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第四章
第28話 公判・原告尋問
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2回目の公判当日、神野は11時10分前に簡易裁判所に到着した。自転車を駐輪所に預けた後、トイレ経由で入廷する。
既に山本弁護人、仙人、村井邦彦も来ていた。3人に黙礼しながら、神野は被告席に着席する。神野の正面に裁判官席があり、すぐ斜め前に裁判所書記官、右側に山本弁護人、左側には2名の検察官が着席している。
後ろの傍聴席には仙人と村井邦彦がいる。裁判官の姿は見えない。11時を過ぎてから書記官が苦笑しながら携帯で催促した数分後に漸く老裁判官が入廷してきた。定年間際で、緊張感もないとみえる。
検察官の原告証言開始報告の後、待機していた大友裕子が後ろのドアーから入廷してきた。神野と大友裕子とは互いに姿は見えない。
検察官による尋問は一人の検察官により行われた。それに対する大友裕子の返答はひどいものだった。自分の意志によるものか野々宮奈穂の脳内操作によるものか? 返答の3分の2に神野は左手を上げた。メモも10か所ほど取った。
(あとは仙人に期待しよう)
次に、山本弁護人による尋問が始まった。
「被告人の弁護を担当する山本です。一つずつ確認しますので落ち着いてお答えください」
「………」
「最初に腹筋台を使う事になったのは、どちらからの意志ですか?」
「被告人からです」
「被告人は『原告から』と言ってますが、間違いないですか?」
「はい」
「じゃあ、被告人は何故貴女を腹筋台に誘ったのでしょうか?」
「やって見せて欲しいと言われてやって見せた時に、こういう角度かと言われながら触られました」
「触られた部位はどこですか?」
「太ももです」
「被告人は貴女が左手で自分の腰の角度を示しながら、『この角度が90度になるようにと言ったのでつられて右手で背中、左手はたぶん太ももに少し触れたかも』と言っています。それから原告は『太ももの真ん中あたりまで撫でられた』と言われましたね?」
「はい」
「被告人は『一回のみで、触れただけで撫でてはいない』と言ってますが、ほんとに撫でたんですか?」
ここで、検察官から
「裁判官! これは誘導尋問ではありませんか⁉」
裁判官が答える。
「弁護人は質問を変えて下さい」
「裁判官、先ほど検察官の尋問に原告が答えた内容と弁護人が予め被告人に確認した内容が正反対なんです。ここではっきりさせる必要があるのではないですか?」
「それは、被告人尋問の時にして下さい」
「じゃあその時、原告も呼んでもらえるんですね?」
「その予定はありませんが…」
「じゃあ、どうやって真偽を決定するんですか? 双方の言い分が真っ向から食い違っているのをどうやって判定するのですか?」
「そうですね。検察官、何か意見はありますか?」
「そうですね。少し、5分ほど時間頂けますか? 原告と話をしたいので」
「分かりました。では、隣の部屋をお使い下さい。弁護人、それでよろしいですか?」
「はい、どうぞよく話し合ってください」
2人の検察官と原告が一旦退廷した。
(これは面白くなってきた)
神野はこのチャンスに傍聴席を振り返ってみた。村井氏は何だか微笑んでいる。一方、仙人は少し顔を引きつらせている。人付き合いの得意な村井氏と職人気質の仙人は好対照をなしている。
目が合った時、村井氏はさらに微笑んだ。仙人は神野の顔をしっかりと見つめた。
(仙人、心配しなくていいんだよ。オレは落ち着いてるよ)
5分後、3人は入廷した。
席に戻った検察官が一言、
「ここで質問受けます」
「弁護人、もう一度質問をしてください」
「Oさん、私は無条件に被告人を無罪にしようとしているのではありません。真実はそれぞれの立場で微妙に違ってきます。できる限り客観的に事実を明確にしたいと思います。きちんと真実を話してくれますね。
それで被告人と食い違うなら、証拠を出し合うしかありません。今、あまりにも正反対なんで。
では改めて,お訊きします。被告人はOさんのジェスチャーにつられて『右手で背中の下に触れ、左手は腿のあたりに触れたかどうか』と言っています。ほんとにふと腿を撫でられましたか?」
「撫でられたと思います」
「それで、気持ち悪くなったんですか?」
「はい」
「腹筋トレーニングの指導をする時、会員が太ももに触れたり、仮に触ったりしたぐらいで気持ち悪くなりますか?」
「私はなりました」
「過敏症だと言われた事はありますか?」
「ありません」
「普通、ズボンの上から触れられたぐらいで気持ち悪くはなりません。貴女はインストラクターですよね?」
「はい」
「それから、角度を膝の角度じゃないかと言ってましたね?」
「はい」
「被告人はOさんが自分の腰の角度をジェスチャーで示しながら、『この角度が90度になるように…』と言ったのでつられて触れたかも…と言ってます。貴女は被告人が角度の事を言ったと言いましたね?」
「はい」
「それから、これは驚きましたが、『腹筋をするのに膝の角度がどうだとか意味が解らない』とか言われましたね?」
「はい」
「私はそれこそ意味が解らない。被告人ほど本格的ではありませんが、私も多少は筋トレも齧っているので言いますが、腹筋トレーニングと膝の角度は密接な関係がありますよ。貴女はそれが解らない?」
「………」
「ほんとに貴女、インストラクターですか?」
「………」
神野は思う。
(そうだ。法廷論争はこうでなくっちゃ)
既に山本弁護人、仙人、村井邦彦も来ていた。3人に黙礼しながら、神野は被告席に着席する。神野の正面に裁判官席があり、すぐ斜め前に裁判所書記官、右側に山本弁護人、左側には2名の検察官が着席している。
後ろの傍聴席には仙人と村井邦彦がいる。裁判官の姿は見えない。11時を過ぎてから書記官が苦笑しながら携帯で催促した数分後に漸く老裁判官が入廷してきた。定年間際で、緊張感もないとみえる。
検察官の原告証言開始報告の後、待機していた大友裕子が後ろのドアーから入廷してきた。神野と大友裕子とは互いに姿は見えない。
検察官による尋問は一人の検察官により行われた。それに対する大友裕子の返答はひどいものだった。自分の意志によるものか野々宮奈穂の脳内操作によるものか? 返答の3分の2に神野は左手を上げた。メモも10か所ほど取った。
(あとは仙人に期待しよう)
次に、山本弁護人による尋問が始まった。
「被告人の弁護を担当する山本です。一つずつ確認しますので落ち着いてお答えください」
「………」
「最初に腹筋台を使う事になったのは、どちらからの意志ですか?」
「被告人からです」
「被告人は『原告から』と言ってますが、間違いないですか?」
「はい」
「じゃあ、被告人は何故貴女を腹筋台に誘ったのでしょうか?」
「やって見せて欲しいと言われてやって見せた時に、こういう角度かと言われながら触られました」
「触られた部位はどこですか?」
「太ももです」
「被告人は貴女が左手で自分の腰の角度を示しながら、『この角度が90度になるようにと言ったのでつられて右手で背中、左手はたぶん太ももに少し触れたかも』と言っています。それから原告は『太ももの真ん中あたりまで撫でられた』と言われましたね?」
「はい」
「被告人は『一回のみで、触れただけで撫でてはいない』と言ってますが、ほんとに撫でたんですか?」
ここで、検察官から
「裁判官! これは誘導尋問ではありませんか⁉」
裁判官が答える。
「弁護人は質問を変えて下さい」
「裁判官、先ほど検察官の尋問に原告が答えた内容と弁護人が予め被告人に確認した内容が正反対なんです。ここではっきりさせる必要があるのではないですか?」
「それは、被告人尋問の時にして下さい」
「じゃあその時、原告も呼んでもらえるんですね?」
「その予定はありませんが…」
「じゃあ、どうやって真偽を決定するんですか? 双方の言い分が真っ向から食い違っているのをどうやって判定するのですか?」
「そうですね。検察官、何か意見はありますか?」
「そうですね。少し、5分ほど時間頂けますか? 原告と話をしたいので」
「分かりました。では、隣の部屋をお使い下さい。弁護人、それでよろしいですか?」
「はい、どうぞよく話し合ってください」
2人の検察官と原告が一旦退廷した。
(これは面白くなってきた)
神野はこのチャンスに傍聴席を振り返ってみた。村井氏は何だか微笑んでいる。一方、仙人は少し顔を引きつらせている。人付き合いの得意な村井氏と職人気質の仙人は好対照をなしている。
目が合った時、村井氏はさらに微笑んだ。仙人は神野の顔をしっかりと見つめた。
(仙人、心配しなくていいんだよ。オレは落ち着いてるよ)
5分後、3人は入廷した。
席に戻った検察官が一言、
「ここで質問受けます」
「弁護人、もう一度質問をしてください」
「Oさん、私は無条件に被告人を無罪にしようとしているのではありません。真実はそれぞれの立場で微妙に違ってきます。できる限り客観的に事実を明確にしたいと思います。きちんと真実を話してくれますね。
それで被告人と食い違うなら、証拠を出し合うしかありません。今、あまりにも正反対なんで。
では改めて,お訊きします。被告人はOさんのジェスチャーにつられて『右手で背中の下に触れ、左手は腿のあたりに触れたかどうか』と言っています。ほんとにふと腿を撫でられましたか?」
「撫でられたと思います」
「それで、気持ち悪くなったんですか?」
「はい」
「腹筋トレーニングの指導をする時、会員が太ももに触れたり、仮に触ったりしたぐらいで気持ち悪くなりますか?」
「私はなりました」
「過敏症だと言われた事はありますか?」
「ありません」
「普通、ズボンの上から触れられたぐらいで気持ち悪くはなりません。貴女はインストラクターですよね?」
「はい」
「それから、角度を膝の角度じゃないかと言ってましたね?」
「はい」
「被告人はOさんが自分の腰の角度をジェスチャーで示しながら、『この角度が90度になるように…』と言ったのでつられて触れたかも…と言ってます。貴女は被告人が角度の事を言ったと言いましたね?」
「はい」
「それから、これは驚きましたが、『腹筋をするのに膝の角度がどうだとか意味が解らない』とか言われましたね?」
「はい」
「私はそれこそ意味が解らない。被告人ほど本格的ではありませんが、私も多少は筋トレも齧っているので言いますが、腹筋トレーニングと膝の角度は密接な関係がありますよ。貴女はそれが解らない?」
「………」
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