怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

文字の大きさ
上 下
13 / 143

十三話 謝罪されても今更なのですけれど…でもどういうこと? ①

しおりを挟む



「…それは…アランが…」

「アラン様が?」

 アランとはフィンレルの側近なのよ。

 短髪のブロンドの髪に濃い碧眼の鋭い瞳の眼鏡をかけた冷たそうだけど、フィンレルほどではないが綺麗な顔をした平民の出の男性だ。

 ブロンドの髪に碧眼なんて平民では珍しいので、何か事情があるかもしれない。

「…アランが…以前君の専属侍女の様子がおかしいと言ったことがあったんだ…。

 でも私は使用人を信用し切っていて、アランの気の所為だとちゃんと取り合わなかったんだ。

 だけど…アランが先程見かけた君の専属侍女たちの様子がおかしく、気になるからちょっと様子を見に行きましょうと私を強引に君の部屋まで連れてきたんだ…そしたらあんなことになっていて…」

 フィンレルの側近のアランは前から使用人の様子がおかしいことに気付いていたということ?

 あら、アランの方は優秀みたいね。

 フィンレルは顔色を悪くして俯いている。

「そうですわね、わたくしは旦那様と結婚した時から専属侍女だけでなく使用人たちに冷遇されて蔑ろにされてきましたわ」

 私は貼り付けた微笑みを浮かべながら冷静に告げた。

「…っ!…そうか…そうだったのか…私の君への態度を見て…使用人たちもそれに倣って君を蔑ろにしていたんだな…すまない。

 しかし君は一年もの間何も言わなかったのに、何故今になって?」

 はあ?それを貴方が聞く?

「ラファエルが生まれてこのままではいけないと思ったのですわ。

 わたくしがこの家で冷遇されて蔑ろにされたままでは、わたくしだけではなくラファエルにも悪い影響しか与えませんわ。

 何よりわたくしの子であるラファエルもわたくしと同じように冷遇されて蔑ろにされるなんてことになったら、絶対に許せることではありません。

 ですからわたくしは自分の環境も改善していかなければならないと思いましたのよ」

 ラファエルのことを思ってのことは本当だけど、私は前世の記憶を思い出してから性格も変わったのよ。

「…そうか、そうだよな…。

 そんなことも気付かず私は何て愚かなことをしてしまったんだろうな…本当にすまなかった。

 今更謝っても君にしてしまったことは変わらないけれど…

 君とラファエルのことはちゃんとするから…使用人たちのこともちゃんとする!」

 私に謝罪して随分と殊勝な態度だわね。

 でも私はお人好しでもなく優しくもないのよ。

 謝られたからってはい!今までのこと水に流して許せすわとはなれない。

 今までベレッタがされたことは消えない忘れることは出来ない、だから簡単には許してはあげないわ。

 でも今日ミランダとユリアンナがクビになることが決まった。

 それで私の予算か邸のお金を使い込んでいるかもしれない執事長と侍女長が、この騒ぎに気付いて証拠を隠滅してしまうかもしれない。

 彼らが他にやらかしていることはもう証拠を掴んでいるから、クビになることは確実だと思うけど、邸のお金の使い込みだけはまだ証拠を掴めていない。

 今のままだとここをクビになって終わってしまう可能性がある。

 ちゃんと証拠を掴んで突きつけてやらないと気が済まない。

 だからそこはもう時間がないから、早急にフィンレルに動いてもらうしかないわね。

「謝罪は受け取りますわ。

 許す許さないは別問題ですけれどね。

 わたくしはラファエルと自分の為にやらなければならないことをするだけですの。

 旦那様は最低限のことをして下されば今まで通りで結構です」

「っ!…しかし使用人のことは私の責任で…」

 フィンレルが私の言葉に傷ついたような顔をして俯く。

 傷ついたのはベレッタの方なのよ!一年もの間、冷遇されて蔑ろにされてきたベレッタはどれだけ辛酸を舐めてきたと思っているの?全部今更だわ。

「そうですわね、確かにこの家の主は旦那様ですから使用人についての責任がありますわね。

 なので旦那様に今から動いて頂くことにしますわ。

 旦那様、わたくしの侯爵夫人の予算についてはどうなっていますの?」

「えっ?…予算?それは君が使っているものだが…」

 フィンレルが戸惑った顔で私を見つめてくる。

「わたくしこちらに嫁入りしてから一度も自分で買い物などしたことありませんわ」

「は?…そんな…君は毎日のようにあちこちで散財していると聞いているのだが…」

 フィンレルが疑わしげに私に冷たい視線を向けてくる。

「それはどなたが仰っているのですか?」

 私も負けずに冷たい鋭い視線をフィンレルに向ける。

「…それは、執事長のオルフェルと侍女長のアテナだ」

「わたくし自分の予算について旦那様からも執事長からも誰からも今まで一度も何も聞かされておりませんわ。

 ですので、どれくらいあるのかも自分に予算が組まれていることすら知らなかったのですけど?」

 私が目を細めて言うと、フィンレルが目を見開き顔を引き攣らせ顔色も青くなっている。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...