【本編完結、番外編は不定期更新】蔑まれ虐げられ裏切られた無能と言われた聖女は魔王の膝の上で微睡む

asamurasaki

文字の大きさ
上 下
83 / 96

八十二話

しおりを挟む



「…リゼット」

 創造神トームが消えてからしばらく呆然としていたシリウス様が私を呼ぶ。

「…シリウス様ごめんなさい…」

 私が目を伏せて俯くと。

「謝る必要はない…とりあえず我たちの城へ戻ろう」

「…はい」

 私は自分の前世の記憶が甦った時にシリウス様に伝えていなかった。

 そして何故かわからないけど、そのことはシリウス様に伝わることもなかった。

 それは創造神トームの采配であったのかもしれないけど、今となってはわからないし私はそのことを聞かなかった。

 私はシリウス様が憎むあのエンタリアと同じ神だったのだ。

 どこか後めたい気持ちでシリウス様の目を見ることが出来なかった。


 転移でシリウス様と私は部屋に戻ってきた。

 戻ると、ナリナさんたちが何が起こったのかわからないけど、何か異変があったことを悟って、アタフタしながら私たちを出迎えてくれた。

「…戻った、何があったかお前たちには後で詳しく話す。

 とりあえずはここに我とリゼットの食事を用意してくれ」

「承知致しました」

 ナリナさんがシリウス様の命令に返事して、すぐに食事の用意がされた。

 食事をソファの前のテーブルに並べてからナリナさんたちは部屋を出て行った。

 それからシリウス様と私は食事を始めた。

「…食事が美味い…腹が空くということがこんなに嬉しいなんて…我もこれから食事が自分の実となり糧となっていくと思えば格別だ」

 しばらく無言で食事を食べていたけど、シリウス様が感慨深そうに呟いた。

「…そうですね…これからはシリウス様もお腹が空いて食べた食事がシリウス様の実となり糧となっていくのですね…」

 私はまだシリウス様の目をちゃんと見れない。

「リゼットよ、ちゃんと我の目を見てくれないか?」

 シリウス様に言われて私は恐る恐るシリウス様の赤と金の瞳を見る。

「…ごめんなさい…本当にごめんなさい」

 私は胸がツキンッと痛む。

「…それは何に対して謝っておるのだ?

 我に内緒で無理をしたことに対してなら許そう。

 だが、他のことで謝っているのなら謝る必要はないのだ。

 後ですべて教えて欲しいが、今は食事を楽しもう」

「…はい」

 シリウス様はこう言ってくれているけど、私はシリウス様に元は神であったことを知られてしまったことに心臓が嫌な音を立てていた。

 そんなことはないと思うけど、もしシリウス様に嫌われたら?私を信用してくれなくなったら?と思うと、ツキンッツキンッと心臓に何か刺されている感覚になった。

 
 ゆっくりとした食事の時間が終わった。

 シリウス様はいつもよりゆっくりと自分の感覚を確かめるように味わって美味しそうに食事を食べていた。

 シリウス様が食事の終わりをナリナさんたちに告げると、お茶とフルーツ、ケーキを用意して彼女たちは再び部屋を出て行った。

「さあリゼットよ、我に隠し事はせずにすべて話してくれ」

 シリウス様に言われて私はあの魔族みんなを解毒して倒れた後、すべての前世の記憶を取り戻したことを話した。

 自分がパールティアラという神であったこと、エンタリアとの経緯まですべて。

 シリウス様は私の前のソファに座り、長い足を組んで両腕も前で組んでいる。

「…ふむ、そうであったのだな…リゼットはあの神に自分の世界を壊されたことを復讐したかったのだな…」

 シリウス様は目を細めて私を射抜くように見つめてくる。

 私はシリウス様の目を見てドクンッとなる。

「…それもあります。

 でもエンタリアがシリウス様をこの世界に生きるみなさんを自分の楽しみの為にだけ操って翻弄していることも許せませんでした。

 彼は自分が神だから何をやってもいいんだ、自分の世界に生きるものに愛を持つなんて愚かだと言っていました。

 …自分の世界に生きるものに対して愛がないことが一番許せなかったのかもしれません…」

「…そうか…リゼットはリゼットとしてだけでなく他でも辛い目に遭っていたのだな…」

「えっ?シリウス様?」

 シリウス様の言葉に私は胸が込み上げてくる。

「どうしたのだ?」

 シリウス様が首を傾げだ。

「…っ、…どうして何も言わないのですか?…私は貴方様の嫌って憎んでいた神と同じ存在だったのですよ!」

 多分今の私は目が赤くなって今にも涙が零れ落ちそうになっているだろう。

「我は確かにあの神を憎んでいた。

 でもそれはあの神という存在だけで、神という存在自体を憎んでいたのではないのだ。

 例えリゼットが神という存在であったとしてもあの神とは違うことは聞かずともわかる」

 シリウス様はキッパリと言う。
 
 シリウス様の大きな愛と私を全面的に信用してくれていることに感激して胸が熱くなる。

「…シリウス様…」

「我はリゼットが何よりも大切だ。

 そなたが神であろうとヒト族であろうともな。

 それでひとつ聞きたいのだか?」

 シリウス様の真摯な視線に私はドキッとする。

「シリウス様何ですか?何でもお答えします」

 私がシリウス様の目を見つめながら言うと、シリウス様は少し顔を赤らめ私から目を逸らす。

 私は何だろう?キョトンとして首を傾げる。

「…その…昨日リゼットが我と愛し合いたいと言ったのは死を覚悟していたからなのか?」

 シリウス様の目を細めた真剣な瞳に私の心臓はまたドクンッと大きな音を立てた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

【完結】最愛の王子様。未来が予知できたので、今日、公爵令嬢の私はあなたにフラれに行きます。理由は私に魔力がありすぎまして、あなたは要らない。

西野歌夏
恋愛
 フラれて死んだので、死に戻って運命を変えようとしたが、相手から強烈に愛されてしまい、最終的に愛のモンスター化された相手に追われる。結果的に魔力の才能がさらに開花する。  ディアーナ・ブランドンは19歳の公爵令嬢である。アルベルト王太子に求婚される予定だったが、未来を予知してフラれようとするが。  ざまぁといいますか、やってしまったご本人が激しく後悔して追ってきます。周囲もざまぁと思っていますが、長年恋焦がれていた主人公は裏切られていた事に非常に大きなショックを受けてしまい、吹っ切ろうにも心が追いつかず、泣きながら吹っ切ります。  死に戻ったので、幸せを手にいれるために運命を変えようと突き進む。1867年6月20日に死に戻り、1867年7月4日に新たな幸せを掴むという短期間大逆転ストーリー。 ※の付いたタイトルは性的表現を含みます。ご注意いただければと思います。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...