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第三章 アルプス・スキー(オーストリア)

第22話 オーバーグルグルスキー場7(最終日)

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 オーバーグルグル最終日である。この地でのスキーは昨日で終わり、今日は再びサンアントンへ戻る。
 朝食後、愛嬌のある若いウェイトレスにその旨を話した。本来なら英語で、"I will leave this morning." と言うところであるが、残念ながらこの娘は英語は話さない。
 やむなくドイツ語で、意味の近い単語を使って、"Ich gehe heute Morgen." と話したところ何か怪訝そうな顔をしていた。歩いて行くのではないのでせめて "Ich fahre heute Morgen." の方が良かった。
 あの表情は意味を理解した上で、『残念です』という意味か、ただ単に、『行くって、どこへ?』なのか? まさか、『それって、ドイツ語? どういう意味?』なのか? 行先である『St. Anton』 を入れるべきだった。

 エッツタール行きのバスを待っていると、例のポリスがやって来た。私の去る日は憶えていたようだ。
「失ったトラベラーズチェックは2枚か?」と言う。
 今頃こんな事の確認に来るようでは…。調査はやっているという意思表示をしに来たのであろう。  
 サンアントンでの宿泊先も訊かれたが、いつも通り現地の宿泊案内所に世話して頂くので、
  "I don't know so far." と答えただけで終わった。本来なら、
  "Not yet. I will reserve guest house at tourist information St. Anton." と言うべきだが。

 もう少し早く、せめて30分早くホテルに来てくれていれば、調査の進捗具合を聴けたのに…。むしろ誰がジャケットを持って行って、その後元のフロアに返すまでの行動を聴きたかった。
 (今なら躊躇なく、早めにポリスに連絡してホテルに来て説明をしてくれるよう申し入れるのであるが)

 昨日会った日本人と同じバスになったので少し会話が持てた。どうも最初は、私がホテル代を払わなかったか不足していたのでポリスが追っかけて来たと疑われたようだ。そんな日本人も居たのかな?
 チロルの谷間にはホテル、ペンションが乱立し、情緒が損なわれているという点で同感だった。

 振り返れば、あっと言う間の3週間だった。良いも悪いも、いろんな事があった『憧れのチロル』。
 クリスマスイブの教会での礼拝、大晦日のディナー後のパーティーは初めての経験で楽しかった。
 スキー場はイマイチかな⁉ 期待してたような深雪は少なかった。

 北欧からサンアントンまでは主にゲストハウスに宿泊していたが、宿の女将はみんなとても親切で楽しく宿泊できた。残念ながらオーバーグルグルでは商売に専念しているようで宿泊客の事情は二の次のようだった。
 書き入れどきだから、仕方がないのかもしれない。近くにサンアントンという世界的に有名なスキー場があり、殆どのスキー客はそちらに流れるであろう。
 夏季もスイスアルプスやモンブランのような有名なハイキングコースやトレイルがあるわけではない。サンアントンがオーバーフローする年末年始にスキー客を搔き集めなければ、経営も苦しいものと思われる。

 自分史上初の海外での盗難被害も、私は生涯忘れる事はないであろう。
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