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十九話
しおりを挟む謁見の間で側近さんたちを紹介してもらってから、私はシリウス様と共に部屋に戻ってきた。
シリウス様は何もせず横にいるだけでいいって言ってくれたし、ナリナさんに側近様たちには頷くだけでいいですよと言ってくれたけど、本当にあれで良かったのかな?
シリウス様は褒めてくれたけど、きっと私に気遣って言ってくれたんだと思う。
ナリナさんがお茶を用意してから、三名が部屋を出て行きシリウス様と二人きりになった。
「リゼットよ、今の体調はどうだ?」
私の前のソファに座ったシリウス様が微笑みを讃えて私をジッと見てくる。
シリウス様は毎回私の体調を気遣ってくれる。
「緊張しましたが、体調は良いです」
「そうか、リゼットが大丈夫なら今夜は側近たちと晩餐会をしたいと思っているがどうだ?
突然だから無理はせんでいいぞ」
シリウス様に晩餐会のことを初めて言われて、私はシリウス様の顔を見る。
シリウス様は私を伺う表情をしている。
さっきも凄く緊張して、また晩餐会となると緊張するけど早く側近さんに受け入れてもらうにはこれは受けるべきだ。
「シリウス様、出席します、よろしくお願いします」
「そうだな、そうしてくれると我も嬉しい」
「はい!」
シリウス様がいてくれるなら大丈夫だと私は思った。
「あのシリウス様?」
「何だ?」
私が伺う顔をするとシリウス様が首を傾げる。
シリウス様のひとつひとつの表情や仕草が美しくて、私は胸がドキドキする。
「あの、私がシリウス様と言うと側近のみなさんとても驚かれてましたが、真名を呼ばせてもらうというのはそれほど凄いことなのですか?」
「我は生まれてからもう6000年以上になるが、我の真名を呼ぶのは家族以外はそなたが初めてなのだ。
我が魔人であった頃住んでいたところには我の家族以外の魔人はいなかったこともあるがな。
ヒト族は魔人を名で呼んだりしなかったのでな」
シリウス様の言葉に胸がズキンッとした。
人間は魔人を差別して奴隷のように扱っていたというから名さえ呼んでいなかったということなのか。
どれほど酷い扱いだったのだろう?
自分も人間であると思うと申し訳ない気持ちになった。
「リゼット昔のことだ。
ヒト族のことはそなたが気にすることはない。
リゼットとは別の生きものだと我は思っておる。
それから魔族はヒト族と違って真名を呼ぶことを許すとはその者を家族と認めるということなのだ」
「えっ?家族?」
私はとても重大なことをシリウス様に許してもらっているんだということに気付く。
「そうだ、我はいずれリゼットに家族になってもらいたいと思っておるのだ」
シリウス様に家族になってもらいたいと言われて、ヒュッと喉が鳴って言葉が出てこなくなった。
「リゼットよ、どうしたのだ?」
シリウス様が私を心配そうに覗き込んできた。
「…シリウス様は、どうしてそこまで…」
私はシリウス様に家族になってもらいたいと言われて、目が潤んでくる。
今まで誰にも言われたことがなかった。
生まれた時に私は両親の顔も知らなかった。
生まれてから一度も家族と呼べる人がいなかったのだ。
そんな私にシリウス様が家族になりたいと言ってくれた。
言葉にしようがないくらい胸に何かが湧き上がってきた。
「我はそなたを蘇生させると決めた時から我の家族になってもらいたいと思っているのだ」
「…それは…私がシリウス様と同じ魔人だからですか?…」
胸がキュッと締め付けられる感覚になる。
「それがないとは言えない、だがそれだけではない。
我は魔族もだが、魂が清く美しいものを好むのだ。
リゼットの魂は我が今まで生きてきた中で、一番清く美しいものを持っている。
その魂に惹かれたのだ」
「…っ!?」
シリウス様の言葉に胸が高鳴り先程よりもっと鼓動が早くなる。
でも私は首を横に振る。
「…魂が見える、のですか?」
「我は見えるな。
他の魔族たちは感じるという方がいいであろう」
シリウス様に魂が見えると言われて、私の魂は決して美しくないと思った。
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