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番外編
シリウスの愛し方 ①
しおりを挟む我たちがゲオング王国とカナンゲート聖王国に侵攻して滅ぼし、大陸の各国と不可侵条約を結んで5年が経った。
今まで5000年以上生きてきた我にとって、リゼットと出会う前の5年など平坦で何もないあっという間の一瞬のような月日であったが、リゼットと出会い共に暮らすようになってからは、その日々が早く感じるのは同じでも、一日一日いろんなことがあり濃厚でありながら、ゆったりと穏やかでそのひと時ひと時が輝くかけがえのない大切なものになったのだ。
両親を目の前でヒト族に惨殺された時、我はまだ10歳であった。
その時に覚醒して魔人から魔族になったのだ。
その後、目の前のヒト族を殺しまくり、我と同じくヒト族に虐げられていたオーガ族、ゴブリン族などを救出し大陸から離れた所に孤島を作りそこに移住して、ある程度経ちヒト族を滅ぼそうと大陸に我だけで向かおうとした時にあの神、エンタリアが我の前に現れ我は成人して25歳になってから不老不死にされたのだ。
歳を取ることもなく腹も空かず必要のない食事を摂りながら、宛もなく神に勝つ方法をやみくもに探しながらも、色のないただ変わらぬ年月が過ぎていった。
そしてあの一度目の魔族討伐隊が魔国に上陸してきた時に、リゼットに出会った。
憎しむべきヒト族でありながらその美しい魂に我は惹かれた。
穢のない美しい魂の周りには憎しみや悲しみ苦しみ怒りなどが渦巻いていたが、それさえも何もない美しいだけの魂より我にとっては好ましいと思ったものだ。
その美しい魂に惹かれたことは事実だが、それでも初めは神聖魔法を操る聖女であるリゼットが、我たちの仲間になれば我らにとって元から取るに足らない存在であったヒト族がもっと容易くなるのではないか?魔族が滅ぶという危機は完全になくなるのではないか?思ったのだ。
そしてもしかしたらあの神にも対抗出来るのではないか?という直感と下心が確かにあったのだ。
だが、リゼットと過ごすうちに我はその美しい魂だけでなくリゼットの内面も好ましく思うようになり、気が付いたら本当の意味で愛するようになっていった。
その愛するという気持ちを自覚してからリゼットに触れると、我は今まで感じたことがなかったものを感じるようになったのだ。
全身がカッと熱くなり下腹部からムズムズとしたものが這い上がってくる。
脳さえも熱に浮かされたようにクラクラとしてきて、もっとリゼットに触れたい!もっと奥に深くに貪りたいと獣じみた思考に支配されていく。
初めの頃はそれが何なのかわからず、我はとうとう大陸の魔獣のように自我をなくした魔物になってしまうのかと、そのことを怖れたが、そらが欲情というものなのだとわかり我はリゼットを愛しているのだと改めて実感したものだ。
今まで我は長い年月を生きてきたが、どんなに美しい見目をした雌でも欲情するということがなかった。
まだ精通していなかった10歳という年齢で魔人から魔族に覚醒し、そんなに経っていない間にあの神に不老不死にされたからなのか?
それは今だに何故なのかはわからない。
それでも18歳で成人して25歳までは身体は普通に成長したはずだが、精通もなくそのような欲は感じたことがなかった。
同族の雌たちも我に心酔して忠誠を誓う者たちばかりで、相手もそのような欲を持つ者は多くはなかった。
我に対しては畏れ多いという者がほとんどであったが、全くなかったという訳ではない。
同族の雌が我を敬愛とは違う目で見てきて誘われたこともあったが、我にはまったくそんな欲はなく何とも思わなかった。
我がそのような欲を持つことはないし、そのようなものは必要ないとさえ思っていた。
だがリゼットを愛していると自覚してから、我は変わってしまった。
リゼットの頭を撫でるだけで心臓がドクンッとなり、身体が熱を持ち欲情するようになったのだ。
一度そのことに気付き意識してしまうと、リゼットを近くに感じ吐息が聞こえるだけで、頭を撫でたり抱きしめているだけで我の身体が熱くなり我はそれを押さえる為にそれから必要以上にリゼットに触れないようになったのだ。
それでもリゼットが同族と戦闘訓練を始めるようになり、我以外の者と親交を深めていくようになると、我の中に嫉妬という感情が生まれるようになった。
リゼットは我と我以外の者に持つ感情は違うものだとわかっていながらだ。
だが、その嫉妬と同時にもしリゼットを失ってしまったらという恐怖を感じる出来事でまた我は変わった。
あの毒のことがあり再びリゼットが倒れた時だ。
我は自分が蘇生出来るのだとわかりながらもしリゼットが我の前からいなくなってしまったらと考えると、今まで感じたことのない途轍もない恐怖を感じたのだ。
リゼットがずっと我の側にいてくれなければ、我は自我を保つことが本当に出来なくなってしまうと思ったのだ。
それからはリゼットと一緒にいる時、茶をする時や夕食の時などリゼットを膝の上に乗せて抱きしめるようになった。
他でも今まで控えていた事あるごとに抱きしめたり、頭を撫でる頻度が増えていった。
ドクドクと欲情するのを感じながらも、何とかそれを抑えてでもリゼットに触れずにはいられなくなった。
それでもリゼットも我を愛してくれていることを知っていたが、リゼットが我に相応しくなってから同族に認められ受け入れられてからと強く思っていたから、我がそれ以上のことを望むのはリゼットが憂いなく我を愛していると言ってくれてからだと思っていた。
その時は大陸と不可侵条約を結んでからやってきた。
リゼットが我に愛の告白をしてくれて、リゼット自ら愛し合いたいと言ってくれたのだ。
その時は本当に我にとって至高の時であった。
リゼットが我と愛し合いたいと言ったのは、あのエンタリアと対峙する前のもしものことがあるかもしれないという切羽詰まったものであったのだが…。
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