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四十九話
しおりを挟むファーシリウスside
そしてアンディナはその国王からその毒が効かないのは勇者の末裔のスキル聖剣の光と聖女の神聖魔法を持っている者のみであることと、それと解毒出来る者は神聖魔法の治癒魔法と共に闇属性の毒魔法を使える者だけだということを聞いていて、もしやリゼットならとアンディナは一度別次元に飛んでからすぐに自分に結界を張りリゼットの元に転移して、そのことを伝えた後吸い込んだ少量の毒で倒れたというのだ。
幸いのことにアンディナだからリゼットに毒のことを話す余地が残されていたのだと思う。
すべてが我らに良い方に運んだ、リゼットがこの魔国にいたこと、アンディナがその毒について知っていたこと。
結果それを聞いたリゼットが魔国一体を浄化しながら神聖魔法と闇属性の毒魔法を組み合わせて全魔族を浄化解毒してくれて、最後ナリナたちを解毒したところで魔力が切れて倒れたということだった。
その毒は魔族にとっても猛毒だが、ヒト族にとっても同じなのだという、そして10日間もの間空気中に留まり続けて効果を発揮するものらしい。
であるから今は禁術となり使用を禁止されているのに、ヒト族にも影響があるかもしれないのに、あやつらはそれを使ってきたのだようだ。
アンディナ曰くヒト族にも影響のある毒だから、10日はヒト族が攻めてくることも出発することはないだろうという話だった。
なので我が全魔族を蘇生してからある程度時間も経っているので、すでにみな普段通り復活していたので我はデーモン族とヴァンパイア族を集め、ゲオング王国とカナンゲート聖王国への情報収集を命令した。
デーモン族とヴァンパイア族は一番ヒト族に似た見目をしているからだ。
ヒト族に黒髪や黒や赤の瞳は少ないがいなくはない。
それにデーモン族は性別見目も髪や瞳の色を自由に変えられるし、角も消すことが出来る、ヴァンパイア族は角はなく牙はあるが、他の種族より目立たない。
それと両方の種族は闇魔法が得意で魅了を使えて、相手の記憶を消す忘却の魔法も使うことが出来るから情報収集にうってつけだからだ。
トップのアンディナとクラウスの指示でゲオング王国とカナンゲート聖王国に潜り込んだ者たちからの情報で、ヒト族のヤツらはその毒を魔国に撃ち込み毒の効果がある10日間は出発することはないということ。
そしてあの毒できっとすべての魔族が死に絶えていると思っていること。
10日が過ぎてからまた魔族討伐隊を編成して、魔国に上陸し死んだ魔族の何体かの上位の者の首を持って返って、自分たちが全魔族を討伐したということにするらしい。
本当に腹立だしい、アヤツらはこのまま引き下がってはいないだろうと思っていたが、このような手を使ってきたとは。
リゼットがいなければ、我らは本当に全滅していたのだ。
我が油断していたからだということは否めない。
我らが魔国で暮らすようになってからずっと平和であったこと、魔族とヒト族には圧倒的な力の差があること。
リゼットが側にいることにすっかり楽しさを見出して毎日が幸せだったこと。
どこかでヒト族がまた何かしてくるかも知れないと思いながらも、情報収集を怠っていたからだ。
我がヒト族を舐めていたのもあるな。
例えどんな手を使ってきてもヒト族など我らの相手ではないと決めつけていた。
リゼットが目を覚ました時、我は生まれて初めて涙した。
両親がヒト族に嬲り殺しにされた時は怒りに我を忘れたこともあるが、後で冷静になっても涙が出なかったのに。
細く小さい身体で何事にも一生懸命で凛としていて、それでいて我の言葉にすぐ照れて顔を赤くしたり、無邪気で屈託のない笑顔を見せるリゼット。
今回倒れているリゼットを見つけた時は自分の身体が芯から冷えていくのを感じた。
目覚めてくれるとわかっていたが、愛しい存在が傷だらけで瀕死の状態で倒れている姿を見るのはこんなに辛く苦しく胸が張り裂けそうになるものなのだと我は初めて知った。
そしてリゼットが目覚めて我の姿を映してくれた時に我は腹から安心と愛しさが込み上げてきて、堪え切れず涙が落ちたのだ。
我の初めての愛する存在となったリゼットをもう絶対離さない、これからどんなことがあっても我がリゼットの心と身体を守るとあらためて我は強く決心したのだ。
リゼットはしばらくは起き上がることは出来ないだろうから、安静にしてもらうつもりだ。
その後、どうするかはリゼットに今回のことを話してリゼットの意見を聞いてからにするつもりだ。
リゼットが目覚めるまでの4日間ですべての情報は揃った。
リゼットが目覚めた翌日にナリナから何が起こったか話を聞きたいと言っていると聞いて、アンディナを連れてリゼットの部屋に行くことになったのだが、他の側近たちもリゼットに会ってお礼を言いたいと言うので、リゼットに了解を取って我と側近たちでリゼットに会いに行った。
リゼットはベッドから起きてベッドの背にもたれながら話を聞きたいと言ったので、まだ長時間起きているのは辛いはずなのに、どうしてもと言うのでアンディナに説明してもらった。
我ら魔族が血を吐いて倒れたのはゲオング王国とカナンゲート聖王国のみに伝わる勇者側のスキル聖剣の光と聖女側の神聖魔法両方により作り出される毒であったこと。
その毒を生成して魔石に込めて、ヒト族が開発した魔道具の大砲で距離を計算して、船で途中まで近付いてその魔道具で魔国に毒を撃ち込んできた。
その毒は魔族にも猛毒だが、ヒト族にも同じように猛毒となること、またその毒は10日間もの間空気中に留まり続け効果を発揮すること。
そしてスキル聖剣の光と神聖魔法を持つ勇者と聖女の末裔のみその毒は効かないこと。
だからリゼットは無事であったこと。
解毒方法はリゼットが行なった神聖魔法の治癒魔法と闇属性の毒魔法を組み合わせたものしかない。
なのでヒト族は魔国でリゼットが生きていることを知らないはずだから、もう魔族はすべて死に絶えていると思っていて、また魔族討伐隊を編成して、10日後に大陸を出発して魔国に上陸して首だけを持って帰るつもりだと伝えた。
リゼットはただ静かにアンディナの話を聞いていたが、だんだんと顔色を悪くして今は震えている。
リゼットから怒りを感じて、顔色を悪くしたのはそのせいだとわかっているが、我はリゼットが心配で頬に触れる。
「リゼットよ、大丈夫か?もう寝た方がよいのではないか?」
「…がう…違うのです…ヒト族、ゲオング王国とカナンゲート聖王国があまりにもあまりにも酷いことをしたのだと…許せない気持ちなのです」
リゼットが顔を上げるとその金の瞳が怒りを湛える炎のように我には見えた。
「…リゼット」
「シリウス様10日後に毒の効果は切れて、それから船でヒト族がやってくるのですよね?私も戦わせて下さい」
リゼットがキッパリと言う。
「…それは駄目だ、リゼットは魔力が枯渇してしまったのだ。
ヒト族は10日以上経って毒の効果がなくなってから、船でこちらにやってくるつもりだ。
船だと1ヶ月以上はかかるであろう。
その頃にはそなたは完全に回復しているであろうが、我はそなたが心配なのだ、だからそれは認められん」
我はリゼットの目を見つめて真剣に言ったが、リゼットは首を横に振る。
「ゲオング王国とカナンゲート聖王国に対してちゃんとケリを付けなければなりませんよね?
シリウス様もそう思っておられますよね?私も同じなのです。
私は魔族です、みなさんを殺そうとしたヒト族を許せません!」
「リゼット…」
アンディナやドラキエスも目を瞠る。
「良いのか?リゼットよ」
我はリゼットの心中をわかっているが聞いた。
「はい!シリウス様どうか私が戦えるように回復をお手伝いして下さい」
リゼットはそうキッパリと言った。
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