11 / 42
第二章
第11話 国選弁護人の仕事
しおりを挟む
神野は頭の中が真っ白になり、考えが浮かばなかった。
「ええっと?…」
「想定外だったか?」
「うん、全くの想定外。これ、常識?」
「うーん、まあオレにとってはそうだけど、結構みんな知らんのじゃないかな⁉」
「オレは何の疑いも持ってなかった。第一審で審議が尽くされたのなら、第二審でその裁判記録の再吟味で良いけれど、審議不十分とみて控訴した場合はどうなるん? 審議のやり直しが必要だと思うけど」
「まあ確かに、一理あるね。だが現実はそうはなってない。控訴の必要がないように、第一審でしっかり言い分を述べ合えという事だろう。そうでないと毎回最高裁まで行ってしまうからね」
暫く、沈黙が流れた。
神野は国選弁護人のレベルが気になった。
「なあ、村井さん。先日、国選弁護人を依頼したら『碌なんがこない』って言ってたけど、実のところどうなん? 碌なヤツしかこないん?」
「うん。たまたま真面目なヤツに当たれば良いけどさ。彼らは国の言いなりになるだけだから、調査はしないよ」
「調査? それは、聞き込みとか?」
「うん。それに現場検証」
「やらないって?」
「やらない。法律事務所で被告人から話を聴いたり、警察署での尋問調書を確認するぐらい。あ、それから原告や目撃者の供述とかも」
「それは彼らの供述の確認だけ? 被告人の供述との相違点とかは?」
「被告人の言い分も頭に入れるが、現場検証しないから事実は明らかにならない」
「そんなんで正当な判決が下せるん?」
「だから、冤罪だらけさ。痴漢犯罪の場合9割が実際やってるんで、有罪にしておけば9割が正しい判決になるのでね」
「じゃあ、あとの1割は冤罪?」
「そう。その他に優秀な弁護人により無罪が証明される場合と悪徳弁護人により有罪が無罪になる場合もある」
神野は愕然とした。言葉が出ない。
一呼吸おいて、村井が思わぬ提案をしてきた。
「それでねえ、ヒロさん。山本弁護士と相談したんだが、山本さんに弁護を依頼したら?」
「えっ、それは? 山本弁護士が弁護人になってくれるという意味?」
「そう。彼なら余計な費用を掛ける事なく精一杯やってくれるよ。痴漢事件のベテランほどスムーズにはいかないかもしれないが、冤罪にされることはないと思うよ。知人の弁護士には有罪と分かっていても無罪にするのがいるけどね」
「えっ、そうなん? それ、悪徳弁護士ちがうん?」
「そう思うだろうねえ、ヒロさんなら。世間では敏腕弁護士と言うけど」
「オレは正当に判定して欲しい、それだけ。きちんとした審議の結果、もしもオレのやった事がよ、相手にとって不快な事で『軽犯罪に該当する。故に罰金1万円』との判決が下りたら、腹から納得はできなくてもまあ一応の納得はするよ」
「ふふふ、やはりそう考えるか。だからこそ、山本弁護士は適任さ。決まったな」
神野は何だかホッとした。これほど自分の望んだ弁護人はいないだろうと思う。流石に、村井邦彦だ。良い友人を持っている。
その村井氏が面白い事を言った。
「まあ、ヒロさん。かの敏腕の悪徳弁護士が100%無罪にできるとして、誠実な山本弁護士なら95%無罪にできるよ」
じゃあ、5%は冤罪になるか⁉
「それでねえ、正式に弁護人依頼書を提出する前に一度山本弁護士に会っておいた方が良いと思うんで近々会えるね?」
「勿論。明日にでもお会いしたい」
「今夜、連絡取ってみるよ。今日、明日にでも折り返し連絡するわ」
「有難い。会うの楽しみだわ」
「ヒロさんと気が合う事だけは間違いない。で、前に話したと思うが直接弁護士に会った場合は1時間で1万円ぐらいは費用が掛かるから、それは良いね? その折り、おおよその費用の見積もりが出ると思う」
「分りましたよ、了解です。その席では、村井さんは?」
「うん、面白そうだからオレも同席させて貰うわ。本当はいけないかもしれないけど」
神野はにっこりと微笑んだ。
「ええっと?…」
「想定外だったか?」
「うん、全くの想定外。これ、常識?」
「うーん、まあオレにとってはそうだけど、結構みんな知らんのじゃないかな⁉」
「オレは何の疑いも持ってなかった。第一審で審議が尽くされたのなら、第二審でその裁判記録の再吟味で良いけれど、審議不十分とみて控訴した場合はどうなるん? 審議のやり直しが必要だと思うけど」
「まあ確かに、一理あるね。だが現実はそうはなってない。控訴の必要がないように、第一審でしっかり言い分を述べ合えという事だろう。そうでないと毎回最高裁まで行ってしまうからね」
暫く、沈黙が流れた。
神野は国選弁護人のレベルが気になった。
「なあ、村井さん。先日、国選弁護人を依頼したら『碌なんがこない』って言ってたけど、実のところどうなん? 碌なヤツしかこないん?」
「うん。たまたま真面目なヤツに当たれば良いけどさ。彼らは国の言いなりになるだけだから、調査はしないよ」
「調査? それは、聞き込みとか?」
「うん。それに現場検証」
「やらないって?」
「やらない。法律事務所で被告人から話を聴いたり、警察署での尋問調書を確認するぐらい。あ、それから原告や目撃者の供述とかも」
「それは彼らの供述の確認だけ? 被告人の供述との相違点とかは?」
「被告人の言い分も頭に入れるが、現場検証しないから事実は明らかにならない」
「そんなんで正当な判決が下せるん?」
「だから、冤罪だらけさ。痴漢犯罪の場合9割が実際やってるんで、有罪にしておけば9割が正しい判決になるのでね」
「じゃあ、あとの1割は冤罪?」
「そう。その他に優秀な弁護人により無罪が証明される場合と悪徳弁護人により有罪が無罪になる場合もある」
神野は愕然とした。言葉が出ない。
一呼吸おいて、村井が思わぬ提案をしてきた。
「それでねえ、ヒロさん。山本弁護士と相談したんだが、山本さんに弁護を依頼したら?」
「えっ、それは? 山本弁護士が弁護人になってくれるという意味?」
「そう。彼なら余計な費用を掛ける事なく精一杯やってくれるよ。痴漢事件のベテランほどスムーズにはいかないかもしれないが、冤罪にされることはないと思うよ。知人の弁護士には有罪と分かっていても無罪にするのがいるけどね」
「えっ、そうなん? それ、悪徳弁護士ちがうん?」
「そう思うだろうねえ、ヒロさんなら。世間では敏腕弁護士と言うけど」
「オレは正当に判定して欲しい、それだけ。きちんとした審議の結果、もしもオレのやった事がよ、相手にとって不快な事で『軽犯罪に該当する。故に罰金1万円』との判決が下りたら、腹から納得はできなくてもまあ一応の納得はするよ」
「ふふふ、やはりそう考えるか。だからこそ、山本弁護士は適任さ。決まったな」
神野は何だかホッとした。これほど自分の望んだ弁護人はいないだろうと思う。流石に、村井邦彦だ。良い友人を持っている。
その村井氏が面白い事を言った。
「まあ、ヒロさん。かの敏腕の悪徳弁護士が100%無罪にできるとして、誠実な山本弁護士なら95%無罪にできるよ」
じゃあ、5%は冤罪になるか⁉
「それでねえ、正式に弁護人依頼書を提出する前に一度山本弁護士に会っておいた方が良いと思うんで近々会えるね?」
「勿論。明日にでもお会いしたい」
「今夜、連絡取ってみるよ。今日、明日にでも折り返し連絡するわ」
「有難い。会うの楽しみだわ」
「ヒロさんと気が合う事だけは間違いない。で、前に話したと思うが直接弁護士に会った場合は1時間で1万円ぐらいは費用が掛かるから、それは良いね? その折り、おおよその費用の見積もりが出ると思う」
「分りましたよ、了解です。その席では、村井さんは?」
「うん、面白そうだからオレも同席させて貰うわ。本当はいけないかもしれないけど」
神野はにっこりと微笑んだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる