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五十五話
しおりを挟むその後、また週に4日の割合で私はウルフ族、スネイク族の方たちと訓練をしながらシリウス様やみんなと穏やかな日々を過ごしていた。
それからあっという間に魔族討伐隊が魔国に上陸してくる前日になった。
魔族討伐隊が船で出航してから主にヴァンパイア族が、彼らの船を監視している。
シリウス様の指示で引き続き大陸の人間たちの動向も偵察することを忘れてはいなかった。
大陸では再び魔族討伐隊を魔国に派遣することが発表されたようだが、ゲオング王国とカナンゲート聖王国以外の国はまったく動いておらず静観しているということで、両国だけの動きであることは間違いないらしい。
魔族討伐隊は明日の昼頃到着するだろうということだ。
そこでその前日の昼頃にシリウス様が魔国の全魔族を王城に呼び寄せた。
一室に全魔族を収容する場所は王城内にはさすがにないので、庭にみんなが集まった。
庭に一段高い劇場の舞台のようなものが用意され、その壇上側近さんたちが並び、その前にシリウス様と私が立った。
これって決起集会みたいなのかな?前回、カナンゲート聖王国で魔族討伐隊出陣前の夜会が王城で開かれたけど、私は教会で仕事に追われていて参加しなかった。
招待状もなかったし、呼ばれてもいなかっただろうけど…。
だから私は前世でも今世でもそういうのに参加したことはない。
そういえば、2つ前の前世で悪役令嬢だった時は夜会や卒業パーティーというのには参加したことはあったけど、また違うものだろうね。
私たちが壇上に立ったそれだけで集まった魔族たちがワァーオォーっと歓声が沸き起こった。
側近さんたちやシリウス様も私もいつもと変わらない服装で、私はいつも着ている黒のフリルのついた膝下までのワンピースを着ている。
ファーシリウス様!リゼット様!と声があちこちから上がっている。
私はこんな初めてのことに驚き緊張したけど、スーッと姿勢良く前を向くシリウス様に倣って私も姿勢を正して前を向いた。
「みなの者よ、よく集まってくれた。
初めにもうみなもよく知っているであろうが、紹介しておこう。
我の隣にいるのがみなの命を救ってくれたリゼットだ」
その時ワァーという歓声がまた起こった。
『リゼット様~』
『リゼット様ありがとうございます!』
『リゼットは俺たちの救世主だー』
『リゼット様ーっこっち見てー』
ワァーッキャア~と言われたりしてまるでスターみたいになっていることに驚く私。
そこでシリウス様が私の背を押す。
何か言えってことなんだろうけど、そんなこと聞いていなかったし、準備していなかったから何を言えばいいかわからないよ。
「えっと……私は魔族のリゼットです。
私はこの魔国でみなさんと一緒に生きていきます、よろしくお願いします」
私は何を言っていいかわからなかったから、簡潔に今の気持ちを伝えた。
私にはみんなを鼓舞するような気の利いたことなど言えないよ、ごめんなさい。
シリウス様を振り返り見るとにっこりと笑って頷いた。
その後またワァーと歓声が沸き起こった。
「みなも知っていると思うが、明日ヒト族がこの魔国にまた上陸してくる。
それを我とリゼット、側近たち、後我が選んだ者たちで駆逐する。
その時は作戦で他の者たちは城の中にいてくれ!
みなのヒト族に対する思いもあろうが、ここでの戦いは我らに任せて欲しい。
その後、ゲオング王国とカナンゲート聖王国に侵攻する。
その時はみなの力を借りたい、よろしく頼む」
シリウス様の言葉に魔族たちは拳を振り上げ、オォーという雄叫びをそれぞれ上げている。
作戦はこうだ。
魔族討伐隊が魔国に上陸してくる前にほとんどの魔族たちは城にいったん避難する。
討伐隊、隊長の第二王子オーウェンや王太女のプリシラたちはあの毒ですでに魔族は死んでいて、あちこちに死体が転がっていると思っているだろう。
あの人たちはその死体の中から上位の魔族の首をいくつか持って帰って自分たちが魔族を討伐したことにするつもりだ。
しかし彼らが上陸してきた時、死体はおろかまったく誰もおらず、いる気配もしない。
きっと不思議に思いながらも魔国の中へと進んでくるはずだ。
彼らが船から離れて中へと進んで船から遠ざかった時に、シリウス様の指示により選ばれたオーガ族とゴブリン族の面々がすべての船を破壊して、彼らの逃げ場を失くす。
そして彼らが中に進んできたところでシリウス様、私、側近さんたちとオーガ族とゴブリン族の選ばれた方たちが彼らに対峙するというものだ。
オーガ族とゴブリン族のメンバーは私と訓練した方たちだ。
彼らは同種の中でも優秀な幹部たちなのだ。
船を破壊す予定のオーガ族、ゴブリン族も船を壊してから討伐隊の後を追う予定になっている。
シリウス様は側近さんたち以外のオーガ族、ゴブリン族の代表の方たちにも討伐隊と戦い、すべての種族で自分たちがされたことを返そうと思っているということだ。
すべての魔族の思いを背負って私たちは戦う。
私も今までのこと、そして魔国にきてからの思いすべてを彼らにぶつけるつもりだ。
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