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七十九話
しおりを挟む私は今からこの世界の神、エンタリアと決着をつけに行く。
だからシリウス様とみんなには眠っていてもらうことにした。
初めは自分の命を賭してでもエンタリアと対峙するつもりだったけど、今はちゃんとシリウス様のところに戻ってきたいと思っている。
もし今度私が死んだら生き返ることは無理かもしれない。
あのエンタリアが相手だからだ。
でもそんなことになったらシリウス様がどうなるかわからない。
だって私がシリウス様を失ったら生きていけないもの。
私が愛するのと同じくらいシリウス様も私を愛してくれていると思っている。
だからちゃんとシリウス様のところに戻りたい。
もうシリウス様を悲しませて辛くさせたくない。
でも私はエンタリアとちゃんと決着をつけないといけないんだ。
私はひとつ大きく深呼吸してから転移魔法を展開した。
転移した場所は城から海に向かった突き当たりにある小高い丘になっているところ。
高い位置にあるから下の海まで崖になっている。
私はその先端に立って神聖魔法を展開して、天に向かって放つ。
「私はパールティアラよ!エンタリア出てきない!」
私は大声でエンタリアを呼ぶ。
エンタリアとは真名でこの世界に生きるものは知らない名だ。
この世界ではエンタリアは神フラマンジェスと言われている。
神は自分の世界に生きるものたちに自分の真名を明かさない。
神の真名は神の世界のみで呼び合うもので、人間が知るはずのない名なのだ。
だから私は今人間のリゼットだけど、エンタリアと呼んだから彼は必ず反応すると思う。
それにエンタリアのことだから今回の魔族と人間のことは笑いながら見物していたはずだ。
ならあのエンタリアなら私のことを以前より注目して見ていたはずで、神聖魔法を空に放ち神の真名を呼べば必ずやってくるはず!
私は空を見上げながら待っていると、まだ夜が明けたばっかりで太陽がまだ低い位置にあるのに、ピカッと空一面が光りまるで真昼のように明るくなった。
そして空高い光の中から真っ白い神御衣を風に揺らめかせながら姿を現した。
エンタリアだ!
全身に眩い光を纏い長い銀の髪を揺らした男が空からゆっくりと下りてきて、私のいる丘から少し離れた海の上に私から2メートルくらい上空に止まって浮きながら私を見下ろしてきた。
『私を呼んだのはそちか?
エンタリアと言ったな、そしてパールティアラとも…そちは人間の聖女リゼットであろう?』
ニヤリとしながらエンタリアが言う。
人間になって初めて神と対峙して今わかったが、エンタリアの声は耳からではなく直接脳に届いているという感覚だった。
「エンタリアという名を知っている人間などいない。
わかっているのだろう?」
私はエンタリアを見上げながら睨み付ける。
『フフッこれは本当にパールティアラなのか…記憶を消されて地上に落とされ、人間として生きてきたはずだが、まさか私の世界で生きているとはね…』
銀の髪を風に緩めかせ、銀の瞳を細めてエンタリアが悠然と微笑む。
「お前の世界はこれで4つめだよ!今まで違う世界で生きてきて、転生を繰り返していた。
地球や他の星でも暮らしてきたよ。
地球は科学が進んでいて素晴らしいところだったよ」
『ほぉ~神パールティアラは地球に転生していたのか?
有名なところだな、でいきなり私を呼び出してどうしたのだ?私に自慢でもしたいのか?』
エンタリアが面白そうに首を傾げる。
「ああ、そうだな…いろいろ見てきたからな、良い経験だったよ。
お前の世界はもう1万年以上経っているのだろう?
私は今まで4つの世界を経験してきてわかったが、お前の世界が一番発達が遅れているな」
私は口角を上げて微笑みわざとエンタリアの気に障るであろうことを言い放つ。
エンタリアはプライドの高いナルシストで自分が一番だと思っているから。
『何だ?私を呼び出したと思ったら貶してくるとは…地上に降ろされて人間風情になった犯罪者の元神がこの神である私何を言いたいんだ?
それに魔族と人間の対決をすべて見ていたぞ。
そちもみなも必死で本当に良い余興であったわ、退屈しなかったことを礼を言う』
エンタリアは表情を変えないで、私を煽るようなことを言っているけど、少し不機嫌になっていることは隠せていない。
「事実を言ったまでだ。
そういえば、私の世界は千年程であったが、それと比べてもお前の世界は劣っている。
同じ魔法があってもお前の世界は思うような文明が起こっていないな。
私は人間としていくつかの世界を生きてきて、お前の実力がよくわかったよ」
私がニヤリとすると、エンタリアの眉がピクッと上がった。
『パールティアラ、君は私を煽って何をしたいのだ?
たかが人間である君が神である私に何も出来ないくせに』
エンタリアの口調が子供っぽいものに変わりそちが君になった。
格好つけてそちなんて言ってたけど、いつもの君呼びに戻っている。
エンタリアがイラつき始めた証拠だ。
「ハッ!知らないのか?神にわからないことが人間にはわかるんだよ。
お前は自分を全知全能の神だと思っているんだろう?
お前は決してそんなものではないよ。
人間になった私にはわかる、お前はどの神にも劣る下等種だと…グッ!」
エンタリアが私の首を片手で掴んで軽々と自分の目の位置で持ち上げてきた。
私の予想通り思い描いた通りになっているけど、首が締められて息が苦しくなる。
『君に言われたくないなぁ~。
私に簡単に騙されて自分の世界を私に壊されたくせに!』
エンタリアがその銀の瞳を鋭くする。
「…うぐっ…お前…今私に、触れていることも神の理を反して、いるじゃないか。
神が…自分の世界に、生きるもので…あっても直接触れては…いけないと学んだ…のに忘れたのか?
…それにファーシリウス…を不老不死にしたこと、もそうだ…お前は自分の…世界に生きるものに…対してやってはいけないことを…やっているんだよ。
…っ!それもわからないのか?」
私は苦しいけど負けずにエンタリアを責める。
『…創造神トームに咎められたことはないよ。
だから許容される範囲なんだよ、君にはもう関係のない話さ』
エンタリアの顔を見て嘘をついているのがわかる。
「…フンッ、お前は…わかってないのか…?
お前は、…私の世界を…壊した時から…監視対象に、なって…いるんだよ!
なのにお前…は創造神…トームに咎められて…諌め…られ、て…いてもわかって、…いないのだろう…な」
エンタリアが監視対象になっているなんてハッタリだ、本当はどうか知らない。
『何を…天界から落ちた君がわかるはずもないことを…』
エンタリアは動揺してきたのか、顔が引き攣ってきた。
「だから…さっき、言っただろ?
神に…はわから…ないこと…が人間には…わかるとな…人間に…なったから…こそ、神の行な…いが見えてくっ…るんだよ!」
私は尚もエンタリアを責めて煽る。
人間になったからわかるというものハッタリだ。
『本当に君は相変わらず腹が立つね…』
「リゼット!」
「えっ?」
声が…シリウス様の声が聞こえた!
私はエンタリアに首を絞められたまま下を向くと、丘の先端にシリウス様が立っていた。
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