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七話
しおりを挟む三者視点
「クククッ」
魔王ファーシリウスが謁見の間の玉座に足を組んで座り、何かを思い出しながら笑っている。
「魔王ファーシリウスよ、何か面白いことでもあったかや?」
ファーシリウスの前に立っているのは五人の側近。
その一人のデーモン族のトップ、アンディナが思い出し笑いをしているファーシリウスに問う。
デーモン族であるアンディナは腰まである艷やかな長い漆黒の闇色の髪と同じ色の瞳を持ち、頭に捻れた二本の黒い角を持つ見た目10歳くらいのつぶらな瞳の可愛らしい少女だ。
リゼットの世話役となったデーモン族のナリナも見た目10歳くらいの少女であったが、デーモン族は人型の姿をする時に、性別や年齢など自ら好みの形にすることが出来る。
デーモン族には性別はなく、召喚などで人間の前に姿を現す時はその人間の欲望に見合った姿をするようだが、そうではない時に女性の人型をする者は幼い子供の見た目を好む者が多いと言われている。
デーモン族はどんな獣の形態になることも出来るが、人型の時もどの形態の時も黒い翼を自由に出し入れ出来て飛ぶことが出来る。
頭の上の二本の角も出し入れ自由だ。
ただ獣の時も人型の時も極端に大きくなったり小さくなったりは出来ないと言われている。
デーモン族は元は生体という形ではなく思念体や霊体であると言われており別次元で生きていて、意識か無意識で召喚されて人間のいる世界に現れると言われていた。
人間の憎しみ、悲しみ、恨み辛みなど負の感情から生まれたとされるのが悪魔である。
その悪魔が人間の召喚によるものでなく自らの意思でこの世界に現れるようになって、人間の姿を形作り生活するようになり、デーモン族と言われるようになったのである。
「ああ、聖女のことだ。
あの聖女はやはり我と同じ種族の血を受け継いでいる。
ヒト族でありながら先祖返りであろう。
聖女の白い髪と金の瞳を間近で見て確信した。
それに我の魅了や精神干渉も一切効かなかったのだ、面白い」
ファーシリウスはリゼットが目覚めた時に、リゼットの目を見つめて魅了や他の精神干渉を試してみたのだ。
しかしリゼットにはまったく効かなかった。
「何と!ファーシリウス様と同じ魔人の血があのヒト族の聖女に流れておると!?」
驚きに目を見開くのはドラゴン族トップのドラキネスだ。
ドラゴン族のドラキネスは濃い青色の短髪を七三にきっちりと分け、鋭く切れた目の中に金の瞳と縦に割れた黒い瞳孔を持つ、口を開けると二本の牙が覗き、身長が180センチくらいの筋肉質で体格の良い見た目40代前半の男性の姿をしている。
全長18メートルくらいのドラゴンが本来の姿であるが、魔国では普段人型で生活している。
人型でもデーモン族同様翼を出し入れが自由で飛ぶことの出来る種族である。
魔族の中でデーモン族と共に最上位であるのがドラゴン族だ。
「魔人の血があるのであれば、あの聖女の魔力量そして我ら魔族相手に8時間もの間、たった一人で戦えていたのも納得ですね」
そうしてフフフッと笑ったのはヴァンパイア族のトップであるクラウスだ。
ヴァンパイア族はデーモン族とドラゴン族の次に位置する上位の種族である。
クラウスは肩過ぎまでの艶のある黒い髪を組紐で横に軽く結び、真っ赤な血の色のような大きな瞳を持ち、口を開けると二本の牙が覗く身長180センチ近くドラキエスより少し低いくらいで、手足の長いスラッとした甘い美形の妖艶な20代前半の男性の姿をしている。
ヴァンパイア族はコウモリという獣形態にもなれるが、コウモリの時は大きさを自由に変えることが出来る。
ヴァンパイア族はドラゴン族と違い人型の時が本来の姿であると言われている。
そしてドラゴン族デーモン族同様に人型でも黒い翼を出し入れ自由で飛ぶことが出来る種族である。
そうなのである、クラウスが言ったが、魔王と五人の側近たちは魔族討伐隊が魔国に上陸した時から魔水晶と呼ばれるもので、魔城にいながら人間と魔族の戦いを見ていたのだ。
だから聖女リゼットがたった一人になってから8時間もの間、魔族魔獣と戦っていたのをすべて見ていた。
「あの聖女が本物の大聖女だ。
それも初代よりも強い歴代でも最強のな。
その歴代最強の大聖女を見捨てるなどヒト族は愚かであるな」
ファーシリウスが愉快そうにククッと喉を鳴らして笑う。
「それならあの聖女が中心となりヒト族が勇者の末裔、聖女の末裔全員ともっと多くの人間を集め、頭を使った小賢しい作戦を組んで攻めてこられていたなら、もうちょっと苦戦したやもしれませんな」
そう言ってニヤッと嗤ったのはスネイク族トップのコムシジャだ。
コムシジャは深い緑の短髪で前髪をすべてキッチリと後ろに撫でつけ、切れ長だが少し丸みのある目の中にヴァンパイア族より少し明るめの赤の瞳を持ち、口に二本の小さい牙を持つ身長175センチくらいのスリムな30代前半の男性の姿をしている。
全長18メートルくらいのドラゴン族と同じくらいの大きくなったり、手の平に乗るくらい小さいスネイクの獣形態になることが出来、スネイクの形態はヴァンパイア族と同じく大きさを自由に変えることが出来る。
翼は獣形態、人型の形態の時も持っていない。
スネイク族の本来の姿はスネイクの獣だと言われているが、普段は人型をしている。
「フンッ、いくらファーシリウス様と同じ魔人の血を引き継いでいても、所詮はヒト族。
我らの相手ではないわ」
人間である聖女に対して忌々しげに吐き捨てたのは、ウルフ族のトップであるフロムウェルだ。
フロムウェルは肩までの長さのあちこちに逆だった固いグレーの髪に大きいが鋭い目の金の瞳を持ち、190メートル過ぎの身長のこの中で一番筋肉質で大きな身体を持つ20代後半の男性の姿をしている。
ウルフ族もスネイク族同様獣形態でも人型の形態でも翼を持たないが、ウルフになった時は大きさを自由に変えることが出来る。
ウルフ族もスネイク族同様ウルフの姿が本来の姿だが、普段は人型をしている。
ウルフ族の獣形態はスネイク族のように極端に大きくや極端に小さくはなれない。
スネイク族とウルフ族は同じくらいの力を持っていて、ヴァンパイア族の下に位置する。
ウルフ族、スネイク族は魔族の中で中位に位置していて、その下のオーガ族、ゴブリン族とではかなりの実力差がある。
魔族は人間を憎んでいるからフロムウェルの態度が、魔族の中では普通と言える。
「そうでもないぞ。
あの聖女はガリガリの骨と皮状態だった。
多くの魔力を身体の維持に使っていたのであろう。
もしそうではなく健康体であれば、我と同じくらいの膨大な魔力にあの神聖魔法はかなり強力で厄介だ。
もし健康体で魔力も十分の状態で、神聖魔法をもっと極めていた状態であったなら、我と一対一でどちらが勝つかわからないくらいであろうな」
「…」
ファーシリウスの言葉にフロムウェルはグッと詰まり言葉が出てこなかった。
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