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五話
しおりを挟む「えっ?…もしかして魔族?…」
私は目を見開く。
「そのもしかしてだ」
「…」
私は声も出せず美しい人?魔族を凝視する。
怖れとかはない、もう私は死んでいるからかな?
それにしても何故私の目の前に魔族がいるの?私死んだんだよね?
私は無言で美しい魔族を見つめる。
「聖女は我が怖いのか?」
美しい魔族がニンマリと口角を上げて本当はそう思っていないような悪戯な顔で、私の瞳を覗き込んできた。
「…いえ、…私死んだはずで…だから…」
あまりの距離の近さに緊張と戸惑いで何て言っていいかわからない。
「そうだな…確かに一度そなたは死んだ。
でも魔族になりたいと言ったであろう?だから我がそなたを蘇生した」
「へ?」
私は間抜けな声が出た。
確かにそんなに魔族のような瞳と蔑まれるなら魔族になりたいと言ったけど、心の中でだよ。
何で知ってるの?
それに蘇生?蘇生なんてこと魔族が出来るの?
「魔族になりたいと言ったのは嘘か?」
美しい人、じゃなくて美しい魔族がさらに私に顔を寄せて聞いてきた。
美しい顔が間近になり私はより緊張が高まってなのか胸がドキドキする。
顔まで熱くなってくる。
「…う、嘘ではありません!
人間なんて大嫌い!
もう人間の世界で生きていたくありません!」
「…そうか…ならこれからは魔族として生きていくがよい」
美しい魔族が私の頭を撫でてきた、とても優しい手つきで。
私は生まれてからそんなことをされたことがないから、驚いたけど目がツーンとして目に力を入れたけど、ひと筋涙が流れ落ちた。
「…ど、どうして?…魔族?」
「そうだ、そなたが人間が大嫌い、魔族になりたいと望んだから我はそなたを蘇生することにしたのだ」
私は本当に生き返ったということなの?
この美しい魔族は蘇生だけじゃなく心の声も聞こえるの?
私は魔族として生きていくの?
美しい魔族に言われたことがまだちゃんと受け入れられないでいる。
「私、魔獣に首を…」
「ああ、そうだ。
魔獣に首を噛み切られた後、我が蘇生してそなたは10日間眠り続けていたのだ。
10日の間我がそなたに魔力を流し続けていたが、我とそなたは相対する存在ながら魔力の相性が良いようで気持ち良さそうに眠っておったぞ」
美しい魔族に言われて、自分の首に触れてみる。
自分の首には傷ひとつなく、温かい。
本当に生き返ったの私?
それから魔族と聖女の私の魔力の相性が良い?
でも目が開かなかった間、胸から温かいものが流れ込んできて全身ポカポカとして温かく心地良かった。
あれはこの美しい魔族の魔力が私に流れ込んできたからなの?
私は戸惑いに目を瞬かせる。
「どうしたのだ?聖女よ」
美しい魔族の金と赤の瞳が真剣な光を帯びている。
先程怖いかと聞かれたけど、先程は死んだのだと思っていたから怖くなかったが、今もまったく怖いと感じない。
それどころか初めて見た私と同じ金と少し濃い赤の瞳がとても綺麗だと思った。
「いえ…とても綺麗な瞳だなと見ていました」
「ククッ我の瞳が綺麗か」
美しい魔族が笑う。
本当に綺麗な瞳で完璧な美貌だ。
人間ではなく魔族と言われて納得してしまう。
人間でこんなに美しい人は見たことがいないし、何というか存在そのものが人間ではない感じがした。
「あの、魔族様…私はどうなるんでしょう?」
私はこの魔族の国に来て、たくさんの魔族や魔獣を殺したと思う。
今までも大陸でたくさんの魔獣を殺してきた。
魔族として生きよと言われたけど、それは嘘で蘇生して元気になってから甚振られて処刑とかされるんだろうか?
人間も魔族を憎んでいるけど魔族も人間を憎んでいると聞く。
「ああ、我はファーシリウスだ。
そう呼べ」
「…ファーシリウス、さま?」
「そうだ、そなた名は何と申す?」
「…、…リゼットと言います」
私が少し戸惑ってから自分の名を名乗ると。
「リゼットだな。
それからそなたのことはどうもしない、処刑などするなら最初から蘇生などしない。
蘇生は他の魔法より多くの魔力を必要とする。
我はそんな無駄なことなどしない」
人間が大嫌いだ、魔族になりたいと言ったのもそうだけど、今も処刑とかされるんだろうか?と心の中で思ったことだ。
ファーシリウス様はやっぱり私の心の中の声が聞こえるの?
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