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二十一話
しおりを挟むゲオング王国第二王子オーウェンside
「クソッ!」
オーウェンはカナンゲート聖王国の自らに用意されている部屋で椅子を蹴り倒して、爪を噛んだ。
絶世の美姫と言われる母親譲りのフワフワしたくせっ毛の青みのあるプラチナブロンド髪を前が長めでと横と後を肩上で切り揃え、ゲオング王国の王族の色である深い海のような濃い碧眼の天使の銅像のような整った母国で一番の美貌と言われる顔を屈辱に歪めている。
ゲオング王国の第二王子であるオーウェン・ゲオングは数ヶ月前にカナンゲート聖王国の王太女で大聖女であるプリシラ・カナンゲートと婚約して、いずれ王配となる為の教育の為に婚約してからすぐカナンゲート聖王国に入国して滞在している。
全魔族を討伐する為に魔族討伐隊を結成してヴェルテルヴィア魔国に上陸したものの、魔族との圧倒的な力の差に何も出来ず逃げ帰ってきてしまった。
魔族はオーウェンが思ったよりも圧倒的に強く、オーウェン自身も優秀な勇者の末裔であるのに母国にいる時から魔獣討伐を汚れるから嫌だという理由で、ろくに参加していなかったからやろうとしても何をしていいかわからず、結局何も出来なかったのだ。
「こんなはずじゃなかったのに…」
大陸全土に全魔族を討伐すると代々的に発表したものだから、魔族を討伐することが出来ず逃げ帰ったことは、カナンゲート聖王国と母国ゲオング王国だけでなく、瞬く間に大陸中に広まってしまった。
自分たちの力を見せつけるはずが、恥をかいただけの現状にオーウェンは屈辱を感じでいた。
「大聖女であるはずのプリシラも第一聖女のエリザベス、第二聖女のフィオーナも怖がるだけで碌に攻撃も出来ない結界さえ張れない役立たずだったではないか!」
オーウェンは自分自身も何も出来なかったことを棚に上げて、聖女たちのせいにしている。
「あの平民の第三聖女はまだまともに戦っていたが、もう生きてはいないだろうな…どいつもこいつも役立たずばがりが!」
オーウェンは自分たちが裏切り置き去りにした第三聖女リゼットの事を少し思い出したが、罪悪感を持つことなどなく自分の思い通りにいかなかったことを人のせいにして癇癪を起こしている。
「このままでは他国だけではなく兄上にも馬鹿にされたままだ!何とかしなければ…」
オーウェンは他国よりも自分の兄の王太子が自分をどう思うかを一番気にしているようだ。
幼い頃からすべてにおいて優秀と言われている兄に劣等感を持ち、そして嫉妬して何とか兄を見返したいとずっと思っていた。
自分が魔族を討伐したら、母国の兄上より自分の名声が上がると思っていたのに失敗してしまうとは…。
ギリギリと歯軋りをしている時にコンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「…はい」
「オーウェン様、プリシラでございますわ、よろしくて?」
やってきたのはこの国の王太女で大聖女、オーウェンの婚約者のプリシラだった。
腰まである艶やな真っ直ぐのピンクブロンドの髪にカナンゲート聖王国の王族の証である青紫の大きな瞳、見た目は儚げな男の庇護欲を唆る美女であるオーウェンの婚約者。
オーウェンは自分専属の従者の一人に顎で扉の方を指す。
扉の近くにいる従者が恭しく扉を開ける。
「オーウェン様どうされましたの?もうすぐお茶会の時間ですわよ」
「…ああ、そうだったな」
「さあ参りましょう」
そう言ってお茶会の場に向かおうとさっさとオーウェンに背を向けたプリシラの背中をオーウェンは睨み付ける。
魔族討伐に失敗して逃げ帰ってきたというのに、まったくそのことを気にしておらず平然と日々やれお茶会、やれ夜会と言って遊び呆けているプリシラにオーウェンは苛立ちを募らせていた。
オーウェンは最初はプリシラのことを美しくて可愛らしい、国一番の美貌と言われる自分に相応しい理想の女性だと思っていたのに、この数ヶ月で大聖女としての責務をまったく果たそうとせず、表だけ儚げで真面目な誰にでも慈悲の心を持つ優しい大聖女を演じて手柄だけを奪い取る。
裏では金遣いの荒い我儘放題の王女様に辟易しているのに、魔族討伐でも怖がるだけで何の役にも立てなかった婚約者を嫌悪するようになった。
しかし相手はこの国の王太女でいずれ女王となり自分はその王配になる身の為に、プリシラの方が身分が上となる。
それにオーウェン自身も自国の王太子になれなかったので、それ以上地位を下げたくはなく、カナンゲート聖王国の王配という立場を捨てたくないと強く思っている。
だからそんな彼女に不満をぶつけることが出来ない。
そのこともオーウェンの苛立ちを大きくさせていた。
今日は婚約者のプリシラ主催でこの国の高位貴族令息令嬢を王城に招いたお茶会だ。
オーウェンはとてもそんな気にはなれないが、そんなことを言えるはずなどなく渋々プリシラに追い付いて、横に並びプリシラをエスコートしてお茶会の会場へと向かった。
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