?
ヒロインを今も愛しているのだろうけれど、自分の評判の悪いことをちゃんとわかった上で結婚した私とちゃんと向き合おうとしていたってことよね?
はぁ~何だかこれ以上責める気がなくなってきたわ…私も甘いわね。
「旦那様しっかりして下さいませ!」
私がビシッと言うとフィンレルはビクッとなり情けない顔をしながら顔を上げた。
悲壮感漂う顔のほとんどに縦線が入っているようにどんよりとした顔になってるわ。
でもどんより縦線顔でも美形は美形なのね。
「圧倒的に旦那様の言葉が足りませんでしたけど、過去のことはもうどうにもなりませんわ。
旦那様も信じていた使用人に裏切られてお辛いことでしょうしね。
それにわたくしにも悪いところがありましたわ、申し訳ありません。
ですからもう落ち込むのは止めて下さいませ。
反省は必要ですけれど、もう切り替えて次にいって下さいませ!旦那様!
これからのことの方がラファエルとわたくしたちには大事ですのよ、ですから下を向かず顔を上げてシャキッとして下さいませ!」
「…っ!……わかった…君は強いんだな」
私が元気良くまるで自分の子に叱咤激励するように言うと、フィンレルの水色の瞳が何故かキラキラしてきたのは気のせいかしら?
はぁ~この男は単純なのか?それともドMの変態なの?
とにかく今フィンレルには前を向いて、執事長と侍女長がこの家のお金を不当にくすねている証拠を掴んでもらわないと!
「それはこれからの侯爵家の為ですわ。
わたくしはラファエルが生まれて変わらなければならないと思いましたのよ。
ですから旦那様も可愛いラファエルの為に変わって下さいませ!
決して遅くはないとわたくしは思いますの。
他の理由でも執事長、侍女長をクビにすることが出来ますけれど、横領に関しましては犯罪でしてよ。
ですから旦那様執事長と侍女長の横領の証拠を隠滅される前に何とか掴んで下さいませ!時間がありませんわ!」
「っ!…あ、ああわかった!早急に調べるよ」
フィンレルは私の勢いに押されて上半身を仰け反らせたけれど、了承の返事してくれた。
「それでは旦那様早速いってらっしゃいませ!」
「えっ?…あ、ああわかった。
行ってくる!ちゃんと証拠を掴んで君に報告するよ」
「ええ、お願いしますわ」
フィンレルが慌てて駆け足で部屋を出て行った。
「ああ、変態なのではなくてフィンレルはまだ子供なのだわ…」
私は部屋を出て行くフィンレルを見て一人呟いた。
2,254
お気に入りに追加
3,363
あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

侍女から第2夫人、そして……
しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。
翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。
ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。
一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。
正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。
セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。
しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。
幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。
その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。
実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。
やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。
妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。
絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。
なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる