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第二章

第9話 腹心の友 仙人

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 村井氏に相談した後、神野は改めて考えてみた。主犯はどっちだ? 本店長か、おばさんか? 
 ”下手の考え、休むに似たり” か⁉ 考えるだけ無駄だ。専門家に任そう。

 翌日、神野はこの時点で親しい友人に話すべきか考えてみる。事が事だけに誰にでもと言うわけにはいかない。誰か話せる相手はいないか? 悩む必要などない。話せる相手と言えば彼しかいない。仙人だ。Kスポーツクラブで知り合ったラン友で神野の腹心の友である仙人にだけは話しておこう。
 その夜、仙人に電話してみた。Kスポーツクラブでの一件、N警察署での取り調べ、K地方検察庁でのやりとり、それに前日の村井氏への弁護人依頼相談を要領よく、要点を絞って話した。仙人は静かに聴き入っていたが、話が終わると即座に

「ヒロさん、おおよその事は解った。もっと詳しく聴きたいので、明日会おう。いつもの駅の改札出口でどう?」
「うん。話を聴いてくれるかい?」

「勿論。そんな話を聴かされて、じっとしてはいられんわ」
「有難い。じゃあ、いつもの駅の北出口で10時で良いかな?」

「決まった」
「じゃ、待ってる」

 男同士、打ち合わせはあっさりしたもの。
 電話の後、神野は考えてみる。仙人は目撃者でも何でもない。であれば、自分に有利になる証言が得られるとは思えない。でも、親友に話を聴いてもらえれば自分の気持ちはずっと落ち着くはずだ。

 翌朝10時過ぎ、2人は駅傍の馴染みの喫茶店で向かい合っていた。

「えらい目に遭ったな。初めてやろ?」
「まさかこんな経験、する事になるとは思わなかった」

「昨日の電話で一通りの事は解ったけど、もう一度ゆっくり聴かせてくれる?」
「うん、勿論」

 神野は改めてKスポーツクラブでの一件から村井氏への弁護人依頼相談までを、自分の推測を交えながら時間をかけてゆっくり話した。
 仙人は静かに聴き入っていたが、神野の話が終わるとすぐ、

「じゃあヒロさんは、大友は利用されただけだと思っているん?」
「うん。本店長はクレーマーとして、受付のおばさんは嫉妬でオレをマークしてたんじゃないかと」

「本店長が主犯の場合だけど、予め受付のおばさんにマークを依頼していた?」
「そう。だから主犯がどちらであっても受付のおばさんたちにマークされていたんだと思う」

「ああ、なるほど。スタジオのストレッチゾーンは受付からモロ見えなのでヒロさんとトレーニング仲間の様子は本店長にも
連絡はいってたという事か」
「たぶんね」

「N警察署では、5時間だって⁉」
「そうなんよ。暇な連中が入れ替わり立ち替わりやってきて、だらだらと…。今思えば、あれが彼らの作戦というか、常套手段だったのではないかと思う。しんどい事はしないで、とにかく『ハンさえ押させてしまえば勝ちだ』と。相手の精神的疲労を狙ってのいつものやり方だったのじゃないかと思う」

「ンンン…、ついうっかり押してしまった?」
「うん。まさか自分が普通にやってる事で裁判沙汰になるとは思いもしないからね。取り調べの事務的な手続きかと思っていたよ」

「素人の無知を利用した汚いやり方だな」
「TVドラマだと救いの神が登場するけどね。現実世界ではそうはいかんね」

「警察署の様子はだいたい解った。検察庁も杜撰だったそうやな⁉」
「K地方検察庁の検事はひどかったなあ。裁判に立ち会う公判検事に対して、現場検証とか捜査をして被疑者を起訴するかどうか判断するのが捜査検事なんだけど、あそこにはモアイ像みたいなのが居て、何の捜査もしないで警察署でサインした書類を簡略化した書類に捺印させられた。この時もまだ裁判沙汰になるとは思っていなかった。無知過ぎた」

「そこでは罰金10万円と言われたん?」
「モアイ氏は『略式裁判にすればすぐ終わり、罰金を拒否する場合は1日留置につき5千円免除、10万円だとしたら20日間』の留置と言ってたね」

「捜査をしない捜査検事か!」
「TVドラマに登場する捜査検事が本来の検事の姿だと思うが、現実社会ではそれは建て前のようだ。こんなんで良いのかな?」

「警察も検事もかなり杜撰だな」
「公平に判断しようとしていない。被疑者はとにかく起訴して、あとは裁判に任せれば良い。そう考えているようだ」

「いい加減だな…。最後に、私選弁護人に依頼する事は決めたん?」
「決めるまでに10日ほどあるけど、そのつもり。村井さんが紹介してくれるんで期待している」

「優秀な弁護人だと良いけどね」
「うん。あと4~5日で、彼から連絡がくると思う」

 2人は近くのレストランでランチをして別れた。
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