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四十二話

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ゲオング王国第二王子オーウェンside


 私は国王である父上に手紙を出してからいったんお忍びで母国に帰った。

 魔族討伐に失敗したままでは終われない。

 国内外でそして何よりも兄上に馬鹿にされたくない。

 子供の頃は兄上は私にとても優しかった。

 剣術でもどんなことでも一緒にやってくれて出来るようになると褒めてくれたし、出来なくても「お前なら必ず出来るようになるさ」と慰めてくれた。

 私も兄上に追いつきたくて一生懸命頑張った。

 なのにいつの頃からだろう?兄上が私に冷たくなった。

 私を避けるようになった。

 そして私を軽蔑するよう目を向けてくるようになった。

 それが何故なのか?私にはわからず、一度兄上に直に聞いてみたことがあった。

「自分の胸に聞いてみろ!」

 吐き捨てるように憎々しげに言う兄上に私は訳がわからず、キョトンとする。

 本当に何故かわからないと私が言うと。

「お前は陰で私の悪口や貶めることを言っているな。

 他の者から聞いた時には信じていなかったが、偶然父上とお前が私のことを話しているところを私は聞いてしまったんだ。

 ハッ私はそんなにお前に嫌われていたとはな…私はとんだ道化だった訳だ。

 私はもうお前に近付かないようにするから安心しろ失礼する」

 そう言って兄上は立ち去ってしまった。

 私はただ父上や他の者たちに自分を認めて褒めて欲しかっただけなんだ!

 みなが兄上を褒めるから、第一王子殿下ならこんなことすぐに出来るとみなが兄上と私を比べるから、だからみなに私を褒めて欲しくてちょっと兄上のことを言っただけなんだ。

 私には悪気はなかったんだ!なのに私はこんなに辛い思いをしているのにどうして兄上はわかってくれないんだ!

 ちょっと私の方を良く見せようと悪口を言ったくらいで何なんだ!本当に思って言ったのじゃないのに!

 それから私と兄上の関係は犬猿なものとなっていった。

 父上は自分に似ている兄上より母上に似ているいる私の方を明らかに可愛がり、甘やかしていたと思う。

 だから私が王太子になるのだとずっと思っていたのに、でも結果は兄上が王太子になった。

 有力な貴族がこぞって兄上の後ろ盾になったことも大きかっただろうが、何よりも兄上を王太子にする決断したのは父上だった。

「どうして私じゃないんだよ!」

 って父上を責めたかった、言わなかったけど。

 だから私はこのままではいけないんだ!ちゃんと名誉を回復しないと!

 父上にも兄上にも認められる存在でいないと駄目なんだ!こんなところで躓いてはいられないんだ



 それにしても私の婚約者のプリシラ、アイツは失敗したことをまったく気にしておらず、呑気に遊び回って何なら私だけのせいにするような態度だ。

 あんな女、大聖女でも王太女でも何の役にも立たない、もうアテにはしない。

 私が思いついた方法で魔族を全員殺してやる!

 そうして私がこの世界のリーダーになってやるんだ、そうすれば兄上を越えられる、認めてもらえる。

 私は少数の従者と護衛を連れて母国へと戻り、すぐに父上に面会を希望した。

 先に父上宛に手紙を送っていたので、父上だけとすんなりと会うことが出来た。

「オーウェン息災か?」

「父上、お久しぶりです、お会い出来て嬉しく思います。

 はい恙無く日々を過ごしております。

 父上はご健勝でございますか?」

「ああ、私は変わらずだ。

 ところでどうしたのだ?いきなりお忍びで戻ってくるなど、それも私だけに面会したいとは何かあったのか?」

 父上が心配そうに私を見る。

 父上は昔から母上によく似ている私を特に可愛がってくれた、父上の愛情は兄上より私に向いていると思ったのに、結局父上は兄上を王太子に選んだ。

 その時私は父上に幻滅して、恨んだものだよ。

 父上は私を一番認めてくれていると思っていたのに。

 だから今度は父上を私の為に利用させてもらう。

 私は父上の執務室で、父上だけに私の計画を話した。

 それはゲオング王国とカナンゲート聖王国だけが持っている門外不出の文献にある今は禁術となっている勇者のスキル聖剣の光と聖女の神聖魔法を組み合わせて毒を抽出する方法だ。

 この毒は魔族に最も効果のある猛毒で解毒薬もなく、光属性魔法神聖魔法の治癒魔法でもどの薬でも解毒出来ないものだ。

 唯一の解毒方法は聖女の持つ神聖魔法の治癒魔法と闇属性魔法の毒魔法を同時に対象者にかけるだけ。

 だが、神聖魔法に顕現した聖女が闇属性に顕現することはほぼなく、私が読んだ文献ではこの毒が発見されて以降、神聖魔法と闇属性魔法両方を顕現した聖女はいない。

 神聖魔法は光属性同様に闇属性と対になるものとされているのでその両方を顕現させる聖女はまずいないということだ。

 だからこの毒は解毒方法がないに等しい。

 では何故解毒方法がわかったかだが、それは今から662年前にこの毒を発見した当時のカナンゲート聖王国女王と王配、聖女と勇者が当時の王国魔法剣士たちとの魔法実験で偶然その毒を発見した際に、解毒方法もその時に闇属性を持つ魔法士がいたことで偶然見つけることが出来たということらしい。

 それらは文献によるものだから本当に実験で偶然発見したかは定かではないが…毒が実際に使われたということは毒は必ず存在するもので、解毒方法も確かなものなのだろう。

 しかし問題もある、その毒は魔族だけでなく人間にも猛毒となる危険なもので、過去500年程前に大陸で一度使用されて、全人口の半分が死ぬという被害が甚大だったことで、それ以来一切の使用禁止、禁術となる条約をすべての国と結んだものだ。

 私は10歳の時この文献を王族のみが入室を許される図書室で偶然仕掛けを解いてしまったことで見つけて読んで覚えていたのだ。

 その毒はばら撒くと空気中に10日間ものあいだ留まり効果が消えない。

 そして少量でも吸い込むだけで人間も魔族もみな死に至る猛毒だ、この毒の影響を受けないのは勇者と聖女の末裔だけ、スキル聖剣の光と神聖魔法を持っている者だけだ。

 それ故に絶対使用禁止となったものだ。

 
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