【本編完結、番外編は不定期更新】蔑まれ虐げられ裏切られた無能と言われた聖女は魔王の膝の上で微睡む

asamurasaki

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三十話

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ファーシリウスside



 リゼットのウルフ族とスネイク族との戦闘訓練に同行したが、あの中で一番強い者との対戦はまだだが、彼らが相手でもリゼットはすぐに順応して、動きを予測して仕留める。

 やはりリゼットの才能は恐るべきものがあり、その適応能力と潜在能力は我と同じくらいか。

 魔法も知らぬ間に既に上級をものにしており最上級も時間の問題であろう。

 恐らく居室で自分一人で魔法の特訓をしているのであろうな、我もさすがにリゼットの居室の様子を見ることはやらないことにしておる。

 それに向上心と負けん気が強く、気迫と技術、今まで培ってきた経験、それらがリゼットの力をとなり魔族の中でも好戦的で、恵まれた身体能力、瞬発力も力も魔法の才能もあるウルフ族とスネイク族を接戦ながら退けた。

 スタミナも魔力も衰えることを知らないくらい十分にある。

 恐るべき才能と力を持っているな。

 そのうちウルフ族、スネイク族が束でかかってもねじ伏せるであろう。

 彼らだけではなくいつか我以外の魔族は誰も敵わなくなるであろう。

 ククッ、我のリゼットは素晴らしい。

 戦っている姿は誰よりも美しく気高いのだ。

 どんどんと我の中をリゼットが占領してくる。

 魔族討伐隊とやらが我が魔国に上陸してきたあの時、我は側近たちと共に応接室で魔水晶を使い、戦いの様子を見ていたがすぐにリゼットに目がいった。

 白い髪に金の瞳と魔人の見目そのものであったこともあるが、最初は背がヒト族の中でも特に低くまだ幼い子供のように見えた。

 しかもガリガリに痩せて骨と皮のような状態で、髪もバサバサで明らかに栄養不足な身体であった。

 リゼットを見て恐らくろくな食事も与えてもらえず、虐げてこられたのは明らかだった。

 我もその昔に経験したことであり、ちゃんと見ればわかることだ。

 だがいざ戦闘に突入してみれば、その能力の高さそして凄まじい神聖魔法の力に驚かされたものだ。

 あのガリガリの身体にどこにそんな力があるのかと思えた程だ。

 リゼットはたった一人の生き残りになってから8時間もの長い時間魔族、魔獣と一人で戦い続けた。

 最後には魔力が切れて倒れたが。

 倒れる前にリゼットの言葉が我の脳を揺らして聞こえきた。

 自分が生まれてから今までのこと、ここで裏切られたことに対する悲しみ嘆き怒り、それは慟哭とも言えるものであった。

 そしてヒト族に対する怒りと憎しみ、恨み、神に対する落胆。

 ニンゲンなんて大嫌いだ。

 神ももう信じない。

 魔族のようだというなら魔族になりたいとリゼットは言った。

 我に流れ込んでくるリゼットの思念にこの者は我に必要な存在だと直感して、蘇生することにした。

 しかし最初は我以外絶滅したと思っていた我と同じ魔人の血を引き継ぐ唯一のものであり、最初からどこか惹かれるものがあるものの、初代よりも圧倒的力のある聖女であるリゼットをこちらに引き込めば、今まで以上にヒト族など取るに足らんと思ったのもある。

 まあ、最初からヒト族など我らの敵ではないのだが。

 滅ぼそうと思えばいつでも我だけで出来るが、あの忌まわしい神のせいで滅ぼせないでいるだけだ。

 だが、リゼットがこちら側につけばあの神にも勝てる方法が見つかるやもしれんと何故か直感で思い彼女を保護することにしたのだ。

 もちろん最初から我はリゼットのことを気に入っていた。

 その濁りのない美しい魂に憎しみや悲哀、怒りを纏っているのさえ、我の好みであった。

 会ってみて我の魅了やあらゆる精神干渉がまったく効かないことも好ましく思った。

 だが、同じ時を一緒に過ごすうちリゼットが我の心を捕らえて離さなくなった。

 控え目に微笑む顔も、にっこりとお礼を言う笑顔も美味しそうに食べる姿も我は好ましく、恥ずかしがって赤らめる顔も戦闘でのキリッとした勇ましい姿も、涙を溢れさせる我と同じ金の瞳も我にしがみついてくる小さく細い身体も、すべてがそんなに時が経たないうちに狂おしいほど愛しいと思うようになったのだ。

 6000年以上も生きてきて初めての経験だ。

 運命などあるものかと思っていたが、リゼットと出会えたことは我にとってまさに運命で最上のものである。


 そういえば、アンディナたちと街に出て買い物をしていたのも見ていたが、リゼットが買ったリボンが我の瞳の色であるとアンディナが言った時、我の口角は知らずに上がっていたようだ。

 ドラキエスに言われたからな。

 リゼットが我を意識してその赤いリボンを選んだのではないとわかったが、無意識にでもリゼットが我の瞳の色を選んでくれたことが嬉しいのだ。

 だが、街から帰ってきてから我が部屋に迎えに行くと、街で付けていたはずのリボンがリゼットの髪に結ばれておらず、それが残念だと我は思った。

 そしてみなで串焼きを食べて幸せそうに笑うリゼットを見て、我が初めてでありたかったと嫉妬した。

 ククッ、アンディナの言う通り我は嫉妬したのだ。

 此れ程までに我が心を奪われてしまうとは…それも幸甚であると思う我は相当であるな。


 我もリゼットと街に出てみたい。

 ただ手を繋いで歩くだけでも良いな。





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