痴漢冤罪に遭わない為にー小説版・こうして痴漢冤罪は作られるー

門脇 賴

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第三章

第22話 現場検証準備

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 10日ほどして山本弁護人から電話があった。原告は控訴は取り下げないし、原告、目撃者とも現場検証には立ち会わないそうである。本店長は警察官立ち会いなら、業務終了後、自分も立ち会うそうだ。
 その後、以前に担当したあまり品位のない警察官が立ち会う事になったそうであるが、詳しい話は後日という事でその日は電話を置いた。

 数日後、神野は山本法律事務所のいつもの部屋で山本弁護人と向かい合っていた。軽い世間話の後、弁護人が説明に入る。

「K社に本店長を訪ねました。予想通りですが、原告と目撃者は立ち会わないという事でした。本店長は自分が立ち会わないわけにはいかないのでそうするが、警察にも立ち会って欲しいとの事です。それで今度はN警察署に行き当時の担当警察の了承を得ました」

「ご苦労様です。原告、目撃者が立ち会わない事で何か違いはありますか、デメリットになるような?」

「いや、特には。原告が以前警察署で書いた現場でのそれぞれの立ち位置と神野さんの話がかなりずれているので先に確かめたかったのと、その結果も含めて話をすれば控訴取り下げも有りかなと…そう思ってたんで。
 現場検証を現場で確認するか法廷でするかの違いだけです。それに、却って立ち会わない方が良い事もあります」

「それは?」
「口裏合わせ。2人が立ち会うと口裏合わせがやり易くなる」

 神野、頷く。

「あの警察官と本店長は現場で何かする事はあるんですか?」
「別に何もないです。ただ立ち会うだけ」

「私が思うに…あの警察官は我々が如何に真剣に現場検証に取り組んでるかに驚くんじゃあないかな⁉」
「そうですね。見せつけてやりましょう」

「あ、ワクワクしてきた。被告人の私がワクワクするのはおかしいかな?」
「まあ、少し変わってますね。村井さんからいろいろ聞いてるので驚きはしませんが」

 神野、苦笑い。

「で、神野さん。あとは日程です。本店長は業務終了後という事で、土、日の17時以後か木曜なら良いとの事。警察官は木曜の方が好都合だそうです。ご自身が不都合になった時、代りの警察官を出しやすいようです」
「じゃあ、木曜日で決まりですね。

「そのようです。ところで、神野さんのお友達のK社の会員の方は木曜日、行けますか?」
「いつでも行けるようです」

「そうですか。では、来週で交渉します」
「よろしくお願いします。ところで、当日のスケジュール、どんな具合ですか?」

「先ずは、最初から2人の動きを再現します。それから、問題の前屈ストレッチ現場の特定ですね。次に、目撃者の最初の目撃位置の確認とそこから現場がどう見えるか確認します。直と鏡の両方で」
「分かりました。あの担当した警察官、2人に対してそれをやったのかな?」

「本来はやるべきですが私のところに届いてる資料から判断すると、やってないと思います」
「汚いメモ程度の図面でしたね」

「そうです。場所や距離もテキトーですし、被疑者に確認してもいない」
「うん、確かに」

「その後で、神野さんのお友達に測定してもらいます」
「彼は『仙人』と言います。一目見て納得できます」

「みたいですね。村井さんから聞いています」
「そうですよね。村井さんもユニークですけど」

「仙人さんの測定してくれた…」
「あっ、『仙人』に『さん』は要らないんです。『仙人』だけでいいんです。それでお願いします」

「ああ、そうなんですね。分かりました。『仙人』が測定してくれた数値を基に、私の方で完璧な現場の図面を作成します」
「よろしくお願いします。何だか楽しくなってきました」

「楽しがってる場合ではありません。問題は『目撃者からどのように見えたか』ですから。見えていたら、偽証を指摘するのが難しくなります。見えていなければ、偽証の指摘ができ易くなります」
「そうですね。ただ、最初の目撃位置である受付からは前屈現場は見えませんわ。早く自分の目で確認したいですね」

「当日はウチの秘書も連れて行きます」
「えっ、そうですか! 何をやってもらうんですか?」

「神野さんに痴漢される役」
「だから、やってないって!」

 両人、大笑い。
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