痴漢冤罪に遭わない為にー小説版・こうして痴漢冤罪は作られるー

門脇 賴

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第五章 裁判終わって

第39話 公判トーク

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 数日後、神野は仙人と村井氏をピクニックロード沿いの馴染みの喫茶店に招いた。10時に現地集合の約束通り10時には全員が揃った。仙人と村井氏がゆっくり会話をするのは初めてではないだろうか。

神野「今日はご苦労さま。お二人には公判の時、何度も足を運んでもらったね。トータルで6回、5か月近くもかかってしまった」
仙人「ま、無罪判決で良かった。判決の瞬間はドキドキしたよ」
村井「でもまあ、それ迄の経過からして間違いないとは思ったがね」

神野「俺も絶対大丈夫とは思っていたけど、裁判官のレベルの低さを村井さんから聞いていたんで少しは心配していたよ」
村井「それにしては最後のヒロさんの発言、実に良かった。思わず吹き出しそうになったよ」
仙人「ああ、あれ。俺は逆に心配したよ。裁判官の神経を逆撫でするんじゃないかと」

神野「実は終わってからちょっと気になった。『裁判官にも感情に走るのが結構いる』というのはネット検索で知っていたので」
村井「あの裁判官はその最たる奴だ。短気だし、『疑わしきは罰せず』の判決の常識を平気で破るし」
神野「あの判事の事、前から知ってたん?」

村井「山本さんの公判、何度も傍聴してるし『初めから有罪ありき』の判決がやたら多い裁判官だよ」
仙人「じゃあヒロさん、やばかったんじゃないん?」
村井「だから山本さんもヒロさんの無罪を確信してても、裁判で無罪にするという確信までは持てなかったんよ」

神野「へえ~、そんな裁判官? 遅刻はするし、つんぼのくせして補聴器は着けないし、頭の回転もかなり鈍そうだし。ところで、『つんぼ』は差別用語だったっけ? 『耳の聞こえない人』より分かり易いけどね」
村井「まあ、差別用語だね。分かり易いけど」
仙人「『認知症』は差別用語じゃないん?」
村井「違うみたいよ」

仙人「ヒロさん、よくあの場で『認知症』という言葉を使ったね。あれは嫌味を込めたん?」
神野「まあ少し。一般論のフリして。結構耳が聞こえ難そうだったのに、補聴器を着けようとしなかった。それに、原告と目撃者の発言の食い違いをはっきりさせようとしなかったし」
仙人「触ったという回数の事やね? 大事な局面だというのに」

村井「『認知症発言』の件、山本さん笑っていたよ。苦笑いだけど。でもあの老裁判官、自分が嫌味を言われている事には気づかなかったんじゃないかな? 相手の顔見てニヤッとしながらだと気づくだろうけど。ヒロさん、明後日の方向見ながら淡々と話したろう」

神野「まあ…」
仙人「余裕があったんやな。落ち着いていたなあ」
神野「いや、あのね…それまでの公判での山本先生の質問が凄く良かったんで冷静に答えられてたんだわ。でもね、公判が終わってから、少し調子に乗り過ぎたかな…と少しは気になってた」

仙人「村井さん、山本弁護士は自信満々だったん?」
村井「まあこれはね、裁判官が他のまともな判事なら目撃者証言が終わった時点で勝利確信なんよ。ただあの老判事は判断
能力が当てにならないので一抹の不安はあったみたい」

神野「勝利確信というのは、『目撃者が偽証を認めた事により』やね?」
村井「そう。それとその前に老裁判官が意外にも被告人と目撃者の過去のしがらみに興味を示した事。これで偽証を暴き易くなったようだ」
神野「俺もあの時は意外で驚いた。あれ? この裁判官、思ってたより多少はマシかな? って」

村井「『過去のしがらみ』に、この事件が単純なモノでなく少し奥深さがあると感じたんじゃないかな?」
神野「裁判官の勘みたいな?」
村井「そう。そうだと思う」

仙人「刑事の勘みたいなもの?」
村井「多少惚けが始まってても、伊達にトシはとっちゃあいねえ…といったとこだろね」
仙人「単に興味深かっただけかもしれんし…」

神野「山本先生の突っ込みが鋭かったからね。見逃せなかったんだと思う」
村井「同感。オレもそう思う」
仙人「そうだな。うん、きっとそうだ」


 三人のトークはまだまだ続く。
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