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七十二話
しおりを挟むいよいよゲオング王国とカナンゲート聖王国への侵攻が始まった。
私たちは報告を待つ間、少し早い昼食を食べながらその時間がくるのを待った。
その時はドラゴン族が飛び立ってから3時間と少しでやってきた。
シリウス様の予想した時間通りだった。
ゲオング王国とカナンゲート聖王国は確かに小国で、他国に比べて王都の規模も小さく王都の民も少ないと思うけど、それでも両国の軍事力は少数精鋭で大国にも劣らないと言われてきたのにこんな短時間で陥ちるなんて…。
「それじゃあ魔王ファーシリウス、リゼット様妾たちは先に行くのじゃ」
アンディナさんが立ち上がった。
「わかった。我たちも終わり次第向かう」
「承知したのじゃ、みなの者行くのじゃ」
アンディナさんの掛け声の後、側近さんたちがこちらに一礼してシュッと消えた。
「さあ我らも参るとしようか」
シリウス様が立ち上がってから私もレナンドさん、ナリナさんたちも立ち上がってシリウス様の元へ行く。
シリウス様が私の手をキュッと握ってから。
「それでは行くぞ」
その声の後、一瞬の浮遊感を感じた後目の前が応接室から変わった。
転移した瞬間、目の前にはあちこちから黒い煙が立ち上がり焦げた臭い匂いと何か違う匂いが漂ってきた。
私の目に見える範囲でも崩れかけている建物や、倒れている人々、あちこちに血溜まりが見えた。
ドラゴン族は引き続き空を飛んでいるけど、今は攻撃したりはしていないようだ。
これが戦の現場なんだ…。
今まで幾度となく魔獣討伐の現場にいたからこんな状況には慣れているはずなのに、倒れているのが人間だと思うと身体が緊張で固まる。
「リゼットよ、大丈夫か?無理はするでない、今からでも我が城にそなたを送り届ける」
「シリウス様大丈夫です。
私も居させて下さい」
シリウス様が私に気遣って言ってくれるけど、私はシリウス様に握らている手の力を強めてシリウス様の顔を見返す。
「わかった、何かあればすぐに我に言うのだそ」
「はい」
私は頷いた。
「ファーシリウス様!」
「ファブリか」
私たちに向かい走り寄ってきたのはファブリさんだ。
「報告致します。
先程王都を制圧しました。
この王都には四箇所外に出ることが出来ますが、すべて封鎖しましたので、もう誰も出入り出来ません。
ですが一応すべての王都出入り口に見張りを付けております。
それから王城の包囲完了と一箇所以外の出入り口の封鎖も完了しております。
もちろん王族専用の隠し通路も封鎖完了しております」
ファブリさんがシリウス様に報告した。
シリウス様が情報収集を指示したデーモン族とヴァンパイア族が隠し通路の情報までちゃんと得ていたことに、驚いて感心した。
戦では当然なのかもしれないが、まさに抜け目がない。
「わかった、ご苦労。
城の中はどうなっておる?」
シリウス様はまったく表情を変えない。
「城の中から脱出しようとした者たちは処分しましたが、王族たちはまだ生かしております。
ヤツらは謁見の間の奥に潜んでいるようです。
恐らくそこに秘密の部屋があるようですがまだ捕らえておりません」
シリウス様がファブリさんの報告に頷く。
「そうか、わかった。
今から我らが城に突入する。
そなたたちは見張りを続けろ!もしまだここに残っている者がいたら始末しろ!
それ以外は何かあれば我から連絡するまでは動くな。
脱出しようとする者は処分していけ」
「はっ!承知しました」
ファブリさんが返事してからシリウス様は私たちの方を向いた。
「それでは参る」
「はっ!」
「「「「はい!」」」」
レナンドさん、私ナリナさんたちが返事して、一箇所の出入り口に向かう。
他国に結界を張ったり、王族などを癒しに行ったことはあるが私はゲオング王国には来たことがない。
ゲオング王国の王城はカナンゲート聖王国と同じくらい小国であるが、その王城は真ん中に大きい尖塔、横に左右2つずつの真ん中より小さめの尖塔があり立派なものだった。
大陸で一番経済が発展していて、魔道具研究も盛んな国土も広く国民も一番多いインベルダ王国に行ったことがあるが、ゲオング王国の王城はそれと比べても何ら遜色のないものだ。
王城の周りは崩れたり崩れかけた建物があちこちにあるが、王城だけは何事もなかったように荘厳に聳えているが、不気味な程静かだ。
その一箇所だけの出入り口の私の身長の3倍はあろうかという大きな扉の前にウルフ族とオーガ族が二人ずついた。
私たちが扉の前まで行くと、無言で礼をしてその重い扉を開いていった。
扉が開くと中で悲鳴のような叫び声が少し遠くに聞こえた。
そこにまずレナンドさんが先頭で入っていく。
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