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第30話 目撃者の偽証確信
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それから数日後、神野にKo弁護人から高裁の判決文が届いた。
酷い内容だった。判決理由として次のような事が書かれていた。
『原告及び目撃者には、被告人を陥れるような動機は見当たらず、その供述内容は自然で合理的なものであり、信用性は高く、それが相互に一致する。従って、被告人が原告の身体を触った経緯や態様は、原告や目撃者が供述するようなものであったと認められる』。
神野には、信じられない内容だ。目撃者に対する貧乳発言は簡易裁判所では取り上げられてなかったので致し方ないが、被告人とKスポーツジムとの確執は十分動機に値する。
それより酷いのは、『2人の供述内容が信用性が高く、相互に一致する』とは!
『信用性が高い』という根拠が、ただ『供述内容は自然で合理的』というだけで根拠になってない。『相互に一致する』だって! 証言内容が全然違うではないか。それがどうして、『被告人が原告の身体を触った経緯や態様は、原告や目撃者が供述するようなもの』と認められるのか? そもそも、2人の供述内容が全然違う。
更に、
『これらの供述によれば、被告人は原告に前屈の姿勢を取らせた上、ある程度継続的に臀部を触っていたもので、…』
とある。
『継続的に触っていた』と供述しているのは目撃者のみである。それも、見えるはずのない鏡越しに見て。
しかし、何と言っても信じられないのはこの部分。
『原告と目撃者の供述の不一致は、時間の経過や各人の感覚の差などを考えれば、曖昧になっても不思議はない程度の細部の相違に過ぎず、むしろ、このような相違のあることは2人が口裏合わせをしたのではない事をうかがわせる…』
こんな重要な部分の不一致が『細部の相違に過ぎず』だって!
原告の『一度だけ、下から上に撫で上げられた』と目撃者の『鏡越しにみて、何度も上下に触っていた。4~5秒後、直接見たら、まだ上下に触っていた』
これが、『細部の相違』と言えるのか!
それに、2人の供述は連絡の流れとか重要でない部分で一致しているだけで、触った回数、時間は腹筋台、前屈現場とも全然違っている。
神野は裁判官の名前をしっかり確認した。裁判長裁判官は、Wa裁判官というのか。それに、Tu裁判官(女性)、I裁判官。
2週間ほどして、弁護人依頼書が届いた。これ迄通り、国選弁護人を依頼した。それから4週間ほどで、弁護人の決定通知が東京の最高裁判所から届いた。
最高裁の国選弁護人はO弁護士で、ネットで調べてみると、中々恰幅のある、頼りになりそうな50歳ぐらいの人である。
それからすぐ、そのO弁護人から上告理由を把握しておきたい旨の手紙が届いた。望むところである。3度目の裁判で初めて、神野は弁護人に頼らないことにした。
自分で証拠を集める事。原告および目撃者の供述の偽証や矛盾を指摘する事。
これらを全力でやる事にした。
数日後、神野は仙人に電話を入れた。義叔父や従弟のY君に話した内容を掻い摘んで話した。彼は静かに聞いてくれた。話の途中に話題を代えたり、無用な質問をしたりするおしゃべり悪友が多い中で、彼は静かに耳を傾けてくれる数少ない友人である。
日時を合わせて、Kスポーツジムにほど近い最寄り駅で待ち合わせた。昼食の後、神野行きつけの喫茶店で、改めてこれまでの出来事の詳細を話した。仙人はいつも通り、時折質問を交えながら静かに神野の話に聞き入っていた。
一通り話し終わってから、神野は本題に入った。Kスポーツジムの現場での間取り図を作成したかったのである。野々宮奈穂が最初に見たという受付から鏡、腹筋台、前屈現場を網羅した正確な間取り図を作成し、受付から腹筋台と前屈現場は同時には映らない事を確認する。その為、メジャーでそれぞれの位置までの距離を測定して欲しかったのである。
神野は予め描いておいた大まかな間取り図を取り出し、それぞれの距離、長さを測定してくれるよう依頼した。仙人も予め聞いていたので、5mメジャーを用意しており余裕だった。
その日のうちに測定してもらい、後日同じ喫茶店で会ったがどうも仙人の説明がおかしい。鏡などはないという。神野は焦った。鏡が取り払われたら無罪証明は極めて難しくなる。
仙人の説明を聞いてるうちすぐ気が付いた。あまりに神野の描いた間取り図が酷かったので、仙人がマシンフロアーを勘違いしていたのであった。神野はほっとした。
日を改めて測定してもらう事にして、その日は時間がないので神野一人で現場の間取りの再確認と受付から見た鏡の中の景色の確認をする事にした。ところが、仙人も一緒に行って確認する事になり、結局2人でKスポーツジムに行くことになった。
フロアーに入るのは久しぶりの神野であった。再入会はさせないと言われているが、フロアーの見学をするなとは言われていない。正体が分れば退室を余儀なくされるであろうが、幸いコ○○で、キャップにランニング用マスクを着けている。顔見知りでも分るまい。手の消毒をして、入館証を首にかけ通路からのみということで、見学を許可された。
仙人の話によると、スタッフ一覧の中に、野々宮奈穂、大友裕子の写真はないそうである。コ○○によるリストラか自分たちの罪深さ故のリタイアか?
神野はいの一番に奈穂が鏡越しに見たという受付近くで、鏡とのライン上に立って、真っすぐ鏡を見てみた。腹筋台はよく見える。前屈現場はどうか? ここからだと位置がよく分からない。
奈穂が直接見たという場所まで進んでから、仙人には前屈現場であると神野自身が認識している場所に立ってもらった。改めて受付近くのライン上まで戻って鏡を見てみた。全然見えなかった。これで奈穂が、『被告人が触っているのが、受付から見えたので近くに行った』との証言が偽証だと確信を得た。
仙人は風呂に入ってから帰るので、神野は先に一人で帰ることにした。90%だった可能性が確信に変り、気分良く帰途につくことができた。
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酷い内容だった。判決理由として次のような事が書かれていた。
『原告及び目撃者には、被告人を陥れるような動機は見当たらず、その供述内容は自然で合理的なものであり、信用性は高く、それが相互に一致する。従って、被告人が原告の身体を触った経緯や態様は、原告や目撃者が供述するようなものであったと認められる』。
神野には、信じられない内容だ。目撃者に対する貧乳発言は簡易裁判所では取り上げられてなかったので致し方ないが、被告人とKスポーツジムとの確執は十分動機に値する。
それより酷いのは、『2人の供述内容が信用性が高く、相互に一致する』とは!
『信用性が高い』という根拠が、ただ『供述内容は自然で合理的』というだけで根拠になってない。『相互に一致する』だって! 証言内容が全然違うではないか。それがどうして、『被告人が原告の身体を触った経緯や態様は、原告や目撃者が供述するようなもの』と認められるのか? そもそも、2人の供述内容が全然違う。
更に、
『これらの供述によれば、被告人は原告に前屈の姿勢を取らせた上、ある程度継続的に臀部を触っていたもので、…』
とある。
『継続的に触っていた』と供述しているのは目撃者のみである。それも、見えるはずのない鏡越しに見て。
しかし、何と言っても信じられないのはこの部分。
『原告と目撃者の供述の不一致は、時間の経過や各人の感覚の差などを考えれば、曖昧になっても不思議はない程度の細部の相違に過ぎず、むしろ、このような相違のあることは2人が口裏合わせをしたのではない事をうかがわせる…』
こんな重要な部分の不一致が『細部の相違に過ぎず』だって!
原告の『一度だけ、下から上に撫で上げられた』と目撃者の『鏡越しにみて、何度も上下に触っていた。4~5秒後、直接見たら、まだ上下に触っていた』
これが、『細部の相違』と言えるのか!
それに、2人の供述は連絡の流れとか重要でない部分で一致しているだけで、触った回数、時間は腹筋台、前屈現場とも全然違っている。
神野は裁判官の名前をしっかり確認した。裁判長裁判官は、Wa裁判官というのか。それに、Tu裁判官(女性)、I裁判官。
2週間ほどして、弁護人依頼書が届いた。これ迄通り、国選弁護人を依頼した。それから4週間ほどで、弁護人の決定通知が東京の最高裁判所から届いた。
最高裁の国選弁護人はO弁護士で、ネットで調べてみると、中々恰幅のある、頼りになりそうな50歳ぐらいの人である。
それからすぐ、そのO弁護人から上告理由を把握しておきたい旨の手紙が届いた。望むところである。3度目の裁判で初めて、神野は弁護人に頼らないことにした。
自分で証拠を集める事。原告および目撃者の供述の偽証や矛盾を指摘する事。
これらを全力でやる事にした。
数日後、神野は仙人に電話を入れた。義叔父や従弟のY君に話した内容を掻い摘んで話した。彼は静かに聞いてくれた。話の途中に話題を代えたり、無用な質問をしたりするおしゃべり悪友が多い中で、彼は静かに耳を傾けてくれる数少ない友人である。
日時を合わせて、Kスポーツジムにほど近い最寄り駅で待ち合わせた。昼食の後、神野行きつけの喫茶店で、改めてこれまでの出来事の詳細を話した。仙人はいつも通り、時折質問を交えながら静かに神野の話に聞き入っていた。
一通り話し終わってから、神野は本題に入った。Kスポーツジムの現場での間取り図を作成したかったのである。野々宮奈穂が最初に見たという受付から鏡、腹筋台、前屈現場を網羅した正確な間取り図を作成し、受付から腹筋台と前屈現場は同時には映らない事を確認する。その為、メジャーでそれぞれの位置までの距離を測定して欲しかったのである。
神野は予め描いておいた大まかな間取り図を取り出し、それぞれの距離、長さを測定してくれるよう依頼した。仙人も予め聞いていたので、5mメジャーを用意しており余裕だった。
その日のうちに測定してもらい、後日同じ喫茶店で会ったがどうも仙人の説明がおかしい。鏡などはないという。神野は焦った。鏡が取り払われたら無罪証明は極めて難しくなる。
仙人の説明を聞いてるうちすぐ気が付いた。あまりに神野の描いた間取り図が酷かったので、仙人がマシンフロアーを勘違いしていたのであった。神野はほっとした。
日を改めて測定してもらう事にして、その日は時間がないので神野一人で現場の間取りの再確認と受付から見た鏡の中の景色の確認をする事にした。ところが、仙人も一緒に行って確認する事になり、結局2人でKスポーツジムに行くことになった。
フロアーに入るのは久しぶりの神野であった。再入会はさせないと言われているが、フロアーの見学をするなとは言われていない。正体が分れば退室を余儀なくされるであろうが、幸いコ○○で、キャップにランニング用マスクを着けている。顔見知りでも分るまい。手の消毒をして、入館証を首にかけ通路からのみということで、見学を許可された。
仙人の話によると、スタッフ一覧の中に、野々宮奈穂、大友裕子の写真はないそうである。コ○○によるリストラか自分たちの罪深さ故のリタイアか?
神野はいの一番に奈穂が鏡越しに見たという受付近くで、鏡とのライン上に立って、真っすぐ鏡を見てみた。腹筋台はよく見える。前屈現場はどうか? ここからだと位置がよく分からない。
奈穂が直接見たという場所まで進んでから、仙人には前屈現場であると神野自身が認識している場所に立ってもらった。改めて受付近くのライン上まで戻って鏡を見てみた。全然見えなかった。これで奈穂が、『被告人が触っているのが、受付から見えたので近くに行った』との証言が偽証だと確信を得た。
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