35 / 42
第四章
第35話 公判・目撃者尋問5
しおりを挟む
裁判官の催促を受けて、弁護人は目撃証人に眼を移しながら、
「分かりました。それでは…目撃証人に確認しながら質問します。目撃証人、よろしいですね?」
「はい」
「目撃証人、貴女は10年ほど前に亡くなられた朱里エイコさんという女性歌手をご存じですか?」
「いいえ」
「被告人に確認しました。数年前、被告人がトレーニングを終えて帰ろうとした時、受付にいた貴女と眼が合いました。かって一世を風靡した女性歌手の死亡を、偶々この日知ったばかりの被告人は貴女に質問しました。『10年近く前に亡くなった朱里エイコさんを知ってる?』って。証人、思い出しましたか?」
「いいえ」
「じゃあ、続きを。当時貴女は知らなかったので、『知りません。どんな方ですか?』と答えました。そこで、被告人は説明しました。
『ジェット最終便という曲をミニのタイトスカートで膝をくねらし乍ら歌い踊る、こんな立派な胸をした脚線のすごくきれいな美人歌手』と。ジェスチャーで胸を強調しながらだったそうです。
で、ここまでにしておけば何の問題もなかったのですが、気安い貴女だからつい口が滑ったそうです。続けて、『奈穂ちゃんとは正反対の体形だね』って、大変失礼な事を言ってしまったそうです」
「………………」
「証人、思い出されましたか?」
「………………」
ここで、川野検察官から
「異議あり! 今の話と今回の裁判とどんな関係が有るんですか?」
「目撃証人は数年前に被告人から自分の身体の事で屈辱的な発言をされたのです。証人、そうですね?」
「その事と今回の事とは関係ありません」
「ほんとにそうでしょうか? 言わば、これはセクハラ発言ですよね。それ迄貴女は被告人と親しかったはずです。
被告人は言ってましたよ。『それ迄あんなに明るく愛想が良かったのに、いつの間にか随分不愛想になった。恐らく若い後輩の手前、少しお姉さんらしくしようとしているんだろうと思ってた』って。
だから私の事務所で、目撃証人が貴女で警察署での目撃者証言を読んだとき、相当なショックを受けてましたよ。ほんとはね、被告人は貴女に自分の人となりを証言して貰うつもりだったのですよ。
相当に考え考えぬいた結果、あのミス発言に行き着いたのです。貴女とは親しい間柄だから通じる冗談だと思ったのですね。乙女心が解らないのは被告人の罪です。
でもね、今回の裁判に関しては被告人には罪はありません」
「………………」
「貴女は自分に屈辱的な発言をした被告人をずっと憎んでいた。いつかチャンスがあれば…と機会を伺っていた。違いますか?」
「………………」
「異議あり! それは弁護人の推測ではないですか? 何の根拠も有りません」
「証拠はありませんが、根拠はあるでしょう。確かに推測ですが、明らかな動機になります。前回からの公判において、目撃証人が繰り返している偽証の明白なる動機でしょう」
「……でも、推測です」
「それでは最後に、目撃証人。この法廷で、貴女は何度も偽証発言をしようとしました。それらを全て撤回した以上、被告人から偽証罪で告訴される事はありません。しかしN警察署では初めに発言した内容で偽証していますよね? これについてはどのように対処するおつもりですか?」
「………………」
ここで、川野検察官、
「まあそれは、公判には影響ない事ですので……私が相談に乗ります」
「今後の公判には影響ありません。だが警察署での偽証がなければ捜査検察官が本件を起訴したかどうか?」
今度は、裁判官から、
「弁護人、そこまでにして下さい」
「はい。これで、弁護人からの尋問は終わります」
公判も白熱してくると結構疲れる。神野は、自分以上に野々宮奈穂は疲れた事だろうと思った。
神野は仙人といつも通りに昼食をして別れた。
(来月か。次はいよいよ自分の番だ)
「分かりました。それでは…目撃証人に確認しながら質問します。目撃証人、よろしいですね?」
「はい」
「目撃証人、貴女は10年ほど前に亡くなられた朱里エイコさんという女性歌手をご存じですか?」
「いいえ」
「被告人に確認しました。数年前、被告人がトレーニングを終えて帰ろうとした時、受付にいた貴女と眼が合いました。かって一世を風靡した女性歌手の死亡を、偶々この日知ったばかりの被告人は貴女に質問しました。『10年近く前に亡くなった朱里エイコさんを知ってる?』って。証人、思い出しましたか?」
「いいえ」
「じゃあ、続きを。当時貴女は知らなかったので、『知りません。どんな方ですか?』と答えました。そこで、被告人は説明しました。
『ジェット最終便という曲をミニのタイトスカートで膝をくねらし乍ら歌い踊る、こんな立派な胸をした脚線のすごくきれいな美人歌手』と。ジェスチャーで胸を強調しながらだったそうです。
で、ここまでにしておけば何の問題もなかったのですが、気安い貴女だからつい口が滑ったそうです。続けて、『奈穂ちゃんとは正反対の体形だね』って、大変失礼な事を言ってしまったそうです」
「………………」
「証人、思い出されましたか?」
「………………」
ここで、川野検察官から
「異議あり! 今の話と今回の裁判とどんな関係が有るんですか?」
「目撃証人は数年前に被告人から自分の身体の事で屈辱的な発言をされたのです。証人、そうですね?」
「その事と今回の事とは関係ありません」
「ほんとにそうでしょうか? 言わば、これはセクハラ発言ですよね。それ迄貴女は被告人と親しかったはずです。
被告人は言ってましたよ。『それ迄あんなに明るく愛想が良かったのに、いつの間にか随分不愛想になった。恐らく若い後輩の手前、少しお姉さんらしくしようとしているんだろうと思ってた』って。
だから私の事務所で、目撃証人が貴女で警察署での目撃者証言を読んだとき、相当なショックを受けてましたよ。ほんとはね、被告人は貴女に自分の人となりを証言して貰うつもりだったのですよ。
相当に考え考えぬいた結果、あのミス発言に行き着いたのです。貴女とは親しい間柄だから通じる冗談だと思ったのですね。乙女心が解らないのは被告人の罪です。
でもね、今回の裁判に関しては被告人には罪はありません」
「………………」
「貴女は自分に屈辱的な発言をした被告人をずっと憎んでいた。いつかチャンスがあれば…と機会を伺っていた。違いますか?」
「………………」
「異議あり! それは弁護人の推測ではないですか? 何の根拠も有りません」
「証拠はありませんが、根拠はあるでしょう。確かに推測ですが、明らかな動機になります。前回からの公判において、目撃証人が繰り返している偽証の明白なる動機でしょう」
「……でも、推測です」
「それでは最後に、目撃証人。この法廷で、貴女は何度も偽証発言をしようとしました。それらを全て撤回した以上、被告人から偽証罪で告訴される事はありません。しかしN警察署では初めに発言した内容で偽証していますよね? これについてはどのように対処するおつもりですか?」
「………………」
ここで、川野検察官、
「まあそれは、公判には影響ない事ですので……私が相談に乗ります」
「今後の公判には影響ありません。だが警察署での偽証がなければ捜査検察官が本件を起訴したかどうか?」
今度は、裁判官から、
「弁護人、そこまでにして下さい」
「はい。これで、弁護人からの尋問は終わります」
公判も白熱してくると結構疲れる。神野は、自分以上に野々宮奈穂は疲れた事だろうと思った。
神野は仙人といつも通りに昼食をして別れた。
(来月か。次はいよいよ自分の番だ)
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる