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第9話 春、雪解けのバンフ
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当初1か月の予定だったバンフでのスキーは3カ月満喫してシーズンオフとなった。顔は黒人に引けを取らないぐらい真っ黒になっていた。2月19日から5月22日までの93日のうち、実に77日のスキー三昧であった。
使わなくなったスキー板を日本に送ろうと、郵便局やらCPR(カナダ太平洋鉄道)バンフ駅に行って聞いてみたが取り扱っていないとの事。OKショップのマリちゃん(近江屋のユキの新婚妻)にも訊ねてみたが、JALも日本通運もカルガリーにはないそうだ。さて、どうするか?
ある日、図書館から帰るとヒロの友達のジャックさん(日本人)が女性連れで来てたので遠慮して外出したら久しぶりにユウコに遇った。誘われるまま同じマンションにあるお宅にお邪魔させてもらった。
ご主人のマーチンも在宅で3人で英語と日本語のチャンポンにユウコの通訳も交えて少し話をした。
「先日、ヒロが映画館から帰った時、軽い気持ちで、"How was the Movie?" と英語で訊いてしまって怖ろしい事になっている。それからずっと、彼は英語しか話さなくなった」
「へ~え、それは大変。マーチン、…………………」
「それは良い事です。英英辞典をお貸しします。英語で考える習慣が身に付きます」
「それは英語の授業でも聞いたことがある。確かにそうだとは思う」
「これを使ったら良いです」
マーチンが英英辞典を貸してくれた。
ユウコが補足。
「分らない単語を英英辞典で引くと、また分らない単語が出てきて大変だけど…」
「そうだねえ」
でも結局、一度も使わなかった…と、思う。
6月になった。前日訪れたFenlandに再度足を運んでみた。横を流れる川で2匹の鼠のような小動物が泳いでいたのが気になっていた。英和辞典を引きながら立札を読んでいたら樹の間から何やら大きな動物が現れた。ドキッとしながらも眼が惹きつけられる。最初、エルクかなと思ったがちょっと違う。しばし、微動だにせず睨めっこ。少しずつ近づいて数メートルまで接近。2本の角の先端がT字型になっているのが印象的だ。私を気にする事なくゆっくり草を食べ始めた。穏やかな時間がゆっくりと流れる。そこに2人のマラソンマンが通りかかった。その瞬間、その動物は逃げ去った。あ~あ、このマラソン野郎め!(怒)
帰ってヒロに訊いてみた。
(全て、実際は英語でのやりとり)
「師匠、さっきFenlandで鹿のようなでかい動物を見たよ。角の先端がT字になってたが、あれは何かな?」
「T字?」
「ああ、T字だった。エルクほどカッコよくはなかった」
「ムースじゃないかな? ちょっと待って!」
ヒロは絵本を出してきた。数ページ、めくった後、
「これじゃない?」
「いや、違う。角が全然違う。でも顔は似てるなあ」
「たぶん、ムースだ。成長するとこんなになる。今、春になったばかりだから角が伸びてる途中なんだよ、きっと。いやあ社長、良いもの見たなあ。俺はバンフに来て3年になるけど、一度も見た事ないよ。たぶん、日本人誰も見てないと思う」
「そうなん、ラッキー。カメラ持ってきゃ良かった。残念」
その後、何度もFenlandには足を運んだが、二度とこの動物には遇えなかった。
この日夕食後、ヒロと2人でバンフスプリングスホテルが見下ろせる高台にあるとある劇場にRCMPバンド(王立カナダ騎馬警察バンド)の演奏会を聴きに行ってきた。以前、指揮者の小澤征爾氏がタクトをふるったこともあるという。
最後に『My Way』が聴けてとても良かった。このヴォーカリストは歌手になっても十分通用する歌唱力だった。
帰りにBow Fallとバンフスプリングスホテルを上から見下ろしてきた。ライトアップされたホテルの全景がきれい。
10日後にジャスパーまでサイクリングでソロ・ツァーをする事を決めた。
スキーシーズン中から考えていた事である。ヒロに遇う前には考えられもしない事だった。バイクも彼に借りられる。
77日間のスキーで鍛えたとはいえ、サイクリングはまた違うと思うので練習がてら近くの小さな3つの湖をサイクリングしてみた。脚力は健在なり。
翌日、逆方向のトンネル山に登ってみる事にした。麓までサイクリングして、その後頂上まで登ってみた。バンフの街全体が見渡せた。以前にマウントノーケイ・スキー場からの方角は北から南だったが、今回は北東から南西のようだ。
部屋でジャスパーへのサイクリングの事を考えていたら、居候のケンちゃんがやってきてゴルフに誘われた。日本では札幌に居た時に2度打ちっぱなしをしただけである。
カナダは日本と違ってのんびりしてるので、下手でもいいからゆっくり回れば良いと気楽に誘われたので気楽に参加することにした。メンバーはオ-ル日本人で、ケンチャン、ユキ・マリちゃん夫妻、近江屋のコックの小林さんとショーちゃんに自分の6人。
O.K.ショップのオーナーの大橋巨泉もバンフに来る時は必ずプレイするという有名なバンフスプリングスホテル直営のゴルフ場である。
道具一式、ホテルでレンタルして練習なしで即プレイ。脚を引っ張ったかどうか分からないが、アウト101、イン81が記念すべき私の初ゴルフ成績である。相当酷いらしいが、知った事か!
終了後、小林さん宅で夕食をご馳走になった。ここで、小林さんとケンちゃんが一悶着あったが、酒の席の悶着など私は知らん。結局、この日から3日連続でメンバー変更でプレイした。
ジャスパー行きが3日後に迫ってきた。近くの修理屋でギヤー、ブレーキ、タイヤetc.を修理してもらった。又、空気入れ、タイヤのパンク修理道具を購入し、準備万端。
夕方のプロボクシング中継まで時間があったので、再度Fenlandまで足を運んでみた。雪解け水に前夜の大雨が加わり、森の中の川沿いの細道は川と一体になっていた。取り敢えず水のない逆回りコースを歩いてみた。川沿いの細道に回り込んですぐの川の向こう岸にムースを発見した。ヒロに写真を見せて貰った角の成長した大物だった。途中で遇ったカップルも一緒に、今度はじっくり鑑賞できて大満足だった。
ムースが去った後、今度は以前に見かけて気になっていた鼠のような小動物が泳いでいるのを目撃。一度見失った後、先に行ったカップルが手招きしてくれたんで行ってみると先ほどの小動物が木の実を食べていた。マスクラットだそうである。
その後、車で来ていたカップルはマンション近くまで送ってくれた。良い人達だった。
使わなくなったスキー板を日本に送ろうと、郵便局やらCPR(カナダ太平洋鉄道)バンフ駅に行って聞いてみたが取り扱っていないとの事。OKショップのマリちゃん(近江屋のユキの新婚妻)にも訊ねてみたが、JALも日本通運もカルガリーにはないそうだ。さて、どうするか?
ある日、図書館から帰るとヒロの友達のジャックさん(日本人)が女性連れで来てたので遠慮して外出したら久しぶりにユウコに遇った。誘われるまま同じマンションにあるお宅にお邪魔させてもらった。
ご主人のマーチンも在宅で3人で英語と日本語のチャンポンにユウコの通訳も交えて少し話をした。
「先日、ヒロが映画館から帰った時、軽い気持ちで、"How was the Movie?" と英語で訊いてしまって怖ろしい事になっている。それからずっと、彼は英語しか話さなくなった」
「へ~え、それは大変。マーチン、…………………」
「それは良い事です。英英辞典をお貸しします。英語で考える習慣が身に付きます」
「それは英語の授業でも聞いたことがある。確かにそうだとは思う」
「これを使ったら良いです」
マーチンが英英辞典を貸してくれた。
ユウコが補足。
「分らない単語を英英辞典で引くと、また分らない単語が出てきて大変だけど…」
「そうだねえ」
でも結局、一度も使わなかった…と、思う。
6月になった。前日訪れたFenlandに再度足を運んでみた。横を流れる川で2匹の鼠のような小動物が泳いでいたのが気になっていた。英和辞典を引きながら立札を読んでいたら樹の間から何やら大きな動物が現れた。ドキッとしながらも眼が惹きつけられる。最初、エルクかなと思ったがちょっと違う。しばし、微動だにせず睨めっこ。少しずつ近づいて数メートルまで接近。2本の角の先端がT字型になっているのが印象的だ。私を気にする事なくゆっくり草を食べ始めた。穏やかな時間がゆっくりと流れる。そこに2人のマラソンマンが通りかかった。その瞬間、その動物は逃げ去った。あ~あ、このマラソン野郎め!(怒)
帰ってヒロに訊いてみた。
(全て、実際は英語でのやりとり)
「師匠、さっきFenlandで鹿のようなでかい動物を見たよ。角の先端がT字になってたが、あれは何かな?」
「T字?」
「ああ、T字だった。エルクほどカッコよくはなかった」
「ムースじゃないかな? ちょっと待って!」
ヒロは絵本を出してきた。数ページ、めくった後、
「これじゃない?」
「いや、違う。角が全然違う。でも顔は似てるなあ」
「たぶん、ムースだ。成長するとこんなになる。今、春になったばかりだから角が伸びてる途中なんだよ、きっと。いやあ社長、良いもの見たなあ。俺はバンフに来て3年になるけど、一度も見た事ないよ。たぶん、日本人誰も見てないと思う」
「そうなん、ラッキー。カメラ持ってきゃ良かった。残念」
その後、何度もFenlandには足を運んだが、二度とこの動物には遇えなかった。
この日夕食後、ヒロと2人でバンフスプリングスホテルが見下ろせる高台にあるとある劇場にRCMPバンド(王立カナダ騎馬警察バンド)の演奏会を聴きに行ってきた。以前、指揮者の小澤征爾氏がタクトをふるったこともあるという。
最後に『My Way』が聴けてとても良かった。このヴォーカリストは歌手になっても十分通用する歌唱力だった。
帰りにBow Fallとバンフスプリングスホテルを上から見下ろしてきた。ライトアップされたホテルの全景がきれい。
10日後にジャスパーまでサイクリングでソロ・ツァーをする事を決めた。
スキーシーズン中から考えていた事である。ヒロに遇う前には考えられもしない事だった。バイクも彼に借りられる。
77日間のスキーで鍛えたとはいえ、サイクリングはまた違うと思うので練習がてら近くの小さな3つの湖をサイクリングしてみた。脚力は健在なり。
翌日、逆方向のトンネル山に登ってみる事にした。麓までサイクリングして、その後頂上まで登ってみた。バンフの街全体が見渡せた。以前にマウントノーケイ・スキー場からの方角は北から南だったが、今回は北東から南西のようだ。
部屋でジャスパーへのサイクリングの事を考えていたら、居候のケンちゃんがやってきてゴルフに誘われた。日本では札幌に居た時に2度打ちっぱなしをしただけである。
カナダは日本と違ってのんびりしてるので、下手でもいいからゆっくり回れば良いと気楽に誘われたので気楽に参加することにした。メンバーはオ-ル日本人で、ケンチャン、ユキ・マリちゃん夫妻、近江屋のコックの小林さんとショーちゃんに自分の6人。
O.K.ショップのオーナーの大橋巨泉もバンフに来る時は必ずプレイするという有名なバンフスプリングスホテル直営のゴルフ場である。
道具一式、ホテルでレンタルして練習なしで即プレイ。脚を引っ張ったかどうか分からないが、アウト101、イン81が記念すべき私の初ゴルフ成績である。相当酷いらしいが、知った事か!
終了後、小林さん宅で夕食をご馳走になった。ここで、小林さんとケンちゃんが一悶着あったが、酒の席の悶着など私は知らん。結局、この日から3日連続でメンバー変更でプレイした。
ジャスパー行きが3日後に迫ってきた。近くの修理屋でギヤー、ブレーキ、タイヤetc.を修理してもらった。又、空気入れ、タイヤのパンク修理道具を購入し、準備万端。
夕方のプロボクシング中継まで時間があったので、再度Fenlandまで足を運んでみた。雪解け水に前夜の大雨が加わり、森の中の川沿いの細道は川と一体になっていた。取り敢えず水のない逆回りコースを歩いてみた。川沿いの細道に回り込んですぐの川の向こう岸にムースを発見した。ヒロに写真を見せて貰った角の成長した大物だった。途中で遇ったカップルも一緒に、今度はじっくり鑑賞できて大満足だった。
ムースが去った後、今度は以前に見かけて気になっていた鼠のような小動物が泳いでいるのを目撃。一度見失った後、先に行ったカップルが手招きしてくれたんで行ってみると先ほどの小動物が木の実を食べていた。マスクラットだそうである。
その後、車で来ていたカップルはマンション近くまで送ってくれた。良い人達だった。
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