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十話
しおりを挟む「ククッそうか、リゼットは美しいものは好きか?」
ファーシリウス様に聞かれて驚いて顔を見上げる。
ファーシリウス様の顔を好きか?と聞かれているの?
「…えっと好きというか…その、あまりの美しさにドキッとしてしまいます。
それに私は人とこれほど顔が近いということが…今まで、ほとんどありませんでしたので…ドキドキして…どうしていいかわからないのです」
私は顔を赤らめながらそんなことをたどたどしく言ってしまい、恥ずかしくなって俯く。
するとファーシリウス様が片手で私の顎をクイッと持ち上げる。
先程よりファーシリウス様の顔が近くにあって、私は口をパクパクとさせる。
「クックッ、リゼットは素直であるな。
そうか、リゼットには我の顔を好きだと言って欲しかったのだがな」
ファーシリウス様の金と赤の瞳に見据えられて、その色気というのだろうか、わからないけどそういう何かがファーシリウス様から溢れ出ているようでいつもと違うファーシリウス様に私はゴクッと唾を飲む。
「まあよい、そのうち慣れてくれればな。
ところでリゼット体調はどうだ?」
「…ありがとうございます。
もうすっかり良くなったようで、以前より身体が軽くなったような気がします」
私が小声になり何故か自分でもわからないけど震えながら答えると、ファーシリウス様が瞳を和らげて頭を撫でてくれる。
「それは良かった。
もう大丈夫だな、ところでそなたと話をしたいのだが、よいか?」
ファーシリウス様の瞳が真剣な色を帯びたように感じで、私はまたドキドキした。
「…はい」
私は頷きながら言葉少なに返事した。
するとファーシリウス様がお世話役のナリナさんたちに外に出るように言って、私と二人きりになった。
どういうことだろう?どんな話があるのだろう?
やっぱり生かしてはおけないとなるのだろうか?
前に死んだ時はやっと死ねる楽になれると思っていたのに、ここで10日ほど過ごした私は死ぬのが怖くなっている。
ナリナさんたちに優しく接してもらって、あれこれ世話を焼いてもらい、ファーシリウス様にも毎日優しくしてもらって魔力を流してもらい、優しさ温かさを知ってしまったから死にたくないと思ってしまっている。
「リゼット、我は最初から言っているがそなたを死なせようなどと思っておらん。
我はそなたのことが知りたいのだ。
そして我のことも知って欲しいのだ」
隣に座るファーシリウス様がそう言って、私の両手を握ってきた。
そうかそうだった、ファーシリウス様は私の考えてることがわかるんだった。
「…申し訳、いえ私のことで、すか?」
私は謝りかけて、言い直す。
私のことを知りたい?
どんなことを?
「そうだ、今まではリゼットの体調を見てあまり長い時間話をすると、疲れるであろうと思っていたから少し話をするだけにしていたのだ。
だが、もう体調は戻っているようだから、我はそなたが生まれてからどんなふうに生きてきたかを知りたいのだ」
「私が生まれて…どんなふうに?」
その時に私は生まれてからここに来るまでのことを思い出して、胸が詰まり息が苦しくなった。
「大丈夫か?我はリゼットの思念が流れてきて、そなたが今思っていることは伝わってくる。
だが、そなたが生まれてから今までどんなふうに生きてきたかまではわからんのだ。
辛いだろうが…我にすべて教えてくれないか?」
ファーシリウス様が握っている私の手を少し強く握ってきた。
見上げると、ファーシリウス様は優しげにそして心配そうに私をジッと見つめてくる。
何だかそれが慈愛というものが籠もっているように私には見えて、何だかこそばゆく感じた。
私はこの方ならと思い、私が生まれてから今までの日々をあまり人に話すのは得意ではなくて、途切れ途切れになりながらも話していった。
私がすべてを話し終えると、ファーシリウス様が優しく頭を撫でてくれた。
私はファーシリウス様の温かい優しい手に堪え切れず、涙が溢れてきた。
ファーシリウス様が何も言わずキュッと私を抱きしめてくれる。
それが堪らず私は生まれてから記憶にある中で、初めて大きな声を上げて泣いた。
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