3 / 42
第一章
第3話 Kスポーツクラブ3
しおりを挟む
奈穂は仕切り屋タイプの冷静で頭の良い女だった。一方、裕子は口数の少ない他人の言いなりになるタイプの女だった。
奈穂は以前から、自分の復讐のために裕子を利用することを考えていた。
今そのチャンスがやってきたのである。
受付の後ろにある事務室に裕子を連れて行ったあと、奈穂は切り出した。
「内線は嘘。ねえ、大友さん。貴女さっき、神野さんにお尻触られていたでしょう」
「………」
「あの人、痴漢よ。受付でも、よく私や他の若い娘がキーを渡すとき手を触られているのよ。一度、本店長に相談しようと思ってたの。いい機会だわ。その前に貴女にも確認しておきたい。初め、腹筋台に行ったでしょう?」
奈穂は一気にまくし立てた。
「ええ」
「そのとき、触られなかった?」
「背中を少し触られたけど………」
「腹筋台には神野さんから誘ってきたん?」
「腹筋ができないって言うから、私から………」
「さっき前屈してた時は?」
「あれは神野さんから……。ランナーのストレッチングだけど、自分は腰が固くてできないからやってみてくれって言うから」
「通路から見てたけど、お尻思いっきり触られていたじゃない」
奈穂にとって、裕子を手玉に取るのは朝飯前だ。
「あの人、女の人に触る癖があるのよ。スタジオでもよく触っているし、受付でも私たちよく手を握られたりするのよ」
奈穂は更に続けた。
「私が証言するから本店長にはっきり言ったらいいわ。みんなが迷惑してるんで退会させてもらわないと。いいわ、私が本店長に電話してあげる」
(ついに、復讐の時がやってきた)
神野が会費の値上げやKスポーツクラブへの不満に切れて退会する意向であることを奈穂は知っていた。
(自分の意志通りの退会になどさせるものか。お前は痴漢としてKスポーツクラブを追われ、犯罪人として警察に思いっきりしぼられるのだ)
神野の退会の意向を知って殆ど諦めかかっていた復讐のチャンスの到来に、奈穂は色めき立っていた。
(千載一隅のチャンス! 逃してなるものか!)
奈穂は勢い込んで電話器を取った。その後、裕子を連れて本店に向かった。
2日後、ストレッチング中に神野は本店長に呼びかけられた。
「プライベートな話があるので会議室まで来て欲しい」
(日頃の自分のクレームに対する逆クレームか? それとも、経営の杜撰さやサービスの低下の大っぴらな指摘に対するクレームか?)
本店長の話は、奈穂の復讐心など全く気付かぬ神野にはただただ驚きであった。
自分がかって他のランナーから教えられた有効なストレッチングを、同じように他のアスリート仲間に教えて喜ばれていたのに、同じことをしてセクハラ扱いされるとは!
神野は本店長との激しいやり取りの中で、3つの可能性が頭をよぎった。
⑴ 大友裕子が極度な性的過敏症
⑵ 内線の連絡をしてきた受付の中年婦人の日頃からの嫉妬
⑶ 自分のKスポーツクラブに対するクレームに対する逆恨み
神野はこの時はまだ、この復讐劇が野々宮奈穂によるものだとは全く気付いてはいなかった。
この日は、大友裕子本人にもう一度確認してから警察に被害届けを出すかどうか決めるということで終わった。
数日後何の予告もなく、いきなり古いタイプのマシンが無くなっていた。とりわけステアマスターというクライミングマシンが無くなったのは神野には痛手だった。
トレイルランナーである彼にはバーティカルレース(登山レース)のトレーニングに欠かせない存在だったのである。
もはやKスポーツクラブには何の魅力も未練もない。
彼は躊躇なく10月限りでの退会を決めた。
その後、Kスポーツクラブからは何の連絡もなかった。
平穏に10月は過ぎていった。
神野はKスポーツクラブを退会した。
気持ちはGスポーツクラブに完全に切り替わった。
この時はまだ、野々宮奈穂の復讐劇が着々と進行していることを神野は知る由もなかった。
to the next Episode
奈穂は以前から、自分の復讐のために裕子を利用することを考えていた。
今そのチャンスがやってきたのである。
受付の後ろにある事務室に裕子を連れて行ったあと、奈穂は切り出した。
「内線は嘘。ねえ、大友さん。貴女さっき、神野さんにお尻触られていたでしょう」
「………」
「あの人、痴漢よ。受付でも、よく私や他の若い娘がキーを渡すとき手を触られているのよ。一度、本店長に相談しようと思ってたの。いい機会だわ。その前に貴女にも確認しておきたい。初め、腹筋台に行ったでしょう?」
奈穂は一気にまくし立てた。
「ええ」
「そのとき、触られなかった?」
「背中を少し触られたけど………」
「腹筋台には神野さんから誘ってきたん?」
「腹筋ができないって言うから、私から………」
「さっき前屈してた時は?」
「あれは神野さんから……。ランナーのストレッチングだけど、自分は腰が固くてできないからやってみてくれって言うから」
「通路から見てたけど、お尻思いっきり触られていたじゃない」
奈穂にとって、裕子を手玉に取るのは朝飯前だ。
「あの人、女の人に触る癖があるのよ。スタジオでもよく触っているし、受付でも私たちよく手を握られたりするのよ」
奈穂は更に続けた。
「私が証言するから本店長にはっきり言ったらいいわ。みんなが迷惑してるんで退会させてもらわないと。いいわ、私が本店長に電話してあげる」
(ついに、復讐の時がやってきた)
神野が会費の値上げやKスポーツクラブへの不満に切れて退会する意向であることを奈穂は知っていた。
(自分の意志通りの退会になどさせるものか。お前は痴漢としてKスポーツクラブを追われ、犯罪人として警察に思いっきりしぼられるのだ)
神野の退会の意向を知って殆ど諦めかかっていた復讐のチャンスの到来に、奈穂は色めき立っていた。
(千載一隅のチャンス! 逃してなるものか!)
奈穂は勢い込んで電話器を取った。その後、裕子を連れて本店に向かった。
2日後、ストレッチング中に神野は本店長に呼びかけられた。
「プライベートな話があるので会議室まで来て欲しい」
(日頃の自分のクレームに対する逆クレームか? それとも、経営の杜撰さやサービスの低下の大っぴらな指摘に対するクレームか?)
本店長の話は、奈穂の復讐心など全く気付かぬ神野にはただただ驚きであった。
自分がかって他のランナーから教えられた有効なストレッチングを、同じように他のアスリート仲間に教えて喜ばれていたのに、同じことをしてセクハラ扱いされるとは!
神野は本店長との激しいやり取りの中で、3つの可能性が頭をよぎった。
⑴ 大友裕子が極度な性的過敏症
⑵ 内線の連絡をしてきた受付の中年婦人の日頃からの嫉妬
⑶ 自分のKスポーツクラブに対するクレームに対する逆恨み
神野はこの時はまだ、この復讐劇が野々宮奈穂によるものだとは全く気付いてはいなかった。
この日は、大友裕子本人にもう一度確認してから警察に被害届けを出すかどうか決めるということで終わった。
数日後何の予告もなく、いきなり古いタイプのマシンが無くなっていた。とりわけステアマスターというクライミングマシンが無くなったのは神野には痛手だった。
トレイルランナーである彼にはバーティカルレース(登山レース)のトレーニングに欠かせない存在だったのである。
もはやKスポーツクラブには何の魅力も未練もない。
彼は躊躇なく10月限りでの退会を決めた。
その後、Kスポーツクラブからは何の連絡もなかった。
平穏に10月は過ぎていった。
神野はKスポーツクラブを退会した。
気持ちはGスポーツクラブに完全に切り替わった。
この時はまだ、野々宮奈穂の復讐劇が着々と進行していることを神野は知る由もなかった。
to the next Episode
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる