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十一話

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 ファーシリウス様は私が声を上げて泣いている間、ずっと抱きしめて頭を撫でていてくれた。

 その温かさと優しさに私は初めて甘えたいという感情が湧き上がってきた。

 私はファーシリウス様の胸の辺りの服にじかみ付くように両手で掴んだ。

 ファーシリウス様は私を抱きしめながら頭を撫でたり、背中をトントンと優しく叩き続けてくれた。

 私はそのことに今まで自分の中にだけ留めていた感情が溢れ出してきて、ファーシリウス様の胸の中で声を上げて泣き続けた。


 しばらくて私が泣き止んで落ち着いてきた時に、ファーシリウス様が「我のことも聞いて欲しい、よいか?」と言われて、私が頷くとファーシリウス様がゆっくりと自分のことを話し始めた。


「我は元は魔人であった」

 と最初に言った。

 魔人とは今から6000年以上前に突然人間の進化形として生まれたのだという。

 魔人は私と同じ白い髪に金の瞳をしていたという。

 進化形だと言うだけあって知力も身体的能力も魔力も当時の人間より圧倒的に優れていた。

 身長は当時の人間の成人男性の平均が175センチくらいだったのに対して、魔人の成人男性は190センチ以上あったらしい。

 実際、ファーシリウス様もそれくらいありそうだ。

 その昔に魔人は普通に人間の子として育てられ、その優秀さから重宝されていたという。

 しかし魔人は確かに人間より優れているが、その繁殖力は非常に低く人間から生まれたのも極僅かであったが、魔人は人間と結婚しても子が生まれることは極端に少なかった。

 だが魔人の寿命は人間の3倍程あり、見目も人間より老化が遅かった。

 そのことにより、魔人は同じ魔人を探して結婚するようになる。
 魔人同士でも繁殖力が低いので、子が生まれにくかったがそれでも人間の寿命の3倍は長く生きるので、そのうち一組の魔人夫婦から一人は子が生まれるようになる。

 そうやって少しずつ魔人が増えていくようなった。

 しかしいつの頃からか魔人が増えていくことに人間が脅威を感じるようになる。

 優秀で自分たちの3倍は長く生きる魔人に人間はいつしか支配されてしまうのではないか?

 人間の誰かが一旦そう思ってしまうと、その考えはあっという間に広まり、人間たちが魔人を警戒するようになった。

 そしてそのうち魔人に対するあらゆる噂が出回るようになる。

『アイツらは常識がなく凶暴で、人殺しや盗みを罪の意識もなくやっている』
『アイツらが獣の生肉を食らうのを見た!野蛮だ』
『アイツらは自分たちが優秀なことを鼻にかけて、普通の人間を差別して虐げている』など。

 そんなことは全くなかったのだが、優秀な魔人に嫉妬して脅威に感じた人間たちがそんな有りもしない噂を流すようになる。

 しかし数が圧倒的に多かった人間のその噂はそのうちそれが真実であると思われるようになっていく。

 そしていつしか人間が魔人を差別し始めて、虐げるようになる。

 人間の進化形と言われて同じ人間として生活し、その優秀さに重宝していたはずなのに、いつしか彼らは人間ではないと言われるようになり、人間たちが彼らを魔人と言うようになる。

 人間にとって魔人とは人間のなり損ないだと、人間と区別する為の蔑称だったのだ。

 人間が魔人と呼び差別して、虐げ奴隷のような扱いをするようになっても、魔人たちはいくら人間より力を持っていても人間に自分たちはまともではないと差別されることを、魔人たちもそうなのだそれが当然なんだと思い、逆らうことは一切なく、どんなに虐げられても蔑まれても人間に奴隷のように扱われても大人しく従っていたらしい。

 それはある意味多数が少数に対する洗脳であったのかもしれない。


 だが今から5200年前に事件が起こる。

 とある国の王子が魔人に殺されるという事件が起こった。

 何故王子が殺されたかは定かではないが、この王子は昔から魔人に対して他の人間がそこまではやらないような非道な行ないをしていたと噂があった。

 その王子に甚振られて、我慢出来なくなった魔人が王子を殺してしまったのではないかと言われた。

 しかしそのことに激怒したのが王子の父親の国王だった。

 自分が溺愛する息子の王子を魔人に殺されたと知った国王は、すべての魔人を殺せと王命を出し軍を出した。

 そしてその国に住んでいた数少ない魔人たちは人間の軍によってすべて殺されてしまった。


 しかしそのことが魔人にとって悪い流れとなった。

 以前から魔人に脅威を感じでいた他国もその国と同じように魔人を悪だとして、すべての魔人を始末せよ!という魔人狩りのお触れを出した。

 世界中で魔人狩りが行なわれるようになっていく。

 いくらすべてにおいて人間より圧倒的に優れていた魔人でも、人間の圧倒的数には敵わず魔人は次々に殺されていく。

 その時にある国に住んでいたファーシリウス様の家族も殺されてしまったのだそうだ。

 当時10歳だったファーシリウス様は家族だった父親と母親が大挙して押し寄せる人間の大軍からファーシリウス様を庇い、ファーシリウス様だけだけでも逃そうとしたのだけど、人間の大軍相手に盾になった両親は見るも無残な嬲り殺しをされてしまったとだという。

 ファーシリウス様は目の前で無残に殺される両親を見て、今まで自分たちを差別して、奴隷のような酷い扱いをしてきた人間に対する理不尽さに、怒りと憎しみが爆発してその場にいる人間の大軍を吹き飛ばして塵にしまったのだ。

 怒りと憎しみが爆発したことにより、ファーシリウス様の膨大な魔力が暴発したのだった。

 その後、目の前に敵がいなくなりフラフラと歩いている時に湖に映る自分を見て、ファーシリウス様は自分の姿が変わったことに気付く。

 肩過ぎまであった白い髪は真っ黒になり、金の瞳の片方が赤くなっていた。

 その時にファーシリウス様は自分の体内の魔力が今までのものとは違うと感じたのだそう。

 自分は最早魔人ではないと、人間の進化形などではなく違う種族になったのだと気付いたそう。

 魔人から違う種族に覚醒したファーシリウス様は以前よりさらに膨大な魔力を持ち、身体的能力も格段に上がったことに気付く。

 そしてファーシリウス様はそのまま道行く自分の前に立ちはだかる人間たちを殺しまくっていったのだそうだ。

 何千、何万の人間たちをファーシリウス様一人で一瞬にして灰にしていく。

 そして自分の前に誰一人人間がいなくなった時に、ファーシリウス様はこのままこの世界を滅ぼしてやろうと思ったのだという。

 自分を愛して助けようとしてくれた家族がいない世界などいらない。

 今まで家族を自分を同じ魔人たちを虐げて踏みつけにしてきた人間を許せないと怒りと憎しみが全身を支配した。







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