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五十九話

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カナンゲート聖王国王太女プリシラside



 また大陸から船に乗って1ヶ月以上もの航海をしてやっと魔国に到着したわ。

 わたくしは本当は元々魔族討伐なんてどうだって良かったのよ。

 だけどわたくしと婚約したゲオング王国の第二王子であるオーウェン様が、わたくしとの婚約を結んでから昨今ゲオング王国とカナンゲート聖王国の立場が危うくなっているからどうにかしたいって常に仰っていてね、それについてはわたくしも王太女いずれは女王となる身にとっては情勢を見て動くことは大切だと思っているから、まあ賛成して一度目の魔族討伐隊をオーウェン様と一緒に編成して魔国に向かった訳なの。

 でも結果は…あんなに忌まわしい魔族が強いとは思わなかったわ。

 両国の魔法剣士とあの卑しい平民聖女が前線で戦っていたけど、すぐにわたくしたち討伐隊が不利になってわたくしたちの判断で引き返してきたのだけど…。

 元々昔から魔族は滅多に大陸に現れることなく、上陸してきても少し暴れてすぐいなくなっていたと聞いたわ。

 わたくしが生まれてからも数度くらいしか魔族はやってこなった。

 確かに魔族は人間より強いと言われているけれど、魔族の数は人間に比べると圧倒的に少ないというし、788年前にわたくしとオーウェン様の祖先の勇者と聖女が現れてから、人間側と魔族側が牽制し合い、魔族側が以前にも増して無闇やたらに攻めてこなくなったということなのよ。

 だから魔獣は大陸にもいるけれど、魔獣はわたくしたちでも簡単に討伐出来ているから、今まで何も問題なかったのですわ。

 でもオーウェン様は大陸に帰ってきてから、ずっと失敗してしまったことを気にされてて、どうしてそんなに敏感になるのかわたくしには全然わからなかったわ。

 確かにオーウェン様の仰ることも一理はあるのですのよ。

 昨今インベルダ王国が魔獣討伐用や結界を張る魔道具の開発に成功したとかで、非常に高価でありながら各国が購入したり、購入を検討しているところが出てきて、以前と比べれば我が国への結界を張ったり魔獣討伐の依頼が減ってきたことは事実なんですのよ。

 でもそれはまだ僅か、まだほとんどの国がわたくしたちを頼りにしておりますわ。

 まあ先を見越せばね、わたくしたちの両国は先細っていくであろうことは予想はついているわ。

 だからオーウェン様は今魔族を討伐して両国の力を改めて他国に知らしめようとなさったのでしょうけどね。


 それにわたくしのカナンゲート聖王国とゲオング王国は隣国で近くにあり、歴史の古い周辺国に比べると、788年前以降に建国された国ですので歴史は浅いですし、そんなに大きな国ではなく資源もあまりなく食料の自給率も両国とも50%程と低く他国からの輸入に頼っていますの。

 なので他国から結界や魔獣依頼の報酬は大きな収入源となっていて、それらに頼っているところはあります。

 でもだからと言って無理に魔族を討伐しなくても良いのじゃないかとわたくしは思っているのですよ。

 確かにオーウェン様の言うことはご尤もなのですけれど、わたくしたちが生きている間はまだまだ安泰だろうとわたくしは思っていますの。

 なのにオーウェン様は向上心というか、野心がおありになって手柄を立てて、どうしても自分の力を誇りたいようなのですよね。

 まあ男性とは血気盛んでそういうものかもしれないですけどね。

 わたくしは国内外で結界を張ったり、王族貴族を神聖魔法で癒してきたことから功績を上げてきてますから、名は大陸中に轟いていて、わたくしは今でも十分満足なのですわ。

 そのわたくしに比べればオーウェン様は確かに目覚ましい功績を上げた訳ではなく、彼のお兄様の王太子殿下の方が歴代の勇者の中でも優秀と言われる魔法剣士で、魔獣討伐や政事においてもその優秀さを発揮されているらしく、国内外でも大変評価の高いお方だとお聞きしております。

 見目もお顔はゲオング王国一の美形と言われるオーウェン様の方が確かにお兄様より美しいけれど、王太子殿下は身長が高く鍛錬にもよく勤しんでおられるのでしょう、惚れ惚れするくらい筋肉質で男らしい体格で、またお顔も整っていらっしゃいますが、美形というより鋭い瞳の獣を思わせるような野性的で、色気漂う魅力のある方ですの。

 確かにオーウェン様は誰が見ても目を瞠る程にお美しい方ですけれど、わたくしはお兄様の方が素敵だと密かに幼い頃から思っておりましたわ。

 でもお顔が本当に美しいオーウェン様はいずれ王配となり、わたくしの隣に立つに相応しい方だと最初から思っておりましたし、最初の頃はあまり褒めて下さらなかったのが、最近では毎日のようにわたくしを『誰よりも美しいよ』『その華やかなドレスが艷やかで華やかなピンクブロンドの髪と君の宝石より煌めくその青紫の瞳、君の美しさを際立たせているね、とても似合っているよ』『私のプリシラ愛してるよ』と褒めて愛を囁いてくれるようになりましたの。

 最初の頃のオーウェン様はわたくしを見て緊張しておられたのね。

 だけど日々を一緒に過ごすうちにその緊張が解けてきて、自分の気持ちを素直に告げて下さるようになったのですわね。

 わたくしオーウェン様にこんなに愛されているんですもの、わたくしからもオーウェン様に愛を返していこうと思っておりますのよ。


 だけどオーウェン様は昔からずっとそのお兄様に劣等感を持っていて、並々ならぬ対抗心を持っておられるご様子。

 だから尚更魔族討伐をして自らの名を上げたいと思われたのかもしれませんね。

 なのでわたしがオーウェン様を愛することで、きっと自信を持って下さると思っているのですわ。








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