上 下
73 / 96

七十二話

しおりを挟む





 いよいよゲオング王国とカナンゲート聖王国への侵攻が始まった。

 私たちは報告を待つ間、少し早い昼食を食べながらその時間がくるのを待った。


 その時はドラゴン族が飛び立ってから3時間と少しでやってきた。

 シリウス様の予想した時間通りだった。

 ゲオング王国とカナンゲート聖王国は確かに小国で、他国に比べて王都の規模も小さく王都の民も少ないと思うけど、それでも両国の軍事力は少数精鋭で大国にも劣らないと言われてきたのにこんな短時間で陥ちるなんて…。

「それじゃあ魔王ファーシリウス、リゼット様妾たちは先に行くのじゃ」

 アンディナさんが立ち上がった。

「わかった。我たちも終わり次第向かう」

「承知したのじゃ、みなの者行くのじゃ」

 アンディナさんの掛け声の後、側近さんたちがこちらに一礼してシュッと消えた。

「さあ我らも参るとしようか」

 シリウス様が立ち上がってから私もレナンドさん、ナリナさんたちも立ち上がってシリウス様の元へ行く。

 シリウス様が私の手をキュッと握ってから。

「それでは行くぞ」

 その声の後、一瞬の浮遊感を感じた後目の前が応接室から変わった。

 転移した瞬間、目の前にはあちこちから黒い煙が立ち上がり焦げた臭い匂いと何か違う匂いが漂ってきた。

 私の目に見える範囲でも崩れかけている建物や、倒れている人々、あちこちに血溜まりが見えた。

 ドラゴン族は引き続き空を飛んでいるけど、今は攻撃したりはしていないようだ。

 これが戦の現場なんだ…。

 今まで幾度となく魔獣討伐の現場にいたからこんな状況には慣れているはずなのに、倒れているのが人間だと思うと身体が緊張で固まる。

「リゼットよ、大丈夫か?無理はするでない、今からでも我が城にそなたを送り届ける」

「シリウス様大丈夫です。
 私も居させて下さい」

 シリウス様が私に気遣って言ってくれるけど、私はシリウス様に握らている手の力を強めてシリウス様の顔を見返す。

「わかった、何かあればすぐに我に言うのだそ」

「はい」

 私は頷いた。

「ファーシリウス様!」

「ファブリか」

 私たちに向かい走り寄ってきたのはファブリさんだ。

「報告致します。

 先程王都を制圧しました。

 この王都には四箇所外に出ることが出来ますが、すべて封鎖しましたので、もう誰も出入り出来ません。

 ですが一応すべての王都出入り口に見張りを付けております。

 それから王城の包囲完了と一箇所以外の出入り口の封鎖も完了しております。

 もちろん王族専用の隠し通路も封鎖完了しております」

 ファブリさんがシリウス様に報告した。

 シリウス様が情報収集を指示したデーモン族とヴァンパイア族が隠し通路の情報までちゃんと得ていたことに、驚いて感心した。

 戦では当然なのかもしれないが、まさに抜け目がない。

「わかった、ご苦労。

 城の中はどうなっておる?」

 シリウス様はまったく表情を変えない。

「城の中から脱出しようとした者たちは処分しましたが、王族たちはまだ生かしております。

 ヤツらは謁見の間の奥に潜んでいるようです。

 恐らくそこに秘密の部屋があるようですがまだ捕らえておりません」

 シリウス様がファブリさんの報告に頷く。

「そうか、わかった。
 今から我らが城に突入する。

 そなたたちは見張りを続けろ!もしまだここに残っている者がいたら始末しろ!

 それ以外は何かあれば我から連絡するまでは動くな。

 脱出しようとする者は処分していけ」

「はっ!承知しました」

 ファブリさんが返事してからシリウス様は私たちの方を向いた。

「それでは参る」

「はっ!」

「「「「はい!」」」」

 レナンドさん、私ナリナさんたちが返事して、一箇所の出入り口に向かう。



 他国に結界を張ったり、王族などを癒しに行ったことはあるが私はゲオング王国には来たことがない。

 ゲオング王国の王城はカナンゲート聖王国と同じくらい小国であるが、その王城は真ん中に大きい尖塔、横に左右2つずつの真ん中より小さめの尖塔があり立派なものだった。

 大陸で一番経済が発展していて、魔道具研究も盛んな国土も広く国民も一番多いインベルダ王国に行ったことがあるが、ゲオング王国の王城はそれと比べても何ら遜色のないものだ。

 王城の周りは崩れたり崩れかけた建物があちこちにあるが、王城だけは何事もなかったように荘厳に聳えているが、不気味な程静かだ。

 その一箇所だけの出入り口の私の身長の3倍はあろうかという大きな扉の前にウルフ族とオーガ族が二人ずついた。

 私たちが扉の前まで行くと、無言で礼をしてその重い扉を開いていった。

 扉が開くと中で悲鳴のような叫び声が少し遠くに聞こえた。

 そこにまずレナンドさんが先頭で入っていく。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

ハズレ令嬢の私を腹黒貴公子が毎夜求めて離さない

扇 レンナ
恋愛
旧題:買われた娘は毎晩飛ぶほど愛されています!? セレニアは由緒あるライアンズ侯爵家の次女。 姉アビゲイルは才色兼備と称され、周囲からの期待を一身に受けてきたものの、セレニアは実の両親からも放置気味。将来に期待されることなどなかった。 だが、そんな日々が変わったのは父親が投資詐欺に引っ掛かり多額の借金を作ってきたことがきっかけだった。 ――このままでは、アビゲイルの将来が危うい。 そう思った父はセレニアに「成金男爵家に嫁いで来い」と命じた。曰く、相手の男爵家は爵位が上の貴族とのつながりを求めていると。コネをつなぐ代わりに借金を肩代わりしてもらうと。 その結果、セレニアは新進気鋭の男爵家メイウェザー家の若き当主ジュードと結婚することになる。 ジュードは一代で巨大な富を築き爵位を買った男性。セレニアは彼を仕事人間だとイメージしたものの、実際のジュードはほんわかとした真逆のタイプ。しかし、彼が求めているのは所詮コネ。 そう決めつけ、セレニアはジュードとかかわる際は一線を引こうとしていたのだが、彼はセレニアを強く求め毎日のように抱いてくる。 しかも、彼との行為はいつも一度では済まず、セレニアは毎晩のように意識が飛ぶほど愛されてしまって――……!? おっとりとした絶倫実業家と見放されてきた令嬢の新婚ラブ! ◇hotランキング 3位ありがとうございます! ―― ◇掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました

ひとみん
恋愛
タイトル変更しました!旧「国王陛下の長い一日」です。書いているうちに、何かあわないな・・・と。 内容そのまんまのタイトルです(笑 「側妃を迎えたいと思うのだが」国王が言った。 「了承しました。では今この時から夫婦関係は終了という事でいいですね?」王妃が言った。 「え?」困惑する国王に彼女は一言。「結婚の条件に書いていますわよ」と誓約書を見せる。 其処には確かに書いていた。王妃が恋人を作る事も了承すると。 そして今更ながら国王は気付く。王妃を愛していると。 困惑する王妃の心を射止めるために頑張るヘタレ国王のお話しです。 ご都合主義のゆるゆる設定です。

処理中です...