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第15話 N簡易裁判所公判3 目撃者尋問3

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「次に原告女性が前屈をしていたときの様子を聞きますね」
「はい」

「前屈には立った姿勢でするものと座った姿勢でするものとありますが、どちらでしたか?」
「立った姿勢です」

「立った姿勢で原告女性は身体を前に倒して前屈をしていたと…?」
「はい」

「その時、被告人が原告女性の身体を触っていたということですが、どのように触っていたのでしょうか?」
「原告女性の左側のお尻を右手で触っていました」

「被告人はどこに立っていたのでしょうか?」
「原告女性の左側です」

「お尻を触っていたということですが、どのように触っていたのでしょうか?」
「掌で何度も、撫でるように触っていました」

「撫でるようにというのは……?」
「こう……」

「今、証人は右手を上下に擦るように動かしてましたが、上下に手を動かして、掌でお尻を触っていたということですか?」
「はい」


『きたっ!』神野は少し緊張した。

 とうとう、本格的に奈穂の偽証が始まった。神野は掌を上下に動かしたりしていない。太ももを下から上に掌をスライドさせただけだ。その時、ケツの付け根に当たって止まった。

 これで、奈穂の偽証がはっきりした。それにしても奈穂ほどの悪賢い女が何故こんな稚拙なミスを……!


「被告人が一番上に手を上げたとき、原告女性のお尻のどのあたりを触っていたのですか?」
「丸みの上から……」

「お尻の丸みの上の部分まで触っていたということですか?」
「はい」

「では、被告人が手を下げたときは、どのあたりまで下げたのですか?」
「お尻と太ももの間です」

「お尻と太ももの付け根の部分ということですか?」
「はい」

 
 神野は思った。この女は自分を犯罪者にするために、太ももははずしてとにかく『尻だけを狙った』と裁判官を騙すつもりだな。


「貴女は被告人が太ももを触っているのをお尻を触っているのと見間違えたりしていませんか?」
「いえ、していません」

「その様子はどこから見ていたんでしょうか?」
「まずは受付で鏡越しに見た後、近づいたときは目の前で見ました」

「最初鏡越しに見てから、次に直接近づいてみたということですか?」
「はい」

「何故、貴女は近づいて行ったのでしょうか?」
「行き過ぎた言動…。お尻も触っているので近づいて行きました」

「お尻を触ってたのは、何故行き過ぎだと感じたのですか?」
「女性に対して恐怖を与える言動なので」

「近づいて原告女性をどうしようかと考えたのですか?」
「はい、考えていました」

「……。あ、いや、何をしようと考えたのですか?」
「その場から原告女性を離してあげたいと考えていました」

「で、貴女は近づいたということですが、被告人と原告女性のどれくらい近くまで近づいたのですか?」
「2~3メートルくらい近く」

「2~3メートルくらいの位置まで近づいたということですか?」
「はい」


 2~3メートル? 警察官立ち合いの現場検証でも彼らを手玉に取ったのであろう。4メートルはあるはずだ。 
 神野は思う。まだまだ、偽証は出そうだな。


「貴女が近づいた時、被告人と原告女性はどのような状態だったのですか?」
「原告女性が前屈した状態で左側のお尻の部分を、被告人が右手で何度も触っている状態でした」

「先ほど貴女がおっしゃられた被告人の触り方と何か違いはありましたか?」
「ありません」

「鏡で見た時と同じような触り方をしていたと?」
「はい」

「貴女が被告人と原告女性に近づいた位置というのも、先日事件現場で説明してもらっていますね?」
「はい」


 I検察官は写真8~11を示し、

「その写真というのはこれで間違いないですか?」
「はい」

「写真に写っている女性は貴女ですか?」
「はい」

「写真10はどの位置から撮影されたのですか?」
「私の目線です」

「その時の貴女の立ち位置は、写真9で立っている位置になりますか?」
「はい。写真8もそうです」

「写真10は写真8,9の立ち位置からの目線の写真ということですね?」
「はい」

「近づいた後、貴女は何かしたんですか?」
「はい。原告女性をその場から離してあげたくて、電話は掛かってきてなかったんですが掛かっていると言って、一緒に連れて行こうとしました」

「ということは、電話が掛かってきたと嘘を言ったということですか?」
「はい、そうです」

「何故嘘を言う必要があったのでしょうか?」
「当時は会員さんとスタッフという立場にありましたし、他の会員さんもいてらっしゃるなかで、声を掛けるすべがそれしか思いつかなかったからです」

「で、貴女がそのように声を掛けた時、被告人はどのような行動をとられましたか?」
「原告女性から離れました」

「被告人の手は?」
「手も離しました」


 奈穂は、神野が手を離した瞬間に声を掛けており、正に悪賢い女狐である。ここは裕子と口裏を合わせたのか否か?


「原告女性はどうなったんでしょう?」
「原告女性はその後受付の方まで来まして、そこで話をして一緒に事務所に行きました」

「貴女の『電話ですよ』という嘘で、原告女性はその場から離れたということですね?」
「はい」

「原告女性はその場から離れてから何か話をしたのですか?」
「はい。『怖かった。助かりました』という話をしました」

「その後、貴女は何か行動をとられたりしましたか?」
「はい。原告女性に触られた確認をして、本人の了承のもとに上司に私が電話で報告しました」

「その後、警察に被害申告をすることになるんですね?」
「はい」

「今回被告人は、原告女性が前屈をしている時『足首からふくらはぎ、太ももまで撫でた』と言ってるようなのですが、違うのですか?」
「はい」

「どこが違いますか?」
「私が見たのはお尻と太ももの間なので、それが正しいと思います」

「お尻と太ももということは、足首やふくらはぎには被告人は触っていなかったということですか?」
「私は見ていません」

「被告人は、『お尻は触っていない。触れたとしても、偶然触れただけ』と言ってるようなのですが、違うんですね?」
「はい。偶然とは思えません」

「何故、そう言えるのでしょう?」
「腹筋台の時からも身体に触れていましたし、偶然あたるとしてはおかしいと思います」

「貴女が見ていてお尻を触った時というのは、偶然当たるような触れ方ではなかったのでしょうか?」
「はい」

「どういったところが偶然ではないなと思われたんでしょうか?」
「上下に触ったりすることが偶然の行為とは思えません」

「先ほど貴女は被告人が『女性に対して…」というようなことを言ってましたが、今回以外にも被告人が女性の身体に触ったりすることはありましたか?」
「ありません」


 これも偽証である。
 神野がS法律事務所で見せてもらった奈穂のN警察署での供述書によれば、『神野さんは日頃から女性に触るくせがあることでスタッフ内では有名なので、いつもみんなで注意していようと話していた』となっている。

 実際、神野は親しいトレーニング仲間の女性とは結構無遠慮にじゃれ合っている。そのことで嫉妬している連中がいることも神野には既知のことである。


「どういった行為・行動をとられるんでしょうか?」
「業務上で鍵をお渡ししたり回収したりしますが、お渡しする時私も他のスタッフも手を握られたりすることがありました」

「男性のスタッフにも?」
「いえ」


 男性には勿論、女性にも神野は一度もそんなことはしたことはない。


「原告女性に対して聞かれたくないような発言というのもされてましたが、どのようなことを被告人はしていたのでしょうか?」
「胸が大きいという話をしたりしてました」


 2年前、神野は奈穂に『胸が小さい』を遠回しに言ったことはあった。『小さい胸』の恨みを『大きい胸』で晴らそうということか!



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