痴漢冤罪に遭わない為にー小説版・こうして痴漢冤罪は作られるー

門脇 賴

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第四章

第31話 公判・目撃者尋問

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 注目の目撃者証言の公判日。
 山本弁護人は勿論、神野も目撃者がストレッチ現場(前屈現場)をどこに証言するかに注目していた。この日の検察官尋問には前回とは別の少しキャリアの浅そうな青年が担当した。
 前回同様、偽証だらけだ。神野は怒りを抑えながら聴き入った。何度も弁護人に左手の合図を送った。
 
 腹筋台ではほんの一瞬、右手で背中下部に触れただけなのに、『何度も触っていた』とかストレッチ現場では尻だけを触り、『何度も上下に掌を動かしていた』とか酷いものだ。
 
 事前の現場検証で写真を何枚も撮ったそうであるが、神野は見せられなかった。これでは、偽証されていても判らない。
 問題のストレッチ現場は直接目にしたとき2~3メートルの距離だと証言した。これは明らかに原告が証言した位置に合致している。我々の現場検証の結果にも関わらず、”徹底偽証” で初志貫徹のようだ。
 それにしてもこの検察官、現場での流れを順に追っていこうとしない。腹筋台が終わればすぐストレッチに入る。どのようなルートで移動したかには無関心のようだ。事実の解明より有罪にする事にのみ関心があるのか、能力不足か?


 検察官の尋問・答弁を踏まえて山本弁護人の尋問が始まった。

「弁護人の山本です。本日はご苦労さま。数年前に貴女が被告人から不快な言動を受けたという話は本人から聴いています。被告人にとっては軽い冗談でも相手によってはそれでは済まされない事はありますよね。でも偽証をすれば相応の罪を問われます。先ほどの検察官の方との答弁には私が被告人から聴き、現場検証した事とはかなりの相違があります。一つずつ確認していきます。正直にお答えください」

「……」

「被告人を ”要注意人物” として気を付けて見ていたそうですが、何故ですか?」
「原告女性や他のスタッフに対しても胸が大きいとか、業務に関係ない話をするとかがあったんで」

「胸が大きい? それは褒められてるのではありませんか?」
「嫌がる人もいると思います」

「そんな人いますか? 小さいと言われて不快になるのは解りますが」
「……」

「それから、業務に関係ない話をして何が問題なんでしょうか?」
「仕事の邪魔になるから」

「貴女はしないんですか?」
「そんなにはしません」

「被告人の話では、貴女にはしょっちゅう声をかけられていたそうですよ、業務外の事で。貴女は、自分は声をかけるけど、相手からはかけられたくないんですか?」
「そんなにかけた憶えはありませんが」

「そうですか? 貴女が昔、巫女さんやっていたとか、彼氏と別れたとか、家のベランダから甲山がよく見えるとか、自転車で走っている被告人をよく見かけたとかずいぶん聞かされたそうですよ。
 ただ誤解しないように。被告人はそういう私的な話をしてくれる事を光栄に思っていたそうなんで。会員同士や会員とスタッフが親しくするのを被告人は望んでいます。それによりフロア内が明るくなり、会員も定着するのではないでしょうか。そうは思いませんか?」

「……、分かりません」

「それから、受付の後輩が、”腹筋台で原告が腹筋をさせられてる” とか言ってましたね? インストラクターは会員に腹筋台や他のマシンの使い方を教えるのが仕事なのに、腹筋をさせられているとはどういう事ですか? ごくごく普通の景色だと思いますが」

「原告の肩や背中を何度も触ってたんで」

「後輩がそう言ったんですか?」
「はい。私も見ました」

「またまた、おかしいですね。原告も被告人も1回と言ってます」
「私には何回かに見えました」

「その後輩も一緒に見たんですね?」
「はい」

「分かりました。その人に直接訊きましょう。お名前教えてくれますか?」
「後輩に迷惑が掛かるから…」

「何を言ってるんですか? 同僚が犯罪に遭ってると思ってるんでしょう? 事実を明らかにしましょう。明日にでもお会いしたいので」

 ここで、前回の検察官(こちらが先輩らしい)から声がかかる。

「待って! 今回の目撃者証言だけで十分では?」
「何を言ってるんですか? 証人は多いほど良いでしょう。それに目撃者と被告人の過去には避けて通れない出来事もあり、全面的な信頼はできないんですよ」

「えっ!」
「私は、後輩の話と言うのは目撃者の”偽証”の可能性を疑っています。そうでないなら、名前を明かして頂きます。裁判官、よろしいですね?」
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