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二十二話

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オーウェン第二王子side




「あの卑しい平民の聖女はどうなったのでしょうね」

 プリシラをエスコートしてお茶会の席についてしばらくは何のことはない雑談をしていたが、しばらくしてこの国の第一聖女でクァンツォル公爵令嬢であるエリザベスが嗤ってそんなことを言う。

「さあ、あそこでもう生きてはいないでしょう?

 ずっと役立たずの無能だったけど、あそこまで役立たずとはね」

 プリシラが何とも思っていない顔で平然と言う。

「まあ王太女殿下、あの卑しい平民聖女は最後まで役立たずだったのですね」

 プリシラの言葉に同調するようにある高位貴族令嬢がせせら嗤う。

 オーウェンとプリシラがいるテーブルにはこの国で名門と言われる家の令息令嬢が集まっている。

「本当に嫌になっちゃうわ」

 フフフッとプリシラが扇で口を隠しながら笑う。

(お前こそ何もしていなかっただろう?あの平民聖女の方がまだまともに戦っていたわ)

 オーウェンは心の中で悪態をつく。

「それで王太女殿下、これからとうなさるおつもりで?」

 一人の令息がプリシラに尋ねる。

「どうって?どういうことかしら?」

「あの忌まわしい魔族たちですよ、このままのさばらせておくおつもりで?」

 その言葉にプリシラが聞かれたくないことを聞かれたとばかりに不機嫌そうに目を細める。

「そうね~オーウェン様はどうお考え?」

「えっ?」

 プリシラに突然話を振られたオーウェンはプリシラの方を見やる。

「オーウェン様が最初に魔族討伐を謳われたのですよ。

 今後どうしていくかお考えをお聞きしたいわ」

 プリシラがすべてはお前が決めたことと、全責任を自分に押し付けようとしていることにオーウェンは驚き、一瞬でカッとなり頭に血が上る。


 腹立ち紛れに怒りをブチ撒けそうになるのを寸前でグッと堪えた。

 最初に言い出したのは確かにオーウェンだったが、プリシラも乗り気で賛成してちゃんと関わって組織した魔族討伐隊であるのに、尻尾を巻いて逃げ帰ってしまったことに、プリシラは自分は何も関係ない自分に責任もないと言わんばかりの態度で、この場でオーウェンを庇おうという気もない。

 おまけに自分たちが恥をかいたことに対してもまったく気にしていない、何ら恥をかいたとも思っていない、プリシラはそれらが無意識なのだということにも苛立ちが頂点に達しそうになったが、ここはカナンゲート聖王国。

 王太女プリシラは国内だけでなく他国へも依頼されれば結界を張りに行き、さらに高位貴族や裕福な平民などを数多く神聖魔法で癒やしていることで、その功績を認められ国内の評判はすこぶる良い。

 実際にはそのほとんどを第三聖女のリゼットにさせていたのだが。

 ここで自分が少しでもプリシラに否定的な意見を言うと、自分が袋叩きに遭う。

 憤満やる方ないがグッと我慢した。

「そうですね、また対策を考えようと思います」

 オーウェンは冷めた目つきをしながら口だけ笑みを作り言う。

「まあ、魔獣はこの大陸にもいますが、ゲオング王国の勇者の末裔様とこの国の王太女殿下始め聖女の末裔様がいらっしゃいますから、魔族が警戒して攻めてくることはないでしょう」

「そうですわね、今まで通りでいいんではないかしら?」

 令息が言ったことに同じ席の令嬢たちが同意する。

 オーウェンはまるで自分が魔族討伐を謳ったことが無駄だったというような言われ方に、悔しさに歯を食いしばる。

 それにこの国の貴族たちはあの平民聖女だけでなく、国内の魔法剣士たちが多く亡くなったことに何とも思わないのか、呑気にお茶会をしていることにさらに苛立ちが募る。

 そんなことを思っているオーウェンも、第三聖女、多くの魔法剣士が亡くなったことに対して悼んでいるのではなく多くの戦力を失くしてしまったことを悔しく思っているだけなのだ。

「オーウェン様どうされましたの?」

 プリシラがオーウェンを見つめてくる。

「…いや、少し気分が優れませんので…申し訳ありませんが、私はこれで失礼します」

 オーウェンが席を立ちズンズンと歩いていく。

「オーウェン様!どうされまして?大丈夫ですの?」

 背中にプリシラのさして心配していないような自分を呼ぶ声を聞きながら、オーウェンは唇を血が滲むまで噛み締めた。


 部屋に戻ったオーウェンは従者に一人にしてくれと言って、部屋に一人になってから防音魔法をかけて一人怒りに叫びまくる。

「クソーッ!クソッ何なんだ!どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!

 ああぁーっ腹が立つ!」

「チッ!…何とか何とかしなければ…でもこの国の奴らは何もわかってねぇー。

 平和ボケの間抜けな奴らばかりだ!

 プリシラも何が大聖女だよ!
 大したことしてねえじゃねえかよ!

 本当は結界張るのも貴族を癒すのもあの平民聖女にやらせて、報奨と名声だけ自分のものにしていたくせに!

 ここままだと俺はいい笑い者になるだけだ。

 この国が当てにならないなら父上と母上に相談するしかないのか…。

 どうすればどうすれば…考えろ考えろ!」




「…そうだ!良い事を思いついた、今に見てろよ!」

 オーウェンは昏く蒼い瞳を燻らせながら、口角を上げてニヤッと笑った。



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