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五十六話
しおりを挟む舞台のような壇上で挨拶とシリウス様の宣言を聞いた後、私たちはそこから下りた。
するとみんなが次々と集まってきて私にありがとうとお礼を言ってくれた。
中には泣き出す方もいて、どうしようと困ってシリウス様を見上げると、シリウス様はククッと笑いながら私の頭を撫でた。
訓練所で一緒に訓練した方たちも次々に集まってきてお礼を言ってくれたり、少しお話した。
みんな以前とは比べものにならない笑顔を私に向けてくれた。
たくさんの方に囲まれてワイワイと賑やかな時間を過ごしてから、シリウス様と私がみんなから離れて、ナリナさんたちが用意してくれた椅子に座って休憩している時に、以前シリウス様と街に出た時に訪れた魔道具店のレナンドさんが近付いてきた。
「レナンドさん!」
私が名を呼び立ち上がるとレナンドさんはニコニコとしながら私に礼をしてきた。
「リゼットさま、この度はお礼を申し上げるのが遅くなって申し訳ありません。
魔族のみなをわしを助けてくださり本当にありがとうございます」
「いえいえ、そんなこと…私は自分の意志でしただけですよ」
私は自分からもレナンドさんに近寄った。
「いやリゼットさまはご自分の命を賭けて助けて下さったわい。
すべての魔族を救った後、魔力が枯渇して倒れたと聞いておりますわい。
本当になかなか出来ることではありますまい、貴方様こそ魔族の誉でありますわい」
「そ、そんなに褒められると何と言っていいか…」
私は褒められ過ぎて何て言っていいかわからない。
「レナンドよ、そなたも元気になって良かった」
私の隣に来たシリウス様がレナンドさんに声をかける。
「ファーシリウスさま、お陰様でこの老体にも命を与えて下さりありがとうございます。
ところでこれをリゼットさまにこれを差し上げてもよろしいですかな?」
レナンドさんがポケットから手の平に乗る位の四角い宝石箱のようなものを出しながら、シリウス様と私を交互に見てきた。
「それは?」
シリウス様がレナンドさんの手の上の箱を見ながら言う。
「これはですな、リゼットさまへのお守りのようなものですわい。
以前にも店で購入してもらいましたがな、これも身を守る魔道具ですわい。
ファーシリウスさまや側近たちがおるから大丈夫であろうと思いますがな、わしの気持ちとして受け取ってもらえれば嬉しゅうございますわい」
レナンドさんが頭を下げながら両手の上にその魔道具の入った箱を差し出してきた。
「そんな…そこまでして頂かなくても気持ちだけで十分ですのに…」
「リゼットよ、レナンドの気持ちだ、もらっておくのだ」
私が言うと、シリウス様が私を見下ろしながらゆっくりと言った。
「わかりました、レナンドさんありがとうございます」
「良かったわい」
私が受け取るとレナンドさんがホッとしたように呟いた。
「レナンドさん開けてもいいですか?」
「どうぞご覧ください」
私はレナンドさんに聞いてからパッカリと箱を開けた。
中には金色の三日月の中央に台座があり、その上に四方の金のた爪に囲われたシリウス様の瞳と同じ美しく輝く少し濃い赤の石が乗っている2つのイアリングだ。
小さめだけど、とても精巧に出来ていて昼過ぎの暖かい陽光に当たってキラキラとしている。
シンプルでとても私の好みのものだ。
「わぁ~とても綺麗で可愛い~」
「これはわしがリゼットさまを思って作らせてもらってものですわい。
ファーシリウスさまの魔力を通せば完成ですわい。
今までのどの魔道具より効果は絶大だと思いますでな、明日からのお守りに付けてもらえれば嬉しいですわい」
わざわざレナンドさんが私の為に作ってくれたなんて感激!
「レナンドさんありがとうございます!とっても嬉しいです!
もちろん付けさせてもらいます!一生大切にします!」
私は自分の目の前に持ってきて眺める。
金の三日月も赤い石もとっても美しい。
「レナンドさん!今付けてもいいですか?」
私は三日月のイアリングを自分の目の前に掲げながら言う。
「もちろん嬉しいですわい」
レナンドさんが嬉しそうな顔をしてくれて良かった。
私は自分で左右の耳にイアリングを付ける。
イアリングが私の耳元でユラユラと揺れている。
シリウス様が私の顔に手の平を向ける。
すると軽かったイアリングに少し重みを感じた。
イアリングに付いた魔石にシリウス様の魔力が入ったんだ。
「シリウス様もありがとうございます!」
「ふむ、リゼットとても似合っておる。
レナンド我からも礼を言おうありがとう」
「いえいえ、それでですがファーシリウスさま、突然でごさいますが明日はわしも参加させてもらえませんかの?」
レナンドさんがいきなり明日の戦いに参加したいと言ってきた。
「そなたが参加してくれればこんなに心強いことはないが、レナンドよいのか?」
「はい、もちろんでごさいますわい。
わしのような老体が参加しなくともファーシリウスさま、リゼットさま、側近たちとで十分だと思いますがな、わしも今回のことで思うことがありますわい」
「そうか、それなら明日我たちと一緒に頼むぞ、レナンド」
「はい、承知でごさいますわい」
レナンドさんがシリウス様と私を見て顔にいっぱい皺を寄せてにっこりとした。
後でシリウス様に聞いたけど、レナンドさんはあのドラキエスさんより強いのだとか。
ニコニコした好々爺に見えるのにドラキエスさんより強いなんて!
そういえばレナンドさんは元々ドラゴン族の長でシリウス様の側近だった方だものね。
だけどレナンドさんはシリウス様よりも長く生きていて、100年程前からもうそんなに生きていたくはないと言われて、シリウス様の蘇生を望まず、延命なども望まず寿命を全うしたいと言われていたのだそう。
それにドラキエスさんや他のドラゴン族の方に後進を譲り、戦闘からも遠ざかっていたのだそう。
そんなレナンドさんも今回のことで思うことがあるようだ。
私たちに会った後、レナンドさんがドラキエスさんたちドラゴン族が集まるところへ行って、しばらくするとドラゴン族のみんなからワァーと歓声が上がった。
レナンドさんの戦闘の復帰にみんな大喜びしているようだ。
なんとドラキエスさんが涙を流していて、レナンドがドラキエスさんの肩を叩いて微笑んでいた。
レナンドさんもドラゴン族のみんなに愛されているんだね。
私は微笑ましい光景に微笑みながらシリウス様を見ると、シリウス様もドラゴン族のみんなを見ながら微笑んで私の手をキュッと握ってきた。
それから庭で用意された食事やお酒などを、みんなで食べたり飲んだりしながらお喋りしながら楽しんだ。
キャアキャアワァワァと賑やかなみんなの話す声や笑い声があちこちから聞こえてきた。
シリウス様と私はいろんな方たちに囲まれながらも、その時を楽しんだ。
シリウス様は見た目はその美貌故か誰もが近寄り難いように見えるけど、実際は近寄ってくる大人にも子供にも態度を変えない方なのだ。
表情はあまり変わらないけれど、誰のどんな話にも耳を傾けてふむと頷いたり、言葉少なながらみんなとちゃんと会話する方なのだ。
今までのシリウス様を見てきてそういう方だとわかっていたけど、改めてどの方に対しても愛のある方なのだなと見た目も中身も眩しいシリウス様を私は見つめていた。
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