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第三章
第20話 山本弁護人の調査3
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「そうですか。そんな事があったのですか?」
山本弁護人は眼をテーブルに落として考え込んだ。神野が初めて見る表情だ。
「私もまさかと思いました。でも、これ以外には考えられないですわ。2年ほど前から不愛想になったように感じてはいたのですが、若い子が入ってきたので先輩らしくしているのかなあと思ってましたが、私を毛嫌いしていたようです。全然気が付きませんでした」
「女性は気に入らん事があっても黙ってツンツンするだけで相手に言わない事があるので、相手は分からないままという事もけっこうありますよ」
「今回の件が無ければ、一生分からないままでした」
「そうでしょうね。それでは確認ですが、神野さんは『亡くなられた女性歌手と正反対の身体』と言ったのですね?」
「そうです」
「彼女に直接、『胸が小さい』とか『脚が短い』とか言ったのではないんですね?」
「ええ、ストレートではないです。まあ、同じ事になりますが。勿論、冗談で…ですけど」
「だが、彼女はそうは取らなかった。そうですね?」
「ええ、たぶん。確かにあの時ムッとして、『失礼だね』と言ってました。その時は少し気になったんですが、すぐ忘れてしまいました。他愛無い冗談なので」
「でも、彼女にとっては冗談では済まなかった…と言う事のようですね」
「ええ、そう思います」
「かなり、外堀がはっきりしてきましたね」
「そうですね」
「外堀を埋めてしまえば良いんですが…」
「直接、本人と話し合う?」
「神野さんが一人で会ってはいけませんよ。先ず、私が会ってみようと思います」
「そうですか」
山本弁護人、意地悪気に、
「自分で会いたいですか?」
神野、苦笑しながら、
「いえ、別に」
「取り敢えずは、私が2人にそれぞれ面会を申し込みます。ただ、相手が受けるかどうかは分かりませんが」
「2人に? 原告、目撃者の2人ですね?」
「そうです」
「それぞれとは、別々にですか?」
「そうです。本音を聞くには個別が一番です。TVドラマでの容疑者尋問でもそうでしょう?」
「確かに」
「その結果に依りますが………、結果いかんで現場検証を行います」
「ええっと⁉ 具体的には?」
「先ず、腹を割って話してみて、告訴取り下げを打診します。取り下げてくれれば、終了ですね」
「取り下げなかった場合…」
「取り下げなかった場合および面会拒絶の場合は、現場検証を行います」
「それも拒否される事は有りませんか?」
「先日の本店長の様子からして拒否される事はないと思いますが、仮に拒否されれば警察官に立ち会ってもらいます。彼らは原告側だけ現場検証してます。これはバツですね。被告側にもする必要があります。この辺の事は大丈夫、お任せ下さい」
「了解です。お願いします」
「さてそれで……」
「………」
「現場検証になった場合ですが、神野さん、Kスポーツクラブの会員に親しい友人はいませんか? 現場検証の協力者ですが、理想的にはメジャーでの距離の測定ができればベストですがまあ難しくはないです」
すぐに神野の脳裏に浮かんだのは『仙人』である。仙人は建築・増築現場での水道工事を専門とする職人であり、このような作業はお手の物だ。
「ああ、それなら最適な友人がいます」
神野は村井氏もよく知っている仙人の人物像を簡素に説明した。
「よく分かりました。そういう人がいるのは心強いですね。じゃあその機会が生じた場合はお願いしたいので、早めに話しておいて頂けますか?」
「了解です。必ず、協力してくれます」
神野はスッキリした気分で山本法律事務所を後にした。
山本弁護人は眼をテーブルに落として考え込んだ。神野が初めて見る表情だ。
「私もまさかと思いました。でも、これ以外には考えられないですわ。2年ほど前から不愛想になったように感じてはいたのですが、若い子が入ってきたので先輩らしくしているのかなあと思ってましたが、私を毛嫌いしていたようです。全然気が付きませんでした」
「女性は気に入らん事があっても黙ってツンツンするだけで相手に言わない事があるので、相手は分からないままという事もけっこうありますよ」
「今回の件が無ければ、一生分からないままでした」
「そうでしょうね。それでは確認ですが、神野さんは『亡くなられた女性歌手と正反対の身体』と言ったのですね?」
「そうです」
「彼女に直接、『胸が小さい』とか『脚が短い』とか言ったのではないんですね?」
「ええ、ストレートではないです。まあ、同じ事になりますが。勿論、冗談で…ですけど」
「だが、彼女はそうは取らなかった。そうですね?」
「ええ、たぶん。確かにあの時ムッとして、『失礼だね』と言ってました。その時は少し気になったんですが、すぐ忘れてしまいました。他愛無い冗談なので」
「でも、彼女にとっては冗談では済まなかった…と言う事のようですね」
「ええ、そう思います」
「かなり、外堀がはっきりしてきましたね」
「そうですね」
「外堀を埋めてしまえば良いんですが…」
「直接、本人と話し合う?」
「神野さんが一人で会ってはいけませんよ。先ず、私が会ってみようと思います」
「そうですか」
山本弁護人、意地悪気に、
「自分で会いたいですか?」
神野、苦笑しながら、
「いえ、別に」
「取り敢えずは、私が2人にそれぞれ面会を申し込みます。ただ、相手が受けるかどうかは分かりませんが」
「2人に? 原告、目撃者の2人ですね?」
「そうです」
「それぞれとは、別々にですか?」
「そうです。本音を聞くには個別が一番です。TVドラマでの容疑者尋問でもそうでしょう?」
「確かに」
「その結果に依りますが………、結果いかんで現場検証を行います」
「ええっと⁉ 具体的には?」
「先ず、腹を割って話してみて、告訴取り下げを打診します。取り下げてくれれば、終了ですね」
「取り下げなかった場合…」
「取り下げなかった場合および面会拒絶の場合は、現場検証を行います」
「それも拒否される事は有りませんか?」
「先日の本店長の様子からして拒否される事はないと思いますが、仮に拒否されれば警察官に立ち会ってもらいます。彼らは原告側だけ現場検証してます。これはバツですね。被告側にもする必要があります。この辺の事は大丈夫、お任せ下さい」
「了解です。お願いします」
「さてそれで……」
「………」
「現場検証になった場合ですが、神野さん、Kスポーツクラブの会員に親しい友人はいませんか? 現場検証の協力者ですが、理想的にはメジャーでの距離の測定ができればベストですがまあ難しくはないです」
すぐに神野の脳裏に浮かんだのは『仙人』である。仙人は建築・増築現場での水道工事を専門とする職人であり、このような作業はお手の物だ。
「ああ、それなら最適な友人がいます」
神野は村井氏もよく知っている仙人の人物像を簡素に説明した。
「よく分かりました。そういう人がいるのは心強いですね。じゃあその機会が生じた場合はお願いしたいので、早めに話しておいて頂けますか?」
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