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七十一話
しおりを挟む私はあれからナリナさんに「眠れなくてもベッドに横になりましょう」と言われてベッドに入ったけど、やっぱり一睡もすることが出来なかった。
気持ちが昂っていたからだと思うけど、それでもナリナさんたちと話が出来て気持ちの整理がついたから落ち着くことが出来たのだろう。
本当にナリナさんたちのお陰だ、一人きりだとあれこれと余計なことまで考えただろう。
ナリナさんたちは朝まで私の部屋にいてくれ、交代で私を見守っていてくれた。
それを申し訳ないと思ったけど、今の私には本当に有り難いと思い彼女たちに甘えたのだ。
夜が明けてきてナリナさんがいったん部屋を出て行って、しばらくしてから戻ってきた時に先遣隊が大陸へ出発したことを聞かされて私は起きることにした。
起きてから着替えて用意していると、すぐに朝食が運ばれてきて有り難く頂いた。
それから少し時間が経ってシリウス様が部屋に来てくれて、シリウス様と一緒に応接室に向かった。
私が訪れると既にレナンドさん、側近さんたちがもういた。
みんなに挨拶してからシリウス様の隣に座った。
「先程転移で先遣隊を大陸に送り込んできたのだ。
1時間後に我らとここに残る者たち以外はゲオング王国とカナンゲート聖王国へ向けて出発する。
両国の王都を占拠、城の周りを包囲したとの報告後、我とリゼット、レナンド、ナリナたちはまずゲオング王国の城内に入る。
側近たちはカナンゲート聖王国の城内に入り、処罰する王族貴族たちを捕らえて謁見の間に集める。
そして我らがゲオング王国での用事を終えたらカナンゲート聖王国の城内に入る手筈だ。
カナンゲート聖王国の方は側近たちが王族たちを捕らえて謁見の間に集めておくようにするのだ。
王城内の者たちはすべて始末せよ。
よいか?リゼットよ」
「はいシリウス様承知しました」
確認に問われて私はシリウス様の顔を見上げて返事した。
シリウス様はそれに頷く。
「城の中だけしか暴れられねえのはちともの足りないな」
「フロムウェル何を言っているのですか?
ファーシリウス様の側近たる者他の者たちが活躍する場を譲るものです。
フロムウェルが外で好き放題暴れたら他の者たちの活躍の場を奪うのだと何故わからないのでしょうか?」
「何だと!?」
またクラウスさんとフロムウェルさんが言い争う。
シリウス様とレナンドさんは苦笑いを零している。
魔族は力がすべてのところがあり、自分より強い者には忠誠を誓う生きものなのだ。
ヴァンパイア族のクラウスさんとウルフ族のフロムウェルさんは特に得意とするものが、クラウスさんは魔法でフロムウェルさんは体術で種類こそ違うが、上位のクラウスさんの方が強い。
クラウスさんとフロムウェルさんとでは実はかなりの実力差があるのだ。
フロムウェルさんは側近に選ばれている位だから、かなり強くて普通のヴァンパイア族となら良い勝負で勝ったりすることもあるらしい。
でもフロムウェルさんはしょっちゅうクラウスさんに戦いを挑んではコテンパンにされている。
それでもフロムウェルさんはめげないで、何度もクラウスさんに戦いを挑んでいるそうだ。
そしてフロムウェルさんはクラウスさんに対しては気安いというか不遜で遠慮がまったくない友人のように接する。
何なら喧嘩仲間のような関係で話し方も性格も対象的だけどクラウスさんもそれを受け入れている。
私はそんな二方のやりとりを微笑ましいようなハラハラするような気持ちで苦笑いしながら見つめる。
「しょうがありませんね、そんなに暴れたいのなら私が今お相手しましょうか?」
「上等だ!外に出ろ!」
クラウスさんの挑発にフロムウェルさんが乗って一触触発の雰囲気となる。
「お前たちやめんか!今作戦実行中なのだぞ、今暴れてどうする!本当にお前たちは!」
ドラキエスさんに注意されたクラウスさんとフロムウェルさんが睨み合いながらも、肩を竦めて大人しくなる。
さすがのフロムウェルさんとクラウスさんもドラキエスさんには頭が上がらないようだ。
「ほんにお前たちは飽きもせず毎回騒がしいのじゃ。
してリゼット様は大丈夫かの?」
アンディナさんが私に声をかけるとみんなが一斉に私の方を見た。
私はパチパチと目を瞬かせる。
「アンディナさんありがとうございます、私はいつもと変わらず大丈夫ですよ。
ところで1時間後にドラゴン族、他の方たちが両国に出発すると聞きましたが、私たちが城に向かうのはどれくらいになるのでしょつか?」
「そうじゃぁの、妾たちの調べではゲオング王国もカナンゲート聖王国も小国で王都の国民の数は両方とも二万もいないからの、妾たち魔族が半分に分かれて三百ずつくらいじゃ。
それでまずドラゴン族が空から攻撃するじゃろ?
それだけで多くの平民は逃げるじゃろし昼までには決着がつくのではないかえ」
「昼までに…そんなに早く?」
魔族たった三百程で両方の王都で昼までにはもう決着がつくの?
わかってはいたけど、それほどまでに魔族が圧倒的強いのか。
「早ければ3時間程かもしれぬ」
「そうですか、わかりました。
私もそのつもりにしておきます」
私が答えると。
「リゼット本当に良いのか?」
「えっ?」
シリウス様は殊更心配そうだ。
「リゼットさまは行かなくてもいいのじゃないのですかの?
わしたちで十分だと思いますわい」
レナンドさんも気遣う視線を向けて私を見てくる。
「いえ、私もみなさんと同じようにゲオング王国とカナンゲート聖王国のしたことは許せません。
それに私自身のことでも決着を着けたいのです。
どうか私も行かせて下さい」
私が真剣に訴えると。
「わかった、リゼットも我らと一緒に参ろう」
「はい」
シリウス様の言葉に私は返事する。
するとシリウス様が私の頭を撫でてきた。
みんながいるからちょっと恥ずかしいけど、私は何も言わず受け入れた。
それからお茶を飲みながら静かに時が過ぎるのを待った。
1時間ほどして先遣隊から連絡がシリウス様にあり、ドラキエスさんが出発を指示してドラゴン族が空へと飛び立ち、他の魔族もドラゴンの背に乗ったり転移で出発した。
いよいよゲオング王国とカナンゲート聖王国への侵攻が始まった。
本当に始まったんだと私は緊張が高まった。
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