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三話 旦那様にかましてやるのです
しおりを挟むていうことで父の子爵の資金援助目的で私はフィンレルに売り飛ばされて結婚した訳なのよ。
それでフィンレルと私は婚約期間などないまま、父が縁談を持ってきた日から僅か1ヶ月程で、フィンレルとの初対面が結婚式というものでそのまま結婚して初夜となった訳。
初夜に「君を愛することはない」とかは言われなかったし、白い結婚でもなかった。
要するに愛はないけど後継は欲しいってことなんだよね?だから初夜に事はあった。
会話は一切なかったのだけどね。
だけど旦那となったフィンレルは私ベレッタにまったく興味を示さず、仕事は真面目だけど初夜以降私に会いにくることはなかった。
それでも当時のベレッタはフィンレルに文句を言うどころか、何も言わなかった。
今思うとそれがいけなかったのだと思うわ。
旦那がそんなだから使用人もそれに倣ってなのか、執事長も侍女長も私の専属侍女二人も使用人たちは私を冷遇して蔑ろにしている。
運が良いのか悪いのか、私は初夜の一度きりで妊娠して子供が生まれた。
自分の愛する子が生まれたことに関してはもちろん嬉しくて幸せよ。
息子はフィンレルと同じ水色の髪に水色の瞳の男の子だ。
生まれたばかりでまだ顔がどんなのかわからないけど、何だか鼻と口がフィンレルに似てるのかしら?
ほとんどフィンレルに会ったことはないけど、息子は私の地味な顔には似てないから、きっとフィンレル似よね。
でも例えフィンレルに似ているとしても私がお腹を痛めた間違いなく私の子よ。
私はこの子を守っていくわ、立派に育ててみせる!
だからフィンレルとは絶対離縁しないわ!
前世の記憶が甦って子がいなければ、離縁して平民になって生きていくっていうのもアリだけど、子供が出来たのだから話は別よ。
今離縁したら子供は侯爵家の後継者だもの、子供だけを取られて私だけ追い出されてしまうわ。
子供と離れるなんて考えられないわ!そんなの絶対嫌!
子供が独り立ちして立派に侯爵となるまではしがみついてでも出て行かないわ!
その為にはこの家を居心地の良いものにしていかないと!
そういえば、元のベレッタと私はまったくと言っていい程性格が違うのよね。
よくわからないけど、転生とは違うのかしら?
もし元のベレッタがいなくなってしまっていたら申し訳ないわ。
でも私ベレッタと息子の為に頑張るから!もしベレッタが別にいるとしたら、貴方がいつ戻ってきていいように、居心地が良いようにしてみせるからね!それで許して欲しいわ。
ベレッタさん聞いているかわからないけれど、見てていてね!
ところで前世を思い出して本当に旦那に頭にきているわ。
旦那は私を冷遇しているし、子供を産むだけの道具だと思っているようたけど、私も旦那のことは何とも思っていない。
でもこの家に居続ける為には真面目に仕事さえしてくれればどうでもいいけど、問題は使用人よ。
このまま私を冷遇して蔑ろにしたままでは許せないわ。
子供の教育の為にも良くないことだし、私にとっても舐められたまま居心地の悪い状況なんて嫌よ。
だから今いる私を蔑ろにしている使用人はクビにするわ。
その為にはちゃんと調べなければね、と思っているところにノックの音が聞こえて旦那のフィンレルが入ってきた。
あら初夜以来だわ、全然会いにこなかったけど、子供が生まれたからさすがに子供を見に来たってやつ?
「…子供が生まれたんだってな…男だと聞いた…ありがとう…」
何と!お礼くらいは言えるのね。
だからって許しはしないわよ、私が使用人に冷遇されているのはこの旦那のせいなんだから。
それに前世の記憶が甦ったのだから今までの大人しく内気で控えめで自分に自信のないベレッタではないのよ!
前世60代まで生きた図太い女なんだから。
「旦那様、礼だけは受け取っておきますわ。
ですが後継が必要だったからわたくしと結婚したのをわかっておりますから…ですが申し上げておきます。
この子は旦那様の子で、この侯爵家の後継者であると同時にわたくしの子でもありますからわたくしはこの子と離れるつもりはありませんよ」
「…っ!それは…」
フィンレルが驚いて目を見開き戸惑った表情になる。
今までベレッタは何も言わない子だったものね。
突然自己主張しだしてビックリしているんでしょうね。
「ああ、旦那様はこの子のことは間違いなく貴方様の子なのですから、大事にしてちゃんと教育を施して下さることと、わたくしがこの子を育てることを認めて下さること、それからわたくしの生活を保障して下さるだけで結構ですので、それ以外は今まで通りにご自由にどうぞ」
「…は?」
フィンレルが目を見開き口もポカンとさせる。
「旦那様はわたくしを愛していないのでしょう?今でもあのお方を愛しておいでなのでしょう?わかっておりますわ」
あのお方とは王太子妃となったエレナ様のことだ。
名を言わなかったのは下手に名を出して何だかんだと言われることが面倒だからよ。
「っ!…」
フィンレルは驚きに目を丸くして微妙な顔をするけど言葉が出てこないようだ。
「わたくしそれでもいいと思っていますのよ。
わたくしも旦那様を愛しておりませんしね」
フィンレルは私の言葉に今度は傷ついたような顔をした。
何故かしら?私がフィンレルを愛してるとでも思ったの?
確かに水色の艷やかな肩までのストレートな髪に同じ色の透き通ったアクアマリンのような水色の瞳を縁取る目は切れ長でスッキリとしていて、肌も白く整った高い鼻梁に薄めの形の良い唇、長くフサフサの髪色と同じ睫毛、どれを取っても整い過ぎているくらい美しい男性ではあるけれど、結婚式で初めて顔を合わせて初夜はあったけど会話もなく、その後は一切会いに来なくて放置するような男なのよ。
それは妊娠がわかってからもそうだったわ。
私にずっと無関心だから私が使用人に冷遇されて蔑ろにされていることにも気付かない。
そんな人を愛しているとでも思っていたのかしら?美形は無罪って本気で思っていた?
そんなこと私には有り得ないわ。
私前世60年以上生きて今世も19年生きているのよ。
世の中顔だけで生活出来るなんて思ってないわ。
そう!何よりも子供との安定した生活が一番大事なのよ!
前世を経験して一番大事なことはそれよ!
私は自分の権利はちゃんと主張させてもらいますわ!
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