60 / 96
五十九話
しおりを挟むカナンゲート聖王国王太女プリシラside
また大陸から船に乗って1ヶ月以上もの航海をしてやっと魔国に到着したわ。
わたくしは本当は元々魔族討伐なんてどうだって良かったのよ。
だけどわたくしと婚約したゲオング王国の第二王子であるオーウェン様が、わたくしとの婚約を結んでから昨今ゲオング王国とカナンゲート聖王国の立場が危うくなっているからどうにかしたいって常に仰っていてね、それについてはわたくしも王太女いずれは女王となる身にとっては情勢を見て動くことは大切だと思っているから、まあ賛成して一度目の魔族討伐隊をオーウェン様と一緒に編成して魔国に向かった訳なの。
でも結果は…あんなに忌まわしい魔族が強いとは思わなかったわ。
両国の魔法剣士とあの卑しい平民聖女が前線で戦っていたけど、すぐにわたくしたち討伐隊が不利になってわたくしたちの判断で引き返してきたのだけど…。
元々昔から魔族は滅多に大陸に現れることなく、上陸してきても少し暴れてすぐいなくなっていたと聞いたわ。
わたくしが生まれてからも数度くらいしか魔族はやってこなった。
確かに魔族は人間より強いと言われているけれど、魔族の数は人間に比べると圧倒的に少ないというし、788年前にわたくしとオーウェン様の祖先の勇者と聖女が現れてから、人間側と魔族側が牽制し合い、魔族側が以前にも増して無闇やたらに攻めてこなくなったということなのよ。
だから魔獣は大陸にもいるけれど、魔獣はわたくしたちでも簡単に討伐出来ているから、今まで何も問題なかったのですわ。
でもオーウェン様は大陸に帰ってきてから、ずっと失敗してしまったことを気にされてて、どうしてそんなに敏感になるのかわたくしには全然わからなかったわ。
確かにオーウェン様の仰ることも一理はあるのですのよ。
昨今インベルダ王国が魔獣討伐用や結界を張る魔道具の開発に成功したとかで、非常に高価でありながら各国が購入したり、購入を検討しているところが出てきて、以前と比べれば我が国への結界を張ったり魔獣討伐の依頼が減ってきたことは事実なんですのよ。
でもそれはまだ僅か、まだほとんどの国がわたくしたちを頼りにしておりますわ。
まあ先を見越せばね、わたくしたちの両国は先細っていくであろうことは予想はついているわ。
だからオーウェン様は今魔族を討伐して両国の力を改めて他国に知らしめようとなさったのでしょうけどね。
それにわたくしのカナンゲート聖王国とゲオング王国は隣国で近くにあり、歴史の古い周辺国に比べると、788年前以降に建国された国ですので歴史は浅いですし、そんなに大きな国ではなく資源もあまりなく食料の自給率も両国とも50%程と低く他国からの輸入に頼っていますの。
なので他国から結界や魔獣依頼の報酬は大きな収入源となっていて、それらに頼っているところはあります。
でもだからと言って無理に魔族を討伐しなくても良いのじゃないかとわたくしは思っているのですよ。
確かにオーウェン様の言うことはご尤もなのですけれど、わたくしたちが生きている間はまだまだ安泰だろうとわたくしは思っていますの。
なのにオーウェン様は向上心というか、野心がおありになって手柄を立てて、どうしても自分の力を誇りたいようなのですよね。
まあ男性とは血気盛んでそういうものかもしれないですけどね。
わたくしは国内外で結界を張ったり、王族貴族を神聖魔法で癒してきたことから功績を上げてきてますから、名は大陸中に轟いていて、わたくしは今でも十分満足なのですわ。
そのわたくしに比べればオーウェン様は確かに目覚ましい功績を上げた訳ではなく、彼のお兄様の王太子殿下の方が歴代の勇者の中でも優秀と言われる魔法剣士で、魔獣討伐や政事においてもその優秀さを発揮されているらしく、国内外でも大変評価の高いお方だとお聞きしております。
見目もお顔はゲオング王国一の美形と言われるオーウェン様の方が確かにお兄様より美しいけれど、王太子殿下は身長が高く鍛錬にもよく勤しんでおられるのでしょう、惚れ惚れするくらい筋肉質で男らしい体格で、またお顔も整っていらっしゃいますが、美形というより鋭い瞳の獣を思わせるような野性的で、色気漂う魅力のある方ですの。
確かにオーウェン様は誰が見ても目を瞠る程にお美しい方ですけれど、わたくしはお兄様の方が素敵だと密かに幼い頃から思っておりましたわ。
でもお顔が本当に美しいオーウェン様はいずれ王配となり、わたくしの隣に立つに相応しい方だと最初から思っておりましたし、最初の頃はあまり褒めて下さらなかったのが、最近では毎日のようにわたくしを『誰よりも美しいよ』『その華やかなドレスが艷やかで華やかなピンクブロンドの髪と君の宝石より煌めくその青紫の瞳、君の美しさを際立たせているね、とても似合っているよ』『私のプリシラ愛してるよ』と褒めて愛を囁いてくれるようになりましたの。
最初の頃のオーウェン様はわたくしを見て緊張しておられたのね。
だけど日々を一緒に過ごすうちにその緊張が解けてきて、自分の気持ちを素直に告げて下さるようになったのですわね。
わたくしオーウェン様にこんなに愛されているんですもの、わたくしからもオーウェン様に愛を返していこうと思っておりますのよ。
だけどオーウェン様は昔からずっとそのお兄様に劣等感を持っていて、並々ならぬ対抗心を持っておられるご様子。
だから尚更魔族討伐をして自らの名を上げたいと思われたのかもしれませんね。
なのでわたしがオーウェン様を愛することで、きっと自信を持って下さると思っているのですわ。
35
お気に入りに追加
187
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
ハズレ令嬢の私を腹黒貴公子が毎夜求めて離さない
扇 レンナ
恋愛
旧題:買われた娘は毎晩飛ぶほど愛されています!?
セレニアは由緒あるライアンズ侯爵家の次女。
姉アビゲイルは才色兼備と称され、周囲からの期待を一身に受けてきたものの、セレニアは実の両親からも放置気味。将来に期待されることなどなかった。
だが、そんな日々が変わったのは父親が投資詐欺に引っ掛かり多額の借金を作ってきたことがきっかけだった。
――このままでは、アビゲイルの将来が危うい。
そう思った父はセレニアに「成金男爵家に嫁いで来い」と命じた。曰く、相手の男爵家は爵位が上の貴族とのつながりを求めていると。コネをつなぐ代わりに借金を肩代わりしてもらうと。
その結果、セレニアは新進気鋭の男爵家メイウェザー家の若き当主ジュードと結婚することになる。
ジュードは一代で巨大な富を築き爵位を買った男性。セレニアは彼を仕事人間だとイメージしたものの、実際のジュードはほんわかとした真逆のタイプ。しかし、彼が求めているのは所詮コネ。
そう決めつけ、セレニアはジュードとかかわる際は一線を引こうとしていたのだが、彼はセレニアを強く求め毎日のように抱いてくる。
しかも、彼との行為はいつも一度では済まず、セレニアは毎晩のように意識が飛ぶほど愛されてしまって――……!?
おっとりとした絶倫実業家と見放されてきた令嬢の新婚ラブ!
◇hotランキング 3位ありがとうございます!
――
◇掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!
凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。
紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】
婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。
王命で結婚した相手には、愛する人がいた。
お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。
──私は選ばれない。
って思っていたら。
「改めてきみに求婚するよ」
そう言ってきたのは騎士団長。
きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ?
でもしばらくは白い結婚?
……分かりました、白い結婚、上等です!
【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!
ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】
※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。
※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。
※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。
よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。
※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。
※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる