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六話
しおりを挟むファーシリウス様は私の心の中の声が聞こえるの?と思っていると。
「リゼット、ちゃんと動けるようになるまでまだ10日くらいはかかるであろう。
大丈夫だ。
我は毎日そなたの顔を見に来て、魔力を注いでやる。
そうすれば回復は早い。
そなたには世話役を付ける、食事の用意もすぐにさせるから食べれるだけ食べよ、無理はしないように。
ここにいるのはそなたの世話役のナリナにシニョンにケネンだ。
そなたのことは我の客として丁重に扱うように言ってあるから安心せよ」
ファーシリウスと言った美しい魔族がそう言って、世話役となる女性の名前を紹介してここがお城の中の部屋だと説明してからまた来ると言ってこの部屋を出て行った。
ここはヴェルテルヴィア魔国の王城の中の客室らしい。
そしてファーシリウス様が私の世話役と言った人?魔族三人が私が腰掛けているベッドの周りに立っている。
「先程ファーシリウス様より聖女様の世話役を仰せつかりましたわたくしはナリナと申します」
見た目10歳くらいの艶やかな肩過ぎくらいの黒い髪に、髪と同じ漆黒の大きな瞳をした頭に黒い捻れた二本の角がある女性で、角がなければ見た目人間の可愛らしい少女が自己紹介してきた。
「…ナリナ様、ですね…、私はリゼットです」
「リゼット様、貴方様は魔王ファーシリウス様のお客様でございます。
そしてわたくしはリゼット様の世話役なので様呼びはやめて下さいませ」
「えっ?ま、まおう?」
今魔王ファーシリウス様と言ったよね?
あの美しい魔族ファーシリウス様は魔王なの?
「はい、ファーシリウス様は我ら魔族を統べる魔王様であらせられます」
私は目を見開く。
私も魔族の存在は当然知っている。
会ったのは今回初めてだけど、人間にとって憎むべき敵である魔族のことは物心ついた頃から大人に教わる。
それに聖女修行の時に魔族の見目や特徴、習性などを叩き込まれてきた。
魔族にはいろんな種族がいると言われている。
ナリナさんは恐らく悪魔と言われるデーモン族。
他にヴァンパイア族、ドラゴン族、ウルフ族、スネイク族、オーガ族、ゴブリン族がいて、強い者が上位となるのだが、それぞれの種族が共存していると聞いていたが、魔王がいるということは今までに一度も聞いたことがない。
えっ?人間は魔王の存在を知らないはずだ、私も今初めて聞いた。
本当に魔王なの?
「リゼット様?いかがなさいましたか?」
デーモン族であるナリナさんが、驚いて目を見開きポカンとしている私を心配そうに見てくる。
「は、はい!大丈夫です…ではナリナさんと呼ばせてもらいますので、私のことも様はやめて下さい」
「それは出来ません。
リゼット様はファーシリウス様のお客様でございますので」
私が戸惑いながら言うとナリナさんがニッコリとした。
見た目は本当に可愛らしい少女だけど、デーモン族であるナリナさんは魔族の中でドラゴン族に並ぶ最上位のはず。
本当に魔王がいるのなら魔王が一番上だろうけどけど、魔族の力の順はデーモン族、ドラゴン族>ヴァンパイア族>ウルフ族、スネイク族>オーガ族、ゴブリン族>その他魔獣となっているはずだ。
私は様を付けて呼ばれるなんて今までに一度もなかったことで戸惑って曖昧な笑みを浮かべた。
「私はナリナ様と同じくリゼット様の世話役となりましたシニョンでございます。
私にも様呼びはやめて下さいませね」
「…シニョンさんよろしくお願いします」
シニョンと言った人もニッコリと私の顔を見て笑った。
長い黒の髪を後ろでまとめて1つに結んでいて、真っ赤な血のような瞳の笑顔を見せた開いた口からは小さめの二本の牙が見える、見た目20代前半くらいの妖艶な美しい女性だ。
シニョンさんはその見目からヴァンパイア族だろう。
「あたしはケネンと申します。
よろしくお願い致します」
私に向かい挨拶して丁寧に頭を下げた女性は夕陽のようなオレンジの肩過ぎの髪に同じ色のオレンジの瞳をしていて、頭に一本の髪や瞳と同じオレンジの角があり、牙はヴァンパイア族のシニョンさんよりも大きく口を閉じていても牙が見える。
ケネンさんはオーガ族だと思われる。
先程の二人に比べてふくよかで明るそうな雰囲気の見た目20代後半の美しい女性に見える。
「ケネンさんよろしくお願いします」
私は紹介された三人?の女性を見ながら戸惑うばかりだった。
その後すぐに食事が運ばれてきたのだけど、パン粥と色とりどりのフルーツと何だかフワフワしたお菓子とお茶が用意されていた。
まだ目覚めたばかりで消化の良いものと甘いものをご用意しましたと言われた。
今までに食べたことがない私にとっては豪華な食事に目を白黒させてしまった。
お腹は凄く空いていたけど、胃が小さくなってるからあまり食べることが出来なかった。
少し食べただけで満腹になり「残して申し訳ありません」と言ったけど。
「リゼット様謝ることは何もないのですよ。
ご安心下さいませ。
それではまたお休みになられた方が良いと思います」
とシニョンさんが優しく私を寝かせてくれた。
こんなに優しくしてもらったことなど一度もない。
私は戸惑いながらも何故か涙が溢れそうになり、上の毛布を頭まで被った。
それから誰からも何も言われることもなく私はだんだんと瞼が重くなって、気付いたら眠ってしまったようだ。
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