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九話 専属侍女がね… ②
しおりを挟む「旦那様、わたくしそのことでちょうど旦那様に相談しようと思っていたところですの。
実はわたくしの叔父様が乳母にちょうど良い人を紹介してくれると言って下さってるのですわ」
ふぅ~叔父と乳母の候補についてやりとりしていて、先程届いた叔父の手紙で紹介してくれる方のことが書いてあった。
本当に間に合って良かったわ。
そうでなかったらどうやってミランダの身内を乳母にすることを回避しようかと頭を悩ませて大変だったはずだもの。
「それってただの平民がっ…」
まさかのミランダが口を挟んできて、私はビックリするしフィンレルはバッとミランダを振り返った。
「ヒッ!!…も、申し訳ありません…」
ミランダが悲鳴を上げて謝罪してきたけど、謝罪したのは私にじゃなくフィンレルに向かってだけどね。
私からはフィンレルの顔が見えなかったけど、どんな顔をしていだのだろう?
でもミランダは何を口を挟もうとしたんだろ?考えられないわ。
侯爵夫妻が話し合っている時にいち使用人であるミランダが口を挟んできたら、不敬になって即クビになっても文句は言えないと思うのよ。
貴族によっては無礼討ちとかもあるかもしれないここは身分制度が厳しい世界だもの。
それくらいでって思われるかもしれないけど、有り得ることなのよね。
それにこの世界ではなく前世の日本でも夫婦の話し合いにいきなり他人が首を突っ込むって有り得ないよね?
それも夫婦喧嘩を止めるとかいうのではなく、妻が言ったことにケチを付けてきたんだから本当に有り得ないわ。
どれだけベレッタを見下して軽んじているのよ。
フィンレルがミランダの謝罪の後すぐ私に向き直る。
「私から謝罪する、すまない」
フィンレルが頭を下げる。
「いいえ、大丈夫ですわ」
ほんとは気分良くないけど、話を進めたいからミランダのことには今は触れないことにする。
「今から私は妻と話がある。
君たちは外へ出て行ってくれ」
フィンレルが人払いをしたのでミランダ、ユリアンナとケイトが部屋を出て行き、フィンレルと二人きりになる。
ミランダとユリアンナが部屋を出て行く直前私を悔しそうに鋭く睨んできたわ。
「そうか…ところで君の叔父殿と言えば、あのラバートリー商会の会長だったな。
貴族にも顔が広いことで有名だな。
実は最近雇った使用人たちは私の父上の友人だったフランクリン侯爵閣下から紹介された者たちなのだが、閣下にお会いした時に君の叔父殿のラバートリー卿と閣下は取引があってね、閣下がラバートリー卿を大層褒めていたんだ。
あの閣下が認めている人物だし、君の叔父殿だから間違いないな。
それでラバートリー卿が紹介してくれるという乳母に良い人とはどのような人物なんだい?」
フィンレルが私の目を真剣に見つめてくる。
息子のことに真剣になっていることは良いことだわ、旦那様。
フィンレルが話した最近雇った使用人っていうのは、叔父の商会の者で叔父がこの家と旧知の仲のフランクリン侯爵様に話を持って行って、手を回したのだけどね。
「はい、リュカシード侯爵様のご子息次期当主様の奥様の小侯爵夫人の妹様がレンドル子爵の三男様とご夫婦で最近二人目のお子様をお産みになられたそうなのです。
リュカシード侯爵様とラバートリー商会とは叔父様の曽祖父の時代から取引をして下さっている大事な顧客様なのだそうです。
そして叔父様の代からは顧客様としてだけでなく身分差がありますが現侯爵様が、叔父様を大層可愛がって下さっているそうでご子息の小侯爵様もご一緒にたまにお酒を飲む仲となったのだそうなのです。
それから小侯爵夫人の妹のジェシカ様ですが、元々王宮で侍女をしていらしたことがあり、旦那様も元王宮の文官をしておられ通訳のお仕事を経た後、現在は人気作家として活動されており、文官時代と作家として国に貢献したということで一代限り領地なしの男爵位を賜り、今はアートテイク男爵様ですわ。
そして現在はジェシカ様がお二人目を出産されたということで、ご主人様の実家のレンドル子爵家の別邸でお過ごしだそうなのですが、旦那様のお仕事がどこででも出来るということで、こちらに来て頂くことも可能だということなのですよ」
ふぅ~ベレッタが若くて記憶力が良くて良かったわ。
先程叔父様の手紙が届いて後でじっくり読もうと、さっきはサラッと読んだだけだったけど、全部ちゃんと覚えていて、手紙の内容がスラスラ頭の中で出てきたのよ。
ありがとうベレッタ!でかしたわよ!
私が叔父が乳母として紹介したいジェシカ様のプロフィールを言うと、フィンレルはふむと唸った。
「アートテイク男爵とはショーン卿だよね?」
あらフィンレルはジェシカ様の旦那様をご存知なの?
「旦那様ショーン様をご存知ですの?」
「ああ、彼が通訳として外交に携わっている時に父上に紹介されてから、何度か夜会や舞踏会で会って話したことがあるよ。
とても聡明で素晴らしい人だと父上からも聞いているし私から見ても間違いなく良い人格を持った人だったよ。
そうか…ショーン卿の奥方か…リュカシード小侯爵夫人の妹君でもあり文句の付けようのない人のようだな…」
フィンレルは最後の方声が小さくなり呟くように言ったわ。
少し様子がおかしくなったね。
「旦那様どうされましたの?何か問題でもございますの?」
「…いや、相手方には何も問題がないよ…むしろとても素晴らしい人選だと思う。
だけど、そんな素晴らしい人にうちに来てもらっていいのだろうか?…」
フィンレルが急に落ち込んだような表情をして目を伏せてしまった。
「うちに来てもらっていいのだろうか?とは旦那様どういうことですの?」
私は何だろう?と首を傾げる。
「…それはサウスカールトン侯爵家はすべて私のせいで評判が最悪だから…そんな素晴らしい人にうちに来てもらったら、その人たちの評判も悪くなるのではないかと…思うんだ…」
なるほど!知らなかったけどフィンレルはあの断罪劇の後、自分の家の評判が最悪だと知っているのね。
何か思い知ったことがあったということかしら?
恐らく夜会か何かに参加してフィンレルが集中攻撃をされて針の筵になったりってことがあったっていうことかしら?有り得るわね。
フィンレルはあの断罪劇の後、両親と共に領地に引っ込んで、ほとんど王都に行くことはなかったらしいし、両親がお亡くなりになってからも領地経営が忙しく、同じくだったみたいだけれど、貴族であるからどうしても列席しないといけない夜会や舞踏会は年に数度はあるみたい。
私はフィンレルと結婚してからすぐに妊娠したこともあったし、ベレッタが実家にいる時も王都に連れて行ってもらったことがないから一度も参加していないけどね。
夜会には王太子も元側近候補たち、あの断罪返しをされた全員が参加していると思うけど、王太子に表立って何か言える者はいないはずだし、フィンレル以外の側近候補はあの断罪劇でやり返されて恥をかいたとはいえ、当時の婚約者と婚約破棄にはならずそのまま結婚したわ。
元側近候補の奥様方は王太子の元婚約者で女公爵となり、今この国で一番力を持っていると言われているあの方と、今も仲良くしていらっしゃるらしいし、元からみなの家は力を持っていると聞いたわ。
きっと元側近候補の方たちは奥様とその実家がしっかりとガードしてくれているのかもしれない。
そうなると、フィンレルだけが婚約者との婚約は白紙になり庇ってくれるのは両親だけで他に居なかったはずね。
いくらフィンレルのお父様が元国王の側近で地位の高い侯爵でも、息子せいで評判が落ちた家で力もなくなっていたと思うから、息子を庇うどころか一緒になって攻撃されたのかもしれないわね。
確実ではないけど、そんな経験をしていたとしたら自分のせいだと思うわよね。
自分の愚かな行ないで両親まで責められて貶められて、申し訳ないと思ったのかもしれないわね。
今更気付いたのかフィンレルの自業自得だよと思うけど…フィンレルの落ち込む表情を見たら少しだけ可哀想だと思ってしまうわ。
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