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五十話
しおりを挟むファーシリウスside
自分もヒト族と戦うとキッパリと言ったリゼット。
「わかった…我はリゼットに何でも協力しよう」
「シリウス様ありがとうございます。
それでシリウス様は魔国に上陸したヒト族を排除するつもりですよね?
その後はどうするつもりなのですか?」
リゼットは魔国に上陸してきたヒト族だけでなく、ゲオング王国とカナンゲート聖王国をどうするのか?と聞いてきているのだ。
「…魔国に上陸してきたヒト族を排除した後、ゲオング王国とカナンゲート聖王国を滅ぼすことにする。
アヤツらを許すことは出来ぬ」
我は正直に答えた。
「そうですか」
「そのことについてリゼットの意見を聞こうと思っていたのだ」
我はリゼットの瞳をジッと見つめる、リゼットも目を逸らさず我を見つめてくる。
「私も同じ考えです、そうすべきです。
今回のことはゲオング王国とカナンゲート聖王国だけが関わっているのですか?他の国はどうなのですか?」
「調べたがゲオング王国とカナンゲート聖王国だけだ、他国は関わっていない」
「そうなのですね…わかりました。
まずはゲオング王国とカナンゲート聖王国なのですね、もちろん私も行きます」
「…わかった」
リゼットが以前より毅然としていて、さらに凛とした美しさに我は見惚れた。
まだ体調が万全でないリゼットをまた寝かせて、ナリナたちに頼んでから我は側近たちと応接室に戻ってきた。
そこで我は今までリゼットにしか話していなかったあの神との邂逅を側近たちに話した。
側近たちや他の魔族たちも今回のことで、ヒト族にさらなる憎しみを持ったことだろう。
ゲオング王国、カナンゲート聖王国だけでなくすべてのヒト族を滅ぼしたいと思っているかもしれぬ。
デーモン族とドラゴン族以外の者たちはそれぞれ大陸で暮らしていた時にヒト族から酷い扱いを受け、親などを殺されている者もいる。
ドラゴン族も大陸で暮らしている時にヒト族に敵と見做されて同種を殺されている。
デーモン族は少し特殊であるが、彼らを召喚するヒト族はみなあらゆる負の感情に支配されている者たちばかりだ。
デーモン族もそんなヒト族ばかりを見てきて、良い感情など持ってはいないだろう。
魔族はみなヒト族を恨み憎んでいるのだ。
されどあの神がいる限り、あの神に勝たなければすべてのヒト族を滅ぼすことは出来ない。
あの神はヒト族の国のひとつやふたつ滅ぼすことは自分が楽しむ為には良いとなどと言っていた。
だから今回のことでゲオング王国、カナンゲート聖王国を滅ぼすことは問題にならないだろう。
しかし他の国もとなると我が関わらずとも、あの神が邪魔をして阻止してくるに違いない、今の我らではあの神には勝つ方法を見つけないことには勝てない。
我は昔ヒト族をすべて滅ぼしたかったがあの神のせいで出来なかった。
悔しいが、あの神と我の力の差は歴然としている。
「…そんな…」
フロムウェルが我の話に呆然とする。
「魔王ファーシリウスよ、そうであったのじゃな…」
アンディナも深刻な顔をしながら呟く。
「みながそれぞれヒト族に憎しみを持っているであろう、しかしもしみなが全ヒト族を滅ぼしたいのならば、あの神を何とかせねば手を出せないのだ。
あの神と我の契約であるが他の者たちが全ヒト族を滅ぼそうとしても、あの神は必ず阻止してくるはずだ」
「ファーシリウス様そうだったのですな…」
ドラキエスもグッと歯を食いしばる。
「その神に勝つ方法は?…」
「まだ見つかっておらぬ、我は5000年以上その方法を探してきたがな…」
「そうなのですか…私たちはファーシリウス様の思いをわかっておりませんでした…」
クラウスに聞かれて答えた後、コムシジャが我を気遣う言葉を言った。
「我とてヒト族に対する恨み憎しみはなくなっておらぬ、だがそれよりこの世界に生きる者を自分の楽しみの為だけの物であるように見ているあの神が許せないという思いの方が年々強くなってきて、今本当にすべての全ヒト族を滅ぼしたいのかどうなのかわからなくなってきておる」
我の正直な今の思いを伝えた。
「そうでしょうな、そんなに長くファーシリウス様が苦しんでおられたことワシたちは知りませんでした。
ワシたちはゲオング王国とカナンゲート聖王国のことは絶対許せないと思っております。
しかしワシたちも長年この魔国で平和に暮らしてきて、以前よりはヒト族に対しての恨み憎しみの感情は弱くなってきてるように感じます、そうでない者もいるでしょうが」
ドラキエスの言葉にみながふむという納得という顔になる。
「そうですね…リゼット様と知り合って接するようになって変わってきたこともありますね」
「フロムウェルリゼットと接するようになってどう変わってきたのだ?」
我はフロムウェルに尋ねる。
「…その、…何ていうかヒト族にもいろいろといるのだな…と。
だからと言ってヒト族に対する恨みはなくなっていませんが…」
「…そうか」
「妾もじゃ、リゼット様はどう望まれるのじゃろ?」
「リゼットはどう望むとは?」
「妾たちの命を救ってくれたのは魔王ファーシリウスとリゼット様じゃ。
リゼット様が自分の命を賭けて浄化と解毒をしてくれなければ、妾たちはみな死んでいたのじゃ。
今や妾にとってリゼット様は魔王ファーシリウスと同じく自分の命以上となったのじゃ。
妾は魔王ファーシリウスとリゼット様が望む世界で生きたいのじゃ。
もしリゼット様があのふたつの国以外のヒト族を生かすと言うのなら妾はそれでよいと思っておるじゃ」
「ワシもです、私もヒト族に同種を殺された恨みは消えておりません。
ですが、ファーシリウス様とリゼット様が望むことこそが大切であります」
アンディナに続きドラキエスも同じことを言った。
「アンディナとドラキエス以外の者たちはどう考えるのだ?」
我はみなを見渡す。
「私も同じ考えでございます。
ファーシリウス様とリゼット様の考えが私の考えであります」
「俺もです」
「私もです」
クラウス、フロムウェル、コムシジャが答えた。
みなは今は我だけでなくリゼットが何を望むか、どうしたいかの方が自分たちより重要になっているのだな、アンディナ以外の者たちもそれほどにリゼットが何よりも自分たちより大切になったという証拠だ。
「そうかわかった、とにかく今は魔国にやってくるヒト族全員叩き潰す。
それからその後、ゲオング王国とカナンゲート聖王国に同時侵攻して、ふたつの国を滅ぼす。
まあ、それだけで他国のヒト族には脅威となるであろう。
それでも魔国に攻めてくるのなら、魔国に来る者は残らずすべて殲滅するがな。
あの神の契約では2つ以上の国を滅ぼすことは許されておらぬが、魔国に侵攻してくる者を排除は出来るのだ。
その後のことはリゼットも含めそなたたちと話し合うとしよう、それでよいな?」
「「「「「はっ!」」」」」
我は側近たちの返事を聞いてから自室に戻った。
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