怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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一話 子供を産み落としたと思ったら前世の記憶も落ちてきた

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 わたくしベレッタ・サウスカールトンはたった今、子を産んだ。

 19歳で初産だったから結構な難産だったけど、子もわたくしも今のところ無事。

 わたくしの子は旦那様の水色の髪と水色の瞳をしている男の子だった。


 でも子を産み落とした時に前世の記憶も落ちてきたのよ頭の中に!

 そうまさに子が生まれてオギャアと産声を聞いた時に、怒涛の如く前世の記憶が頭の中を渦巻いた。


 わたくし、前世では私と言っていたから心の中は私で。


 私は前世日本人の60代まで生きた女性だった。

 三人の子供を産んで孫もいて孫からはばぁあと呼ばれるおばあちゃんだった女性。

 子を産んだ時に前世を思い出したのは、前世で三人子供を産んだからかしらね?突然前世の記憶が甦ってもパニックにはなったけれど、気絶したりしなかったのは私の元々の性格からなのかもね。

 年の功もあるだろうけど、私家族にも友達にも図太いって言われていたもの。

 60代まで生きて子にも孫にも恵まれたから良い人生だったんだろうけど、これって転生よね?だって自分の顔をまだ見ていないけど、子を生んだということは前世の60代の私ではないはずだもの。

 60代で子供を産む人もいるだろうけど、そうそうあることではないし、私はもう月経がなくなっているから有り得ないことで、何より生まれた子が明らかに日本人ではなかったしね。

 それに出産を手伝ってくれてた助産師さんの女性がどう見ても日本人じゃないの、ブロンドの髪に碧眼の壮年のヨーロッパ人みたいな女性なのよ。

 そこまでくればいくら自分の顔を見ていなくても、前世の私ではないと気付くわよね。

 前世の記憶が60代までだからその頃に死んだのかな?覚えてないだけ?その辺が思い出せないの。

 まあもう転生っていうの?別人になっているみたいだから前世の私はたぶん死んだのよね?

 旦那とは仲は悪くはなかったけど、元気で留守がいいというタイプだったし、子供もみんな独立して結婚したりしていない子もいたけど、孫にも恵まれたしまあまあの人生だったし、私がいなくても旦那は最低限の家事が出来た人だし、寂しいかもしれないけど子供や孫がいるから大丈夫でしょう。


 そんな私前世を思い出してからベレッタとしての今世の記憶も今全部思い出した。

 ベレッタはコローラル子爵家の第一女として生まれた。

 父アロットは両親を早くに亡くした子が自分だけのコローラル子爵家の若き当主だった。

 母は平民ながらこの国、グラウンドヴェル王国で有数の大商会ラバートリー商会の娘セレーナ。

 実は当時父には別の婚約者がいた。

 だが、コローラル子爵家は当時度重なる事業の失敗で多額の借金があり没落寸前だった。

 父は領地経営も事業経営も向いてない人だったってことね。

 その当時の父の婚約者は男爵令嬢だったのだけど、その男爵家もそれほど裕福ではなく多額の借金を抱える子爵家を建て直すことは出来そうになかった。

 そこで父は諦めて爵位を返上して平民となれば、その男爵令嬢と結婚出来たかもしれないのに、子爵という地位を捨てたくはなかったんでしょうね。

 その男爵令嬢との婚約を白紙にして平民の私の母セレーナとの結婚を選んだ。

 父の子爵家は資金援助を、母の方のラバートリー商会は貴族と縁続きになる為の政略結婚だった。

 母が父と結婚する頃には商会はもう顧客に貴族がいたらしいのだけど、母が貴族になることによってもっと販路を広げようとしたということかな。

 政略結婚であるから当然といえば当然なのか、みんながそうではなく結婚後に愛を育む夫婦もいるだろうけど、私の両親の仲は最初から冷え切っていた。

 父には結婚しようとしていた婚約者がいたのだからそうなるのは仕方ないかもしれないけど…。

 でも私は生まれたんだよね。

 だけど当時のこの国では女性は当主とはなれないから男児を生まなくてはいけないのだけど、私が生まれて数年してから両親の仲はもっと最悪になった。

 後で知ったのだけど、父と母の結婚の条件が父の元婚約者と完全に手を切ること、今後一切会わないことだったのに、父は母との結婚後も元婚約者との仲が続いていたのだ。

 そのことを私が生まれてから数年して母が知ってしまった。

 母は父の裏切りを知って離縁して私と共に実家に帰るつもりだったのだけど、独自に父のことを調べて離縁の話を進めている最中に急な病で呆気なく亡くなってしまった。

 その時に母は自分の実家に父の浮気を元婚約者と続いていたことをまだ伝えていなかったので、母の実家は知らず仕舞いになってしまったの。

 そして父は母の娘である私がいるからまだ母の実家からの援助を引き出せると思ってそのことを内緒にしてしまったのだ。

 そして母が亡くなって喪が明けてすぐ長年の愛人関係にあった元婚約者の男爵令嬢を後妻に迎えた。

 私がその愛人に懐いていて、私に母親が必要だという都合の良い理由をつけて。

 本当は父が再婚するまで私は義母となる人には会ったことないし存在も知らなかったのにね。

 父とその元男爵令嬢との間には私と同い年の娘がいたのだけど、その娘は後妻の連れ子ということで父の実の子というのは伏せられたのだ。

 父の実子だとバレたらずっと元婚約者と続いていたことになるから、私の母の実家からの援助がなくなるだろうからね。

 母の実家が父が元婚約者と再婚したら、怪しんで調べそうなものだけど、後になって知るのだけどその当時ラバートリー商会の会長だった母の両親が突然の事故で亡くなり、母の弟の叔父が若くして後を継いで大変な時期だったみたいなの。

 父は母の両親や叔父には良い顔をしてから、疑わなかったということかしら?

 私にとっては悪いことが重なったということ。

 それから私ベレッタは義母となった父の愛人と同い年の義妹が家に来てから虐げられるようになった。

 元々父と結婚するはずだった義母が私の母と私を恨んでいたのだ。

 それはわからないではないけど、悪いのは父だよね?どうしても義母と結婚したければ平民になれば良かったんだもの。

 この国は平民は貴族と結婚出来ないということはないのだから、父が平民になって結婚するか、二人とも平民になれば良かったのよ。

 でもそれをしたくなかったから政略で母と結婚したのは父だ。

 愛人が恨んで責めるべきは父の方だと思うけど、婚約がなくなってからも父と続いていた人だから、父の好きだったんだろうし別れなければいけないのに続いていたような人だから、父を責めたりせずに母と私を恨んだんだろうね。

 義母は徹底的に私を冷遇して虐げてきた。

 だけと父の目論見通り私がいることにより母の実家からの援助は続いていたし、叔父が私を気にかけて年に一度か二度ほど私を訪ねてくれていたから、私を虐げていることを表に出さないようにしていた。

 食事は自分たちとは違う使用人以下の残飯みたいなものだったけど、三食ちゃんの与えられていたし普段は使用人のお仕着せを着させられていたけど、叔父が訪ねてくる時だけはドレスを着させられ、宝石のついたアクセサリーも付けていた。

 叔父に虐待を疑われないようにだろうけど、暴力だけはなかった。

 でも自分たちの食事とは違うものを与えられたり、使用人として扱われていて、使用人にも蔑ろにされていたから虐げられていたのは事実。
 
 ベレッタが自分の境遇を叔父に話せば良かったのだろうけど、ベレッタは元々引っ込み思案な大人しい性格だったし、父と義母に脅迫をされていたし、ベレッタ自身ももし話したりしたら後が怖いと思って事実を話せなかったのだ。

 おまけに義母と義妹に『卑しい平民の子』『地味な見窄らしい娘』などと散々貶められていたから自分に自信を持てない子になってしまい、言い返すことも叔父に現状を訴えることも出来ず父や義母の言いなりになってしまっていた。



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